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学校と言っても、礼拝堂を改装したようなこじんまりとした建物だった。児童は20人程度で、教えるほうも修道服を着た男が2人。人数が少ないせいか、児童と先生の距離が近い。このアットホームな雰囲気が、僕は実は苦手だ。
洗面所のくすんだ鏡を覗き込んで、僕は言葉を失った。鏡の中の自分があまりに幼かったためである。
短い手足、柔らかい頬。大きな目。
どう見ても、小学1年か2年くらいの歳の子供である。おかしいな。昨日まで僕は二十歳過ぎのニートだったのに。
若返った体、魔法、中世風の風景。
これは夢なのだろうか。だが、どれだけきつく頬をつねっても目が覚めない。つねった頬が痛くて手で押さえた。
そもそも僕は自殺して死んだはずだった。もしかして、あそこからすでに夢だったのではないか。だが、それにしては感覚が生々しかった。今でも、首にひもが巻き付く感触がよみがえって気持ちが悪い。
自殺が成功していたとして、これが夢ではないとして、これはもしや――。
「せんせー、ハジメくんがずっと鏡を見つめています」
「自分の顔にうっとりしているんだね。気持ち悪い」
同級生たちの言葉で、思考が一気に吹き飛んだ。彼らは特に悪気もなく、自分たちの席に着いた。僕は恥ずかしさで真っ赤になってしまい、早く家に帰りたかった。
教材は学校に置いておいて良いので、僕たちは手ぶらで帰ることが出来た、学校はお昼過ぎに終わった。僕はそれが嬉しかった。学校と言うのはどの時代においても嫌なものだなあと思った。いじめられたわけではないけれど、なんとなく、自分の存在が浮いているような気がして。
家が近い子供たちは徒歩で帰ることが出来るけれど、遠い子たちはそうも行かない。あの例のおじさんをつかまえて、送ってもらわなければいけない。
瞬間移動をするおじさんは何人かいて、家が近い子同士でペアを組まされ、送迎を行うことになっていた。そういえば、行きは僕一人だった。僕にペアはいないのだろうか。
順番が来て、僕はおじさんの手を握った。瞬きをしている間に家に帰ることが出来た。