慈愛を贋した理由
厄介なのは、後から関係が良くなってしまう場合さ。
最初から盲目なのと、徐々に盲目になるのとでは度合いが違うんだよ。
それがお互いなら、尚のことね。
学生時代の夢なんてどのくらいぶりだろう。
もう六年も前のことなのに。永い人生の、たった六年、僕は色々変わった。
見える所も見えない所もたくさん変わった。同じくらいに、見える所も見えない所も、そのまんまだったりする。りたちゃんも、藤代くんも、文也兄さんも、変わったようでそのまんまで、変わらないようで何かしら進展している。
ただ変わらないだけの人間なんて故人くらいだ。
笑美子さんは今でも、時々記憶のなかで無邪気に微笑みかけ、先日亡くなったばかりの月乃さんは、世間で扱われている犯罪者とは無縁の、ふわふわほんわかした仕草で、脳裏に現れる。
そうだ。彼女は犯罪者なのだ。犯罪者のまま死んだのだから。
「りた、どうしてる、」
内緒でりささんに呼び出されたのは、月乃さんの事件が世間から色褪せてきたころだった。
「思ったより、落ち着いています。」
「……外面上は。」胸の内で付け足した。
本当は涙も声も出せないくらい、内面はずたずただったけど、りささんには伝えるべきでないと悟った。
「そう、」
りささんもある程度察したらしく、あまり探ってこなかった。
この六年間で、りささんとは数回、会った。
りたちゃんなりの『ちょうどいい距離』もあったのであまり深い親交は持たなかったけれど、藤代くんに付き添って、顔を合わせることがごくたまにあったのだ。
そんな流れで交換した連絡先から呼び出された目的を、僕は彼女と顔を合わせた瞬間に把握していた。
正確には、彼女の腕に居る乳飲み子を見た瞬間、だ。
「月乃の子。」
りたちゃんの話が簡潔に済んですぐ、りささんは簡潔に紹介した。
そこから、簡潔にはいかない乳飲み子の現状を、説明してくれた。
月乃さんが死の直前に産んだ子は、一旦はご主人側の親族に引き取られた。しかし、もとより気紛れだったのか、やはり拒絶感が生じたのか、間を置いて引き取り手について親族間で揉めだした。
「遠野家で育てることにしたの。」
親族が施設という結論を出す前に、りささん夫婦はどうか引き取らせてもらえないかと直談判したところ、あっさりと承諾されたのだという。戸籍の移動にはまだまだ時間が掛かるが、この子自体は早々に受け渡してもらえたと、りささんは複雑な笑みを落とした。
「大変…ですね。」
それしか出てこなかった感想に対して、りささんは首を振った。
「理喜にも弟ができるし、結構、楽しみ。」
次の笑みは明るかった。理喜くんは、僕とりささんが初めて出逢ったときに身籠っていた赤ちゃんだ。もうすぐ六歳になる。
「あの子は、許してくれると思う?」
僕もそれだけが気がかりだった。あの子……りたちゃんだ。
「許すはずがありません。」
率直に言った。
続けて、それは僕にもどうにもできません、と先手も打った。
「あなたたちの選択には…尊敬、します。でも、それでも僕は、りたちゃんの味方を辞めたくないんです。」
りささんを責めるつもりは無かったけれど、僕の意向に彼女は、野暮であったと謝罪してきた。
僕は慌てて両手を左右に振る。
「君依、男っぽくなった。」
りささんはくすりと笑う。「男らしくなった、」でも「大人っぽくなった、」でもなく、「男っぽくなった。」という表現に色々意味を巡らせたが、りささんの表情から一応賞賛であるのだろうと、有難く受けとめることにした。
「私から、きちんとりたに話す。」
納得したように宣言したりささんの腕で、月乃さんの子がぐずついた。
生後四ヶ月の男の子。
名前は、星史というらしい。
せいじ、です。『星』に歴史の『史』で、『星史』。
生前の月乃さんが最後に遺した言葉だった。
