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第八十一話

 街道は馬車が横に五台ほど並んでも十分に対向できる幅がある。

 開拓団の馬車は、そんな街道を二列の縦並びとなり順調に進む。

 後方にいたキャラバンの馬車列や個人所有であろう馬車は、歩みの遅い農耕馬主体である開拓団の馬車列を追い越して行き、背負子姿の行商人は逆に距離が離れていく。


 ただ、ライアンが放っておけと言う連中はちょいと厄介だった。

 開拓団の馬車列を追い越しては進路を塞ぐように馬車の速度を緩めたり、後方から煽るように接近してきたりと手が込んでいるからだ。

 しかし前方はダリ・ウルマム卿率いる元軍人勢が迅速に対処し、後方では皇帝陛下から貸し出された兵士がこれまた接近する馬車を遮断していた。あからさまに怪しい連中については捕縛され、兵士の乗る馬車へと押し込められている始末だ。


 と、引き続き荷馬車の上で周囲の警戒任務にあたっていると。


「ゆ……ではなかった。魔王殿、ライアンを借りても良いだろうか?」


「ああ、はい。どうぞ、どうぞ」


 ゆっくりとはいえ、走行中の馬車に飛び乗ってきたのはアグニの爺さんだった。

 ライアンの素性だが、例外的にこの爺さんには明かしているそうなのだ。

 俺は何気なく、前方からの視線と隣の馬車を操る御者の視線を塞ぐ。まあ、相棒にお願いするのだが。同様にアグニの爺さんが後方や隣りからの視線を遮るとライアンの偽装が解かれ、俺の横に居たはずの青年の姿は消え、身体を伏せた状態の幼い少年が現れる。

 一体全体、どういう技術なのか? 恐らくは魔法の類なのだろうけど、魔法陣や簡易な魔法円が現れる兆候は一切なく、不思議なものだ。

 周囲の視線が一切ないことを確認後、ライアンは身を起こした。


「ではライアン、始めるとしよう」


「何を始めるんですか?」


「ん? あぁ、俺はこの爺に弟子入りしたのさ。

 なんつうか、魔人の男児は総じて地味でな。兄さんみたいに派手な魔術は使えないんだわ。地味な魔法ならお手のものなんだけど、よ」


 ん? やっぱり、ちがう、のか?

 師匠は魔術と魔法を混同したように話すのだが、ライアンは逆に魔術と魔法を別物として扱っている。

 俺はそれを通訳スキルの揺らぎの範囲だろうと考えていたのだが、どうやら違うらしい。

 

「魔術と魔法って同じじゃないの?」


「いいや、完全に別物だぜ。それが理解できるのは魔人だからかもしれないが、な。

 魔術はどんなに簡素にしようと術式が必要で即応能力に劣る。兄さんだって、その点はどうしようもない。だが、魔法は違う。術式を必要としないからな」


「小難しい話をしておるとこ悪いが、さっさと始めるぞ」


「続きは稽古の後だ、魔王」


 俺の疑問は放置され、ライアンとアグニの爺さんは馬車から飛び降りた。街道脇の草がぼうぼうと生える草原に。

 但し、俺の視線はライアンとアグニの爺さんを見つめているのだが、体や首を動かす必要はない。何たって彼ら、馬車の走行速度に併せ、走りながら肉弾戦を繰り広げているのだ。

 進行方向に背を向け受けに回るアグニの爺さんも凄いのだが、ライアンのスキル『剛腕』『剛脚』の効果の方がもっと凄い。というか、酷い!

 馬車の速度に併せている時はそうでもないが、拳を握りこんだ直後の踏み込みで地面が爆ぜる。その拳がアグニの爺さんにヒットした瞬間には、撲殺ヒーローと名高いアグニの爺さんが吹っ飛んでいくのだ。

 とてもライアンの小さな体躯から繰り出されているとは考えられない威力なのだ。


 そんな二人の稽古風景もしばらく観察したのちには、周囲の警戒へと物見のお役目に戻る。初日からサボるのはマズイ。少し前を走る馬車にはミラさんが乗車しているのだ。バレたら何を言われるか、わかったものではない。




「で、さっきの話の続きだが。

 魔人以外で魔術と魔法を区別しているのは、俺が実際に会った中でもハイランドエルフくらいなもんだ。人族