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第八十二話

「言ってみりゃ、これもまた魔人の特性なんだがな。俺は物心ついた時にはもう魔素も魔力光も見えていた。

 今でこそ見る見ないの切り替えができるようになったが、それ以前は魔素や魔力光が入り混じる世界が普通なのだと思っていたくらいだ」


 俺は魔力を見ることは出来ないけど、感じることは出来る。自分の体の中を蠢く、異物感たっぷりで奇妙な感覚なのだ。

 また、魔術式展開の際にはインクの代わりに自身の魔力を用いるので、その時だけは視覚内に捉えることは可能だ。但し、魔力に何の変化も与えていない素の状態では認知不可能と言っていい。

 ライアンは魔人族だから俺の魔力の多寡を判別できるとしても、今や問題はそこではない。

 魔素、魔力光とはどのようなもので、どのように見えるものなのだろう?


「本当にお前の顔色は分かり易いな。つうか、爺もか?」


 おっと、びっくりした!

 気配を一切感じさせることなく、アグニの爺さんが俺の後ろに控えていたからだ。


「魔素ってのは、そこら中に舞っている細かい塵みたいなもんでな。

 まぁ、それは母さんの受け売りでな。詳しいことは、俺にもさっぱりだ。

 で、魔力光は……。魔力の保有量が多ければ多いほど、その光が強く見える。最近だとハイランドエルフだな。眩しすぎて、目が潰れるかと思ったぜ」


 かなりざっくりとした説明だが、言わんとすることはわかるような。

 要は、俺の魔力光は弱々しい?


「魔素って何?」


「呼吸の際に空気と共に取り込まれ、この辺りある器官で生命を触媒に魔力が精製される。

 よし、ここで問題だ。

 人も獣も魔物も、植物もだな。今回の場合、植物は除くとして。

 では、魔力を精製するために必要な触媒とは何か? 答えてみろ」


 ライアンは両掌で胸の辺りを撫でている。

 胸の辺りにあって呼吸に関係する器官と言えば、肺だろう。いくら俺がそう賢くはないとはいえ、そのくらいはわかる。

 だが、そこに魔力が絡んでくるとなると、右の心臓と呼ばれる魔石の存在も怪しい。怪しいのだけど、魔石を持つのは魔物だけのはず……。


「じゃあ、ヒントだ。お前、兄さんに魔術習っている時にぶっ倒れたことないか?」


「……何度か、ある」


 あれはそう、初段階魔術の間違えることなく連発するという試験で一回気を失っている。複数の魔法円や幾何学文様に複雑な記号を用いた、畳二畳ほどの大きさの魔法陣に魔力を流すという実験の際に、気持ちが悪くなって蹲ったことが二回ほど。

 頭からサーっと音が鳴るように血の気が引いていき、額や背中に脂汗が浮かび、とても立っていられる状態ではなくなった。

 思い直してみれば、あの感覚は日本でも一度経験している。寝坊して遅刻しそうになり、朝食を抜いて急いで登校したら即朝礼があって……。

 あぁ、そうか! あれは貧血の時の感覚に似ているんだ!


「血液か?」


「そうだ。ただ、兄さんの話によるとお前は完全に後付で魔力を精製する能力を得ているから、俺たちと同じとは限らないんだけどな。症状としてはよく似ているから、効くだろう。

 えーと、どこ入れたっけな? あったあった、これは造血剤。

 魔術を行使する前に一粒飲んでおけ。事後、少しは楽になるはずだ」


 ライアンが手渡してくるのは小さな四角い小箱を受け取りつつ考える。

 魔力は非常に万能なエネルギーだ。そんな便利な代物を何の対価もなく利用できるというのもおかしな話であり、納得がいく。

 魔力の糧として持っていかれる血液は、献血したと考えてしまおう! めざせ、サラサラ血液。


「ほう、魔力をつくるのに血がつかわれているとはな。確かに言われてみれば、思い当たる点はあるか」


 アグニの爺さんも魔素と魔力の関係は知らなかったらしい。やはり、魔人族と人族では文化レベルが異なるのか? 持っている情報が違いすぎる。


「血は肉に比べると幾分も早く回復するからな、そのように肉体が適応したのだろう、と母さんが言っていた。俺はあくまでも人族の社会で育っている魔人であるからして、詳細を訊ねられも答えられないぜ?

 どうしても知りたいなら、兄さんの帰郷に付き添って母さんに会えばいい」


「いや、この造血剤だけでも対策にはなるから」


 そこまで手間を掛けないといけないほど、知りたい情報でもない。

 いずれは師匠とライアン以外のご家族に挨拶するため出向かなくてはならないだろうけど、それは今じゃない。

 だって、祖母の前に母親に会わないといけないワケで……。ミラさんのあのドの付くほどキツイ性格はきっと母親譲りだと思われる。師匠の性格を鑑みると、もはや間違いないだろう。そんな恐ろしい人物に会う覚悟は今の俺には、まだ整っていない。




「ところでライアン、先ほどから話に出てきておるハイランドエルフにはどこで会うたのだ? 儂はこの大陸に存在するという話は聞いたことがないのだが?」


「あ? あぁ。目立たないように端っこに隠れ住んではいるけどよ。リンゲニオンにも帝都にも、それなりの数が住んでいるぜ。俺もなんでこんな所にって思って訊いてみたんだが、なんでもあの人らはリンゲニオン王家の監督役らしいわ」


「ふむ、魔力の多寡を計れるからこそ区別がつくとは何とも便利なことだの。儂などエルフとハイランドエルフの見分けがつかんからな。

 で、じゃ。ライアン、魔石の話もしておいた方が良いのではないか?」


「いや……でも、なあ?」


 俺が沈思黙考している間、ライアンとアグニの爺さんの間で会話は右から左へ、左から右へと聞き流していた。

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