彼女はなぜ、最愛の夫を手にかけ、最愛になるはずだった息子を産み落とし、自らの命を絶ったのだろう。彼女の死が褪せてきた今、当時散々ニュースや週刊誌で騒がれていた疑問に、やっと追いついた。
夫婦になって五年、共に歩んできた伴侶と、念願の命。なぜ、その両方を自ら手放したのだろう。
「両方、最愛だったからだよ、きっと。」
藤代くんの一意見だ。もっと深く請うと彼は、「これ以上は聞かないほうがいい。きっと不快な思いをさせる。」と、僕との関係を優先させた。
彼はいつか月乃さんを、大嫌いだと、ろくな女じゃないと批判していた。
その過去を踏まえつつ僕は彼に答えを求めたのだけど、もうやめておいた。
今僕は、月乃さんが嫌いだ。
藤代くんに同調したのではない。世間に流されたのでも、犯罪者として軽蔑しているのでもない。星史に同情しているのとも違う。
でも嫌いだ。
優しくて朗らかで、前向きで努力家で、誰かを恨もうともしない、透明感のある、ふわふわほんわかした美人で、親しくなってみれば馬も合った。
だけど大嫌いだ。邪魔なんだ。結婚しても、何年経っても、子を産んでも、そして死んでさえも、りたちゃんの中に居続ける彼女が。
本当に、ろくな女じゃない。
理不尽な私怨に自己嫌悪した僕は、本当に自分は変わったのだと無理に片づけた。
星史の件が穏当に終わるはずがなかった。
仕事あがりに何件も入っていたりささんからの着信を繋げると、彼女は珍しく狼狽した様子で、事の経緯を語った。
ふざけるな
どこまで月乃をばかにするつもり
またあの子から何もかも奪う気なの
一対一での説得のなか、りささんに浴びせられた怒号の一部だ。
箍が外れたように怒り狂うりたちゃんが、容易に目に浮かんだ。
事件以降、月乃さんにまつわるすべてに、心を閉ざしていたのだ。そこにきて、過去月乃さんから想い人を奪った姉が、今度は月乃さんの遺児の親になると宣言してきた。激高するのも無理はない。
りたちゃんは強引に星史を連れ去り、マンションに立て籠もった。
りささんがどんなに呼びかけても、インターホンやスマホを鳴らしても、何の反応もみせない。
星史の身が心配だ。しかし事を荒立てて妹を犯罪者にしたくない。大ごとになれば親権も失ってしまう。マンションに灯りが点らない。もしかしたら中に居ないのかもしれない。鍵がかかって入れない。どうしたらいいかわからない。
八方ふさがりの不安に、りささんは僕に助けを求めるしかなかったのだ。少なくとも僕なら、マンションに入ることはできる。
「すぐに帰りますから、落ち着いてください。」
電話口で彼女を宥めた。
マンションに着くと、りささんは扉の前でしゃがみこんで頭を抱えていた。
不用意に刺激しないでください。約束した上で鍵をあけると、チェーンはかかっていなかった。玄関では文遠が尻尾を振っている。
「りささん、ここで待っててもらえますか、」
僕は安心して言った。
憔悴しきった彼女には酷だったかもしれないけれど、ここは譲れなかったのだ。
「大丈夫、甘えてるだけです。」
もう一度、りささんを宥めた。
僕も一概に、文也兄さんのこと、言えなくなってきたな。
キッチン、リビング、寝室。順番に見渡す限り、りたちゃんはどこにも居なかった。
文遠が誰もいない寝室で、また尻尾を振っている。
ああ、そっか。
「りたちゃんみっけ、」
カーテンを捲りながら、僕はふざけた。
寝室の二段ベッド、永いこと封印されていた上段の片隅で、りたちゃんは怯えるように隠れていた。
月乃さんの忘れ形見を抱きしめながら蹲り、僕を睨んでいる。奪われてたまるかと、威嚇するように、とめどない涙を流しながら睨んでいる。
「あんまり、月乃さんに似てないね、」
星史を覗きこんで僕は言った。彼を抱きしめる手が、震えている。
