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第八十五話

 ルファムの宿場町へ到着後、俺には宿の一室が与えられた。但し、師匠と同部屋である。


 宿場町とはいえ、開拓団員の全てを宿へと収めることは出来ていない。

 優先順位はつけずクジ引きにより、開拓団員は各宿へと散っている。あぶれた団員は宿場町の塀の中にテントを設ける形で宿泊してもうことに。

 ただ今回、宿での宿泊に漏れた世帯や個人は優先的に次の宿場町や都市では宿へと振り分けることが約束されているそうだ。

 原則として、開拓団員には幼い子供を連れた者は存在しない。幼い子供はライアンの素性を誤魔化すために連れてきた孤児たちだけだ。その子供たちはというと、ライアン共々大部屋に宿泊することになっている。


「旅程の遅延に関してミラが責任を感じているようです。フォローはカットス君にお願いしますけど、ね」


「そうですね。出発は明後日ですから、明日は愚痴でも聞きながら街を探索してみますよ」


 開拓団員たちの健康に配慮し、宿場町や都市では丸一日を自由に使えるように計画されている。

 車中泊というのは自動車でなくとも、身体にくるものがある。

 季節が夏だからまだ良いが、床下を吹き抜ける風など冬だとすれば耐えられたものではないだろう。それに頑丈に作られている馬車の床は材質も硬く丈夫であるため、非常に寝苦しい。寝返りを打つたびに、身体のどこかしらをぶつけては痛くて目が覚めるのだ。

 エコノミークラス症候群、待ったなしである。


 だからこそ、俺は今日、師匠と同部屋であることに感動している。ミラさんには申し訳ないけれど、ゆっくりと柔らかいベッドで眠れることが保証されているからだ。

 まぁ、ミラさんも今日はゆっくりと体を休めてほしいところである。その、なんだ、埋め合わせは明日に持ち越すことにして、おやすみなさい。





 明けて、朝早くから子供たち用の馬車に放置してあるブドウ液の確認を済ませた。

 干しブドウは順調に水を含み、細かな泡が発生している。あと数日もすれば、盛大に泡を吹くことになるだろう。酵母が活性化している証拠だな。

 きっとイケル、柔らかパン計画は実に順調な滑り出しだ。



「カツトシ様、お姉ちゃんの元気がないのです」


「おはよう、カットス」


 宿での朝食後にミラさんを連れたリスラと合流した。

 確かに元気がない。覇気がないと言った感じで、とてもお淑やかな女性に映る。意外性? ギャップ? そんな感じだ。


「そんなに気落ちしていたら現地まで持ちませんよ? 計画が狂ったなら補填すれば良いんです。とりあえずは食料の補充をしないと、ですかね」


「あっ、うん、そうよね」


 食料は少々余分にあるとはいえ、当初立てられた旅程は大幅に狂うことはここへ至るまでの三日間で予測出来ている。それは多分、幸運なことなのだ。

 気付かずに都市も宿場町も開拓村までもを通り過ぎた後では、目も当てられなかっただろう。


「水はもっと先でも良いのではありませんか? 必要なのはパンと干し肉でしょうか? ですよね、カツトシ様」


「まだまだ立ち寄る場所はあるから、少しずつ買い揃えていったら良いかも、ね」


 ルファムは宿場町であって都市ではないがゆえに、市場もそう大きくはない。不足分を全て補えるとも思えない。


「そうよ! こんな初めから落ち込んでなんていられないわ」


「そうそう、その意気です。お姉ちゃん」


 片やエルフで年齢的には遥かに勝っているのに、見た目には何も違和感がない。外見上、似ているところは全くないので姉妹には見えないが……。


 その後はもう普通のデートだった。

 宿場町の住民に影響の出ない範囲で食料を補充しては、露店で買い食いを繰り返した。


 途中、偶然にも遭遇した孤児たちと引率の変態エルフ。勿論、ライアンは子供役だ。


「(ミラ、元気になったみたいだな)」


「(あぁ、明日からも問題はないと思う)」


「(よし! じゃあ、これやる。兄さんのことは任せろ)」


「(えっ、何これ、スクロール? なんで師匠?)」


 小声でひそひそと話すライアンからスクロールを託された。

 精緻な魔法陣が記された羊皮紙で、手順通り魔力を流し込むと魔術が発動する簡単な魔具なのだが、魔術師にしか使えないという少し癖のある代物。そして羊皮紙と言われているけれど、実際はアルパカかリャマの皮だと思われる。

 畳くらいの大きさになると俺の魔力では足らずにぶっ倒れることが予想されるが、こいつの大きさだはA3サイズくらいで俺でも問題なく使えるはずだ。

 ただ、記されている魔法陣の正体がわからない。


「(これからも似たようなことがあるだろうしな。その際はミラのストレス解消に役立つはずだ)」


 市井に流通しているスクロールの魔法陣は暗号化されておらず、大陸共用語で記されている。正体不明なスクロールだけど、それは俺が解読すれば済む話。

 これはライアンがミラさんの心配をして俺に託したものであるのだ。ここは素直にもらっておくのが正解かな?

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