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第九十四話

 ライアンの視線の先を俺も視線を送るのだが、一向に何も見えてこない。

 その間にもライアンは指笛を鳴らし続けていた。

 俺は片手での指笛ははっきり言って得意ではない。出来ないというわけではなく、十回中二回くらいしかならないのだ。

 親指と人差し指で円を描くようにしつつ、舌を持ち上げ、息を吹く。その工程は理解していて、両手の中指と薬指を使うのであれば失敗など皆無なのだけどな。


 って、余計な考えで意識が逸れた。

 ライアンの指笛に対し、ピュルルルルルゥと応答が返ってくた。

 若干、ファックスの受信音にも似ているけど、これはアレだ。俺の記憶的には、鳶の鳴き声だろうか?


 と、なると、ライアンが呼んでいるのは鳥。しかも猛禽か。

 鳶はあまりいい思い出がないんだよな。兄弟でバドミントンをしてたらシャトルを持っていかれたり、凧揚げをしていたら凧をそのものをスクラップにされたりと。

 田舎の空に鳶は普通に飛んでるからな……。


 おっと、俺の目にもそれらしき影が見えてきたんだが、異様にデカくね?

 いや、まぁ魔物ではない一般的な動物が総じて大きいことを踏まえると、当たり前なのかもしれない。それに大型の猛禽は俺が見たことがないだけで、日本にもその他の地域にも存在していたはずだ。

 家畜や農耕馬だからこそ、恐怖を感じることはないのだ。彼らは大人しいからね。

 でも今度の相手は鳶かどうかは不明だけど、猛禽であることには間違いはなさそうなのだ。だからこそ、怖いという感情が湧き上がってくる。


 俺の感情を感じ取ったのか、相棒が動き出した。大人しくしていてね、と声を掛けた後には姿を消していたはず。


「相棒、大丈夫、大丈夫だからね」


 俺の声でピタリと動きを止める相棒だが、俺の代わりに警戒してくれていることを考えると多少申し訳ないのも事実。

 それでも師匠が問題ないと言うのだ、従っておくべきだろう。


 鳶だが鷹だか鷲だがわからない猛禽が、ライアン目掛けて急降下してきた。

 その余りの勢いに、俺は立ち上がりライアンから距離をとる。驚いていないのは師匠だけで、アグニの爺さんやダリ・ウルマム卿の家族も同様に距離を取っていた。

 また、普段は街道沿いから魔物が現れても動じることのなく大人しいままの農耕馬たちでさえも、怯えているかのよう。

 猛禽が飛び込んでくるという、この状況で驚かないということの方が異常なのだ。


 急降下してきた猛禽はそのままライアンへと突撃を果たす。

 突撃を正面で受けたはずライアンは、大型の猛禽を抱きかかえるようにし、その頭を撫でまわしている。あんな巨体が直撃したというのに、どういうことだろうか? 

 それは考えるだけ無駄かな。ライアンはああ見えて、バカ力だもんな。


 猛禽を撫でまわすライアンと、犬か何かのようにライアンに頭を擦り付け甘える猛禽。そこにそっと近づくのは師匠。


「シギュルーさん、お元気そうですね」


「――ピッ!」


 ライアンと師匠、それに猛禽を取り巻く俺たちの抱く感情は恐らく同じだろう。

 なんだ、これ?



「ふむ。先日、特技兵の腕章を貰い受けたいと申したのはこの者が原因かな?」


「ああ、まあ、そういうことだ。義父上殿」


 突如としておかしな空気を切り裂いたのはダリ・ウルマム卿の一言だった。

 落ち着いてよく見てみると、猛禽の左足に何かが巻き付けられている。すると、これがダリ・ウルマム卿の言うところの腕章だろうな。


「故郷から俺に付いてきちまったんだが、帝都に入れるわけにもいかなくてよ。だからといって、そこらの林や森に住まわせていると魔物は問題ないとしても、エルフたちに狩られないとも限らないだろう? そこで帝国軍の腕章、それも特殊技能兵あたりなら問題ないかな、とな」


「ふむ。確かに一部の軍馬などに、特技兵の階級章を持つものも居る。問題はあるまい」


 何だろう、俺の感覚がおかしいのかな?

 軍という組織に馴染みがないから正直よくわからないけど、少なくとも人の形を成していない動物に階級なんて与えられるものなんだろうか?

 そこはもう、世界が異なるということで郷に入らば郷に従えというものなのだろう。うん、大丈夫、多少強引だけど理解した。



 俯き加減で色々と複雑な想いとの葛藤をしていた俺が再び前を向くと、猛禽が何やら俺を凝視している?

 ちがう! この場合は、俺の背中でもぞもぞと動き出した相棒を見ているのか?


「よせ、相棒!」


 俺の制止に構わず動き出した相棒は、猛禽と俺との間に入り込む。しかしどういうわけか、相棒の触手の先に盾はない。

 相棒の動きに合わせるように、猛禽は翼を大きく広げると胸を張る。胴体を覆う羽根が膨らんでいる? 更に、嘴を大きく開く。


「やめろ、シギュルー!」


 ライアンの制止の言葉を猛禽は無視するようだ。

 相棒も似たような感じだし、この場合はお互い様だけどな。


 相棒と猛禽、双方ともに威嚇しているだけの模様。

 だったのだが、動きを見えたのは猛禽。

 猛禽の足元に砂が不自然に集まっていく。

 何だアレ? 魔法円や魔法陣は現れていない、ということはライアンの使う魔法と同等のものか!


 しかし、相棒も負けてはいないようで新たな動きを見せた。

 幹となる八本の触手の先端が上下に別れて開いていく。

 ドーナツ状の魔法円が浮かんではいないので『びぃむ』絡みでないことだけはわかる。威嚇だけで済ませるつもりだろうか?


 ライアンも俺も既に止められる状態ではないが、出来ることなら双方ともに矛を収めてほしいところだ。

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