「男の子って、お母さんに似るのにね、」
のんきに、一方的に、僕は話しかけた。
「……っくり、よ、」
嗚咽混じりの湿った声が、やっときこえた。
「そっくり、よ。…目尻、と……くちもと、…あの子の、まんまじゃない、」
ぐちゃぐちゃに泣きながら、りたちゃんは静かに言った。
眠る星史を起こさぬよう、僕も声をひそめる。
「そうかな、よく、わかんないや。」
「よく、…見なさいよ。こんな…かわいいじゃない。月乃…そっくりで、かわいい、」
かわいい、かわいい。本当に、かわいい。りたちゃんは繰り返した。
「誰にも……渡したくない、」
すべてを出しきって、弱々しくりたちゃんは嘆いた。
横柄で傲慢で、人当たりがきつくて、いつも独りだった、りたちゃん。
初めて出逢ったのは本屋さんだった。
そうだ、僕、カツアゲされたんだ。ちゃんと返してくれたから、本人はカツアゲじゃなかったのかもしれないけれど。あのころは派手な服に明るい髪に、偽物の睫毛も付けてたな。あれで優等生だなんて、最初は信じられなかったよ。
エレベーターで二人きりになったときは怖かったなあ。あと、エレベーターの前で捕まったときも。
なんやかんやで拾っておいてよかったな、ドラえもん。
一ヶ月近く、甘い物食べさせられたのは大変だったけど。試食会終わってノートが完成して、安い居酒屋で奢ってくれたんだよな。あのとき、睫毛のつけ方尋ねたら笑われたんだっけ。あのころは、りたちゃんの笑顔って貴重だったな。
そのあと、ちょっと誤解があって、僕、生まれて初めてがむしゃらになったんだ。
チョコレートのために数時間程度並ぶだけの、格好悪いがむしゃらだったけど。
結局風邪ひいてもっと迷惑かけて、でもおかげで、月乃さんとか、りささんとか、りたちゃんのこともっと知ることが出来て………笑美子さんが死んでから、ずっとそばに居てくれるように、なって。
一緒に暮らし始めたってのに、僕ってば甲斐性無しで、りたちゃんはどんどん稼いじゃうし、母さんに説教されちゃったよ。
それなのに、それでいいって言うんだ、この子。ごはん作ってくれればいいって、言うんだ。
こんな僕を逃がさないでいてくれるんだ。
本当不思議な女だよ。だいたい文遠ってなんだよ。雌犬に中国の武将の名前なんて、おかしいだろ。もう、おもしろいな、りたちゃん。
ああ、いろいろ変わったなあ、僕たち。
ねえ、りたちゃん、
「結婚、しよっか。」
これからも変わるのかな、僕たち。
「……なによ、それ、」
「親権もらう、絶対条件、夫婦じゃなきゃいけないんでしょ?」
ごめんね、りたちゃん。
僕はまた、きみを縛りつける。助けるふりをして縛りつける。
どんなに関係を変えようと、どんなに僕ら自身が変わろうと、僕はきみを手放したくない。逃げる気なんてない。
わがままでごめんね。不甲斐なくて、だめな僕で。
だからそんなに泣かないで。声をあげて泣くなんて、らしくないよ。
ほら、星史が起きちゃったじゃないか。
「連休明けだからね、多少待たされるのは覚悟してたよ。……うん、意外と普通だった。……うん、うん。はは、そういう夢見がちなことはしないんだよ。」
日差しが心地良く気温もちょうどいい日和だというのに、時折強い風の吹く日だった。電話口の妹から度々、「風がうるさい」と文句を言われる。僕のせいじゃないのに。
「妹ちゃん?」
電話を切るなり、りたちゃんが尋ねてきた。
「うん。式挙げてくれって、いつものお願い。自分は結婚すらできそうにないから、母さんの期待がうっとうしいんだってさ、」
「母親のために、ってところじゃないのが、妹ちゃんらしいわね。」
違いないね。髪をおさえながら二人で笑った。
