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頑張ります
外から小鳥たちのさえずりがきこえた。ガラスの張っていない窓から朝日が柔らかく差し込んでいる。天井には太い丸太がいくつも連なっていて、その隙間から生命力の強い名前のよくわからない草が生えている。
「あれ? 僕、死んだはずじゃ……」
自分の声の高さに驚いて跳ね起きた。何だこの部屋。なぜ僕は謎解き冒険ゲームの主人公の自室みたいな部屋で寝ていたんだ? 夢でも見ているのだろうか。
首を傾げていると、階下から声がした。「いつまで寝ているのー。 早く起きなさーい」母だった。
僕は「はあーい」と妙に甲高い声で返事をし、急な階段を下りて行った。
「冷めちゃったじゃないのよ、もう」
振り返った母の顔を見て少し安心した。よかった。ちゃんと母だ。いつもより少し若いような気もするし、服装もなんだか中世ファンタジーのおばちゃんみたいな感じだが、概ね母だった。
その時、キッチンで鈍い爆発音がした。
「お母さん、今、何をした?」
「何って、竈に火をつけたんだけど?」
炎が暗い穴の中で勢いよく燃えている。スープがグツグツと煮えたぎり始めた。母は火元に指先をかざした。すると、あっという間に火が小さくなって消えた。竈にスイッチの類は見当たらない。僕が竈を見ながら首を傾げていると、母は得意そうに笑った。
「驚くわよね。私も子供の頃はそうだったもの。これは魔法というのよ。大丈夫、あなたもすぐ使えるようになるから」
僕の家は開けた土地の隅にあった。見渡す限りに緑が広がっており、牛が数頭、のんびりと草を食んでいる。家屋はほとんど見当たらず、相当田舎のようだ。
僕は母に連れられて、木のポールが立ててあるところまで歩いた。そのすぐ横には修道士のような恰好をした初老の男が眠そうに立っていた。
「それじゃあ、今日もよろしくお願いしますね」
「わかりました。お母さんにも神のご加護を」
僕は母に促されて、おそるおそる男の手を握った。瞬間、冷たい突風が吹いて、僕は思わず目を閉じた。そして、次に目を開けたときには学校の正門前にいた。