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第八十七話

 スクロールのことはこの辺にして、予てからの懸案事項というか懸念事項の処理を優先したい。

 相棒にお願いして『収納』されている武器を全て出してもらった。


 最近の相棒は素手で戦闘を行うことが多い。あれを素手と呼べるのかどうか、甚だ疑問ではあるけれど。

 例外を挙げるとすれば、盾を持つ触手と強弓を持ち弾き絞るのは人型の触手。または巨猿の腕でぶん殴ったり、掴んで握り潰したりという場合が挙げられる。猫の手はもはや愛玩用である。

 吸引を目的とした触手や『びぃむ』用の砲身となる触手は、ほぼ共通で先端が常に開口している。それでも用途により、触手内部の構造が変化するようではある。

 


「武具の点検ですか?」


 師匠の声で我に返る。少々、意識が逸れていたようだ。


「いえ、ライアンに指摘されたんで、近接戦闘も考慮しようかと思いまして。最近、相棒が使わない武器を流用しようかなって」

 

 実際のところ、剣に関しては完全に不用品と化している。利用しているのは盾三枚と強弓、騎士槍くらいなものだ。

 意外性でいうならば一番は騎士槍か。完全に一般的な使い方ではなく、ロケット? 質量兵器?

 主な運用方法は先端が開口している触手からの射出。重量があるので、射程こそ触手の射程に毛が生えたようなものだが、その威力は凄まじいの一言に尽きる。

 現在、弾切れ状態の『びぃむ』の代用と考えれば十分な成果だとも言えた。いや、明らかにこちらの方が使いやすいんだけど、オーバーキルなのは変わらない。


「では、この剣を使うと?」


 鞘から抜き、剣を正面に構えて振る。

 が、剣の重さに振り回され、転びそうになった。

 俺の人生で使ったことのある刃物はナイフか包丁くらいなものだ。とても俺の貧弱な腕力と握力で扱いきれる代物じゃねえ!

 そもそも、この剣、先端がやたらと重いのだ。振り回されるのも仕方がない。


「ちょっと借りますね。……ふむ。

 さすがにこの重量物をカットス君が扱うには無理があるでしょう。柄を長くしてバランスを取るとしても、間合いが広くなりすぎてしまいます」


「この中で使えそうなのは二本の剣くらいなものしかなくて。大体、師匠はどうしてるんですか、近接戦闘とか?」


「僕は魔術師なのでこの腕輪ですね。他にも貴族の端くれとして懐剣を一応持ってはいますけど、果物の皮を剥いたり干し肉を削いだりする用途しかありません。ま、本来は自害用なんですけど、ね」


 師匠が腕捲りをして見せてくれたのは腕輪というより手甲か? 手首から肘までをカバーしていて、緻密な細工が施されたものだ。だが、腕輪如きで何をどうするというのだろう? 防具の一部としか考えられないんですけど。


「これは成人祝いに義母さんから贈られたものです。どこで調達したのか、ミスリルとオリハルコンは天然物らしいです。

 で、この腕輪なんですが魔術を複数ストックできるという特性がありまして、ね。

 ストックしている間も魔力をジリジリと消費するので余り使う機会もありませんが、対応を間違えなければ魔術だけでも何とか出来てしまうのですよ」


 反則だ! チートだ!

 俺にはそんな特別な装備品はない。その上、魔力が極端に少ないときている。本当にどうしたものか……。


「明日は街道を進み旧都市国家フェルニアルダートへ。到着後、開拓目的地を考慮するとかなり遠回りになりますが東の岩窟都市フリグレーデンを目指す予定です。

 不足分の金属資材の注文は既に済ませてありますから、現地では受け渡しのみとなるでしょう。その際に、僕と一緒にフリグレーデンの街を見て回りましょう」


 師匠からのデートのお誘いを受けた。

 開拓地までの進路に関しての担当はミラさんであって、俺にはフリグレーデンという都市がどういった場所なのか、さっぱりだけどな。

 

「それでこの剣なんですが、これはこれで魔術の鍛錬に使えそうです。

 ロワン氏にアドバイスを受けているかと思いますが、魔法金属。特に人工の魔法金属は使用者が魔力を通すことで刃の鋭さを調整することが可能です。但し、微調整が必要で過剰に魔力を供給すると、刃がすぐにダメになってしまい補修にお金が掛かってしまいますがね」


 そんな話、知らない。

 最初は俺が使うつもりが皆無だったから、細かい話を聞かなかったんだ。それが原因か?


「まさか、知らなかったのですか?」


「……はい」


「まあ、良いでしょう。

 この剣、この重量バランスからして、ロワン氏本人が使用していたのでしょうね。ドワーフの膂力ありきな気がします」


 師匠はそう言いながら目を瞑り、剣の腹に手を当て何かを感じ取っているようだ。


「魔力が混濁してはいません。問題はないでしょう。

 新品の武具に金属精製魔術師、または鍛冶師。中古の武具ですと先の持ち主でしょうか。それぞれの魔力が武具に宿っています。

 ただ、魔石とは内包する魔力の密度が異なるため、抵抗はあれど反発するまでには及ばないでしょう。そこで、前者の魔力を道標として自身の魔力を流すことで、他者の魔力を追い出し上書きします。

 僕の懐剣で例を見せますと、このような感じになります。見えますか? 刃の部分が薄っすらと光っているでしょう?」


 目を凝らさないとたぶん分からないほど仄かな光ではある。それでも光を放っていることに間違いはない。


「他者の魔力を押し出すのには、かなり苦労しますよ。しかも、その大きさですからね。毎日、少しずつで構いませんから、やってみましょう。

 まずは剣先にまっすぐ抜けるように、芯に魔力を流すことです。それが出来たら、通した一本の魔力から刃へと馴染ませるように、徐々に広げていきましょうか」


 師匠は簡単に言うのだけど、既に柄の部分にかなりの抵抗がある。抵抗に負けないようにと、魔力を押し込んでいるのだけど、全く流れていく気配がない。

 これ、俺、大丈夫か? 魔力切れでぶっ倒れる予感しかないよ!

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