第八話
一応、暗くなる前にアリガという名の宿場町に到着した。小さな村と呼んだ方がいい規模なのに町とはこれ如何に。
町を覆う壁は低く薄い。壁というよりは塀だな。
入門に際し、御者を務める商家のおじさんは何かを門番に手渡していたみたいだ。
宿場町という名の通り、宿屋くらいしか目立ったものは存在しないらしい。
「勇者殿には申し訳ありませんが、私と同じ部屋になります。何分、勇者殿の安全を期さねばなりませんから、ご了承ください」
「ああ、はい。よろしくお願いします」
ライスさん親子は同部屋、俺と御者のおじさんが同部屋で二部屋借りるようだ。
宿につくとすぐに晩飯をという手筈になった。
「豚ですか?」
「ええ、この辺りは街道沿いで危険もありませんし、豚を飼うのに適しているのですよ」
御者さんの説明通り、晩飯は豚肉を主に使った料理が多数用意された。中世っぽい世界だけど、過去にタイムスリップしたと考えれば納得のいく世界観でもあるかな?
十分に豪華と言える料理を堪能しつつ、言葉の疑問をライスさんが説明してくれる。ミラさんも俺に分かり易いように、言葉を選んでくれるので大助かりである。
ライスさん曰く、この世界は誰でも一人スキルというものが芽生えるらしい。
スキルには種類があり、汎用スキルとユニークスキルの二種類。
ステータスプレートが元の銀色のままでスキルが記載される場合は汎用スキルのみ、黒く変色し銀色の文字が浮かび上がるとそれはユニークスキルを所持している証なのだとか。
ユニークスキル保持者については、別枠で汎用スキルをも持つことがあるらしい。
スキルが芽生えるのは、この世界における大人になる年齢。日本的に言うと元服、成人の年齢の15歳の誕生日に、国によって扱いは異なるが教会や冒険者ギルドで検査を受けることが出来るそうだ。
検査といってもステータスプレートに血を垂らすだけの話らしいのだが。
教会では本洗礼、冒険者ギルドなる怪しげな組織でも登録可能なのが15歳以上なのだとか。
そして最も重要な部分、俺の場合。この世界に入った時点で、15歳を超えていると勝手にスキルに目覚めるらしい。この場合のらしい、に関しては数百年前に他国で召喚された勇者関連の記述で証明されているのだとか。俺的には眉唾に思えるが。
という事情で、言語を理解できるスキルが芽生えているのではないかとの指摘がある。実際に過去の勇者も言語に関する汎用スキルを持っていたという記載があるらしいのだ。
「でも俺、ステータスプレートの文字もそこらにある文字っぽい何かも全く読めませんよ?」
「それは不便よね、学習するしかないわね。口に出せば意味とかわかるっぽいし、比較的早く覚えられそうなものだけど」
「僕の方で責任を持って教えましょう。僕としてもカットスさんを元の世界に送り返せるように、色々と調べるつもりですし、ね」
「え?」
「気になさらないでください。どうせ、仕事など暫くは無いのです。母国でもありませんしね」
「何をするにもとりあえずはステータスプレートが必要だわ。王宮のは急いでいたから破棄だけしてきたけど、内容は確認していないし」
なんか俺の知らないところで色々なことが為されている上に、これからの行動指針までも設けられていく。
ライスさんに至っては、俺の帰る方法まで調べてくれるというし、有難い限りである。
「父上はカットスを送り返す手段を探すことを最優先にしなさいよ。文字は私が教えるから」
「では、そうしましょう。カットスさん、ミラは性格が少しキツいので、イジメられないように頑張ってください」
「父上、そんな言い方酷いわ」
ああ、確かにキツいわな。茶髪で普通っぽいライスさんに比べ、赤髪で見た目からして勝気そうだもの。実際に今までの会話の節々から、そんな予感はしていたんだ。
歳は俺とそう変わらないような気がするんだけど、年上っぽいものな。
「なんにせよ、スキルがわからないと困るわよ。国境を越えて落ち着く場所が出来次第、冒険者ギルドに行くわよ。いいわね、カットス」
ノリノリのミラさんの言葉を遮ることも、反対意見を述べることも俺には出来そうになかった。
〇 〇 〇
〇 〇
〇
「――だーっ、嫌な夢みた!
っつうか、俺なんで高槻に告白なんてしちまったんだ!」
月の栄亭、二階奥の部屋。
もう一年ほど前の出来事を鮮明な夢に見てしまった。出来るなら、あのデブの顔など二度と見たくないというのに。
それでも、懐かしい友人たちや憧れていた女性の笑顔を思い出すことが出来たのは僥倖というものだろう。