りたちゃんは僕の妹を名前ではなく「妹ちゃん」と呼ぶ。彼女なりに妹を気に入ってるからこその愛称らしいが、妹も今年で二十だし、あまり、「ちゃん」付けが似合うような女の子でもない。
「アラサーで「ちゃん」付けされてるあたしはどうなんのよ、」
「僕はりたちゃんがおばあちゃんになっても、りたちゃんって呼ぶよ。」
「星史が真似したらどうすんのよ、」
じとっと睨むりたちゃんの手元で、星史がおもちゃを咥えながら、小首をかしげるような動きをみせた。たまに文遠もやるしぐさだ。
「りたちゃんだって星史が真似して、キミ、なんて呼ぶようになるかもよ?」
「あたしたちには都合良いじゃない、それで。」
たしかに。妙に納得しながら歩調を合わせ、ベビーカーを押す。
「ね、寄り道して帰らない? せっかくなんだし、お花見がてらさ、飛鳥山。」
僕の提案に、りたちゃんは、もう桜なんて残ってないわよと呆れながらも、付き合ってくれた。
さっき、婚姻届をだしてきた。
手続きにはまだまだ時間が掛かる。僕たちの入籍ではなくて、僕たちと星史の養子縁組の話だ。今日の提出なんて第一段階にすぎない。
星史の引き取り手がりささんたち遠野夫妻から、僕とりたちゃんに代わることに、現在の親権者である親族のひとたちは大した興味を示さなかった。
引き取ってくれるのなら誰でもいい。
肝心なのは絶対こちらに戻さないこと。
完全に縁を切ることだ。
そんな条件を、おとなしく聞いていたりたちゃんを、褒めてあげたいと今でも思う。
りたちゃんとりささんも、彼女たちなりに和解した。
もとより、りささんは妹に好意的だし、息子になる予定が甥に代わったのも、まあそれはそれでよし、というくらいだ。
連れ去りの件についても、姉からの平手打ち一発で許してくれた。
たぶんりささんは、怒らせるとけっこう怖い。
彼女達と親戚になる関係上、初めて、遠野史世という男性とも面会した。
『りたちゃんの義兄』で、
『りささんのご主人』で、
『月乃さんの幼馴染み』である、
『藤代くんのパパ』。
そして、『仲村君依の義兄』になる人だ。
「じゃあ仲村くんって、僕の叔父さんになるんだね、」
きらきら笑顔で藤代くんは茶化してくる。
遠野さんは、拗れた話の中心人物とは思えないくらい、害の無いひとだった。
フランクで、気さくで、面倒見のいい、これぞ兄貴肌といった雰囲気の彼を、想像どおり僕は嫌えそうになかった。どことなく、文也兄さんに似ていたせいもあるかもしれない。
母には、最初だけ反対された。
結婚ではなく養子縁組のほうをだ。
一時期世間を騒がした名塚月乃の子だなんて、いちいち説明しなかったけれど、いわゆる『授かり婚』だった母からすれば新婚生活は憧れだったらしく、もったいないというのが言い分だった。
この試練に対して僕は不謹慎な嘘をついた。
「りたちゃん、子供が作れないんだ。」
笑美子さんと仲の良かった母の気持ちにつけこんだ、ひどい嘘だったとは思う。でも後悔はしていない。セックスの無い僕たちからすれば、一概に嘘とも言えなかったし。
りたちゃんの言うとおり、飛鳥山に桜はほとんど残ってなかった。
桜蕊の微妙なピンクがまばらに青葉と混じっていて、目的の薄ピンクの花びらは地面に広がっていた。
「寝ちゃった。」
日向ぼっこが気持ち良かったのか、星史はベビーカーのなかで寝息をたてている。
かわいいね。思わず呟いてしまった。
「当然じゃない。あたしの好きだった人の子供よ?」
ふふんと、りたちゃんは自慢する。そして星史をみつめながら、
「あまり、あたしに似たら、困るわね。」
と、声をあらためた。
「そうだね、手放したくなくなるもんね。」
「………ばかじゃないの、」
とたんに顔を赤らめた彼女が、急に、いとおしく感じた。
鞠河りた。
本名、武本りた。
今日から、仲村りた。
りたちゃん。僕の奥さん。
―――浮気者!
なつかしいやわらかい声に振り向くと、強い風が吹いて、地面に敷き詰められた桜が舞い上がり、視界を花びらで埋め尽くした。
右も左もわからない花びらの群れの中に、笑顔を向けながら僕を罵る人が現れる。
笑美子さんだ。
――うわきもの!
さっきより大きな声で、笑美子さんは叫んだ。
――もう君依くんとなんて破局だわ。私にプロポーズ、したくせに。
ふふっと悪戯に笑う彼女に届くよう、僕も笑顔で言い返した。
「だって、まさか受けてもらえるなんて思わなかったんです。」
笑美子さんはわざとらしく、例のあざといしぐさで、頬を膨らませた。
――あーあ、文也くんの席も埋まっちゃったし、これで完全に独り身ね、私。
「本当は安心してるくせに。」
――ばれちゃった?
小首を傾げて、舌を出す。この人は本当にあざといな。
――君依くん。あなた、私から乗り換えたんだから、絶対幸せにならなきゃだめよ?
「散々もてあそんだくせに、よく言ってくれますね。」
――あら、言うようになったじゃない。
「おかげさまで。」
皮肉を言い合った終わりに、ふたりで声をあげて笑った。
風は止んだのに、花びらはまだまだ舞い踊っている。
右と左だけじゃない。天も地もわからない。
花びらまみれの視界にいるのは僕と笑美子さんだけで、彼女はふわりと浮かびながら、僕のもとへ近づいた。
――いい? どんな嘘でもつきなさい。誰であろうと捲きこみなさい。何を犠牲にしても、あなたたちだけは幸せになるの。あなた、私が好きだったんでしょう? やっと婚約してあげたのに、勝手に乗り換えるんだから、最後のわがままくらいきくのが、筋よ?
文也兄さんの言うとおりだ。
なんて我儘なひとだろう。いっそ潔いくらいに。
僕は誠心誠意とありったけの愛をこめて、へらっと笑ってやった。
「相変わらずですね、」
――おかげさまで!
笑美子さんは花びらの塊に姿を変え、渦を巻いたピンクの群集は、ぱっと天に散った。
「……キミ?」
気づくと星史を抱えたりたちゃんが、僕を見上げていた。
花びらは、訪れたときと同じように、地面で鎮まっている。
「星史、起きたんだ、」
呆けをごまかすように声をかけた。
「帰りに、スーパー寄りましょ。カフェオレ、きらしてるの。」
りたちゃんがやわらかく言う。
僕はこれからもきっと、世界で一番彼女がいとおしい。
りたちゃんの腕で愛らしく動く息子を眺めて、誓った。
僕らの幸せのためなら、この子にどんな嘘でもつこう。
この子を餌にもしよう。この子のために結婚したんじゃない。りたちゃんが喜ぶからこの子を引き取るんだ。りたちゃんを喜ばせたいのは、僕の幸せのためだ。
犠牲になってね、星史、
僕らの幸せのために、大事にさせてくれ。幸せに育ってくれ。共に幸せに堕ちてくれ。
僕は嘘をつくから。
きみを餌に、この愛が子供のためなのだと嘘をつくから。
僕らの被害者になってね。
笑美子さん、あなたはちゃんと、遺してくれましたよ
春の風に思わず、りたちゃんは目を閉じる。
瞼が開くよりも先に僕は彼女の唇に口づけをおとした。
怒られちゃうかも、しれないけれど。