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第九十三話

 フェルニアルダートという都市まではあと一日という距離にあるらしい。

 ここまでルファムの宿場町から二日が経過しているので、計三日になるという話だ。


 今日の俺は物見の仕事は非番で、やることと言ったらブドウ液の監視と剣に魔力を流すという宿題に打ち込むことくらいなもの。

 だが、この剣に魔力を流すという宿題はかなり危険だ。

 前もって必ず造血剤を服用しておかないといけない。倒れてからでは手遅れになりかねない。当たり前のことだが、俺はまだ死ぬつもりは無いのだ。


 木材で出来た柄と柄で固定されている金属部分は制覇した。つか、これだけで丸一日掛かってるんだけどさ。

 で、今日から本格的に剣の芯の部分に魔力を流していくつもりだ。

 いや、もう取り組んではいるんだけど全く進まない。進んで行かない。抵抗が強すぎる!

 少し押し進んだところで休憩を挟んだら、元に戻っているような気がする。

 柄の方は先に木材の魔力を塗り替えたのが功を奏したらしく、残留魔力の浸食で元に戻るようなことはなかったので安心し、甘く見ていた。

 これ、これだけ苦労しているのに、明日になったら元通りとか言わないよね? それ、洒落にならねぇからな!


「おぅおぅ、全然進んでねえぞ?」


「ライアン、その姿でその口の利き方はダメだって。またサリアちゃんに怒られるぞ」


 ライアンは数日ベスタの姿で過ごした所為か、口調がベスタのままだ。それを良しとしないサリアちゃんに何度も注意されている。

 そして逃げ出して、今はドワーフ兄弟とゴブリンさんたちの乗る馬車の中に居る。その際、なぜか俺を保護者に指名したのはガヌ君である。

 ガヌ君とサリアちゃんは子供たちの纏め役だから、しょうがないとも言えるんだけど、なんで俺が……。


「ここには居ねえから大丈夫だ。っと、今日は昼にちょっと呼びたい奴がいるんだけどよ。お前にはスキルを抑えてもらいたいんだわ」


「話し掛けんなよ。今、集中してんだから!」




「親父の剣の調整なんてよくやるナ、魔王さん」


「俺たちでも厳しいのにナ」


 よくやるも何も、今の俺の状態見えてますか? 非常に厳しいんですけど!

 でも、師匠からの宿題なんですよ。やらないとマズいのです。



 体感で三時間くらいだろうか、ライアンに確認してもらうと柄元から五センチくらいは俺の魔力が芯材に流れ込んでいるそうだ。

 これから昼休憩なんだけど、飯食い終わったら二センチくらい戻ってるなんてことはない……よね? 人生の縮図じゃないんだから。


 当然だが、俺とライアンの昼食の配給はこの馬車の配分とは別扱いだ。それに俺は一応開拓団の警備担当なので食事の量が少しだけ多く配分される。

 体が資本なので、そこに文句を言う者は誰一人として存在しない。元々、各馬車にも多めに配られているからこそ問題視されていないとも言えた。


「で、さっき、なんか言ってなかった?」


「あぁ、ちょっと待ってろ」


 ライアンは馬車を降りる際に、俺の体の影を利用してベスタの姿に変じた。


「ちょっと呼び出したい奴がいるんだが、お前のスキルに食われると困るんだよ。だから、そこんとこを頼みたい」


 ちょっと何言ってのか、正直わかりません。いや、相棒を警戒しているということはわかるんだけど、何かを呼び出すという意味が理解できないでいる。


「近くに居ろ、とは言ってあるんだが、どこに居るかわからねえんだよ」


「もっと具体的に言ってもらわないと、わからないんだけど」


 昼食の配給は相棒に『収納』されているため、急がねばならない。遅れると皆が困るし、ミラさんに怒られるからだ。

 現場は物見台を兼ねている家畜輸送用の荷馬車の横。既に数十人の列が出来ていた。


「早くしなさいよ! 皆、待っているのだから」


「はい、ごめんなさい」


 案の定、怒られたが逆鱗に触れているという状態ではないので、安心だろう。

 この程度はミラさんにとって、挨拶代わりみたいなもんだ。



「おっと、ベスタ君ではありませんか?」


 師匠が態とらしさ満点の口ぶりでライアンの隣へと腰かける。その反対側の隣は俺、俺の隣はアグニの爺さんだ。

 だが、今日はそれだけではなかった。


「おぉ、婿殿。こんな所に居ったか」


 ダリ・ウルマム卿と長男に次男、三女キア・マスが揃ってやってきた。

 ちなみに俺には長男と次男の区別はついていない。双方ともにイケメンであることだけ理解していれば十分だと思っている。

 ついでに言うと、ミラさんも今は遠巻きにこちらを伺っていたりする。近付いてこない理由はライアンがベスタの姿をしているから、だろうと思われる。以前、帝都では異常なまでの警戒を示していたからね。


「食事をしながら待つとしますか?」


 ライアンは右手を大きく開くと自身の目の前の地面と軽く叩く。

 すると、見たこともない魔法円が描かれ、その中心に長細い蛍光灯に似た光の柱が立ち上がる。


「ああ、なるほど。連れて来ていたのですか?」


「正確に言うと、付いてきたんだけどな」


 何を指しての事柄か、理解できていないのは俺だけではないようだ。寧ろ、師匠とライアンの兄弟の間でしか、会話は成立していない。

 遠巻きに監視しているミラさんも勿論、蚊帳の外であるらしく、大きく首を傾げていた。


 俺は硬いパンに悪戦苦闘しつつも、温かいスープで流し込むように食事を終えた頃、やっと動きがあった。

 ベスタ姿のライアンが空を仰ぐと指を口にくわえ、指笛を鳴らし始めた。


「来ましたか。カットス君、危険はないので相棒さんは出さないでください」


「はい。じゃ、相棒大人しくしててね」


 相棒は空気の読める子だ。俺に危険がないのであれば、大丈夫だろう。たぶん。

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