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第九十話

「突然の訪問にも係わらず、歓迎いただき感謝を」


「いえ、将軍閣下がお目見えになるとなれば当然のことでありましょう」


 この娘はデルヴァイム侯爵家の長女ミレイユ。と、同時に役職としてムリア王国第三騎士団の団長という肩書を持っている。

 デルヴァイム侯爵は残念ながら男児に恵まれず、このミレイユが婿をとることで世継ぎとするのだとデルヴァイム侯爵ご本人から聞かされている。今はまだ公にされておらぬが、儂の戦士団員の倅が婚約者候補に挙がっているという噂もある。


「すまぬがミレイユ殿、人払いを頼めるだろうか?」


 従騎士らしき者たちは天幕から立ち去ってゆく。但し、一名はこの場に留まるようだ。


「そちらは?」


「彼女は私の又従妹で名をクラウディアと申します。十分に信用は置けましょう」


 又従妹ともなれば陪臣か。ならば、良い。儂が警戒しておるのは直臣であるからな。儂は連れてきている戦士団所属の魔術師に視線を送り、とある術式の展開を促した。


「これは……遮音結界でありますか?」


「左様。では早速、結論から申そう。

 本国上層部、正確には第一内務卿とその取り巻き。そしてジャガルからの介入者たちの思惑上では、儂らは既に切り捨てられておると考えられる。

 異界の勇者強奪は上手くいけば儲けものという感覚でしかなかっただろうが、最早それもありえぬ。帝国からの使者が本国へ向かったという情報を得ておるからの」


 このミレイユ、儀礼等の飾り物に過ぎぬ第三騎士団をそこそこ使える騎士団へと昇華させた立役者でもある。その性格が厳格であり、聡明でもあることを儂は彼女が幼少の頃より十分に承知している。


「諜報・追跡部隊からの追加報告書には目を通しました。ゴブリン族が少数開拓団に同行しているということで、作戦の中止には否はありません」


「ふむ、意外にも冷静だの。

 貴殿のところの第二中隊長。いや、副団長であったか。貴殿らを見送り、王都にとんぼ返りした話は聞いておるかな? 道中につけた間者の報告では、既に団長気分で居るようじゃの」


 では、少し煽ってみるとしようかの。

 何と言ったか? 第三騎士団の副団長殿は第一内務卿の縁者である。

 彼女こそが規模を縮小した第三騎士団の次なる団長になることが決定事項であるのだろう。

 結局のところ、市民に絶大なる人気を博す第三騎士団の解体などというものは茶番でしかなく、このような筋書きが用意されておったということであろう。規模縮小であれば、市民からの反発も抑えられると考えたであろうことは明白である。


「くっ、エリザリアめ。では将軍閣下は我らが謀られたと仰るのですか?」


「そう、申しておる。だが、それは儂らも同じことよ。

 故に、第二騎士団と儂の戦士団の家族を貴殿の父君の治める領地へと避難させておる最中であるのだ。ここに頓する貴殿の配下の家族も早めに避難させる必要があるからな。名簿をいただきに参ったというのが訪問の目的になる」


「父の所領に?」


「貴殿の父君はパデア消失事件以来、宮廷と政治的に距離をとっておった。更に、先のミスリル貨造幣騒動からは完全に部外者となっておる。その反面、ラングリンゲ帝国との仲は親密そのものじゃ」


 デルヴァイム侯爵は最早ムリア王国に見切りをつけているに等しい。ジャガルの介入が今以上に酷くなるのであれば、ラングリンゲ帝国に寝返ることも辞さないだろう。


「但し! 第二騎士団には間者が紛れ込んでおったからの。失礼を承知で申すが、貴殿らの中にも、と疑っておるわけだ。

 貴殿の父君の領地と儂らの家族の安全を脅かす存在は排除せねばならぬからの。おかしな動きをしている者が居れば、捕らえるなどの処置を施してもらいたい」


「……お話はわかりました。ですが、おかしな動きとなると。

 何かしら、偽の情報などを掴ませるほかないかと思われますが」


「うむ、それで良い。やり方は貴殿にお任せしよう」


 ミレイユとクラウディアは少なからず怪しい動きをしている者に心当たりがあるようだ。その者に関しては彼女たちに任せるのが一番であることは間違いはない。


「名簿と仰られましたか?」


「うむ。騎士または従騎士や従卒、そしてその近しい家族の名簿を用意していただきたい。第二騎士団もまた信用しきれぬのでな、儂の戦士団を本国に幾らか残してきておる。そやつらに護送させるつもりだ」


 第二騎士団の騎士たちの多くは確かに儂の戦士団の倅などが多いのは事実。しかしながら、それだけというわけでもない。

 騎士として叙勲された者は国王に仕える直臣であるゆえ、国王や国に敵対する行為はご法度となる。間者は帝国に潜入した騎士団内にも存在した以上、それ以外にも存在すると考えた方が無難であるだろう。


「出身が父の所領以外の者の名簿ですね。間者らしき者の摘発と同時進行で早急に作らせるとしましょう」



「して、今後の儂らの動きを少し説明しておくかの。

 儂は二個中隊を丸々引き連れ、帝都に上がるつもりでおる。貴殿の父君同様、儂にも帝国内に知己は多いからの。そこら辺りは心配せんでも良い。

 それで貴殿の動きに関してなのじゃが……、貴殿には単独若しくは極少数で追跡調査部隊へ合流してもらいたい」


 なんじゃ? 儂、何か、おかしなこと申したか?

 ミレイユの目がぱっと大きく開かれ、喜色が浮かんでおるように思えるのじゃが。


「合流した後の貴殿と追跡調査部隊には、異界の勇者に友好的に接触してもらいたい。あくまでも友好的にじゃぞ? 襲撃するような真似は許さぬ。

 帝国が覇を唱えるようになったのは異界の勇者と良好な関係を築くことが出来たからだ。本国の強奪作戦など愚の骨頂と申しても良いほど、反目しておる。

 有効な関係を築き、その上で知恵を借りることが出来れば、本国上層部を見返してやることも出来よう」


 ん、なんじゃ? またおかしな雰囲気になっておるぞ?

 先の喜色満面さはどこに消えおった?


「将軍閣下! 誠に申し上げにくいことなのですが、実は既に……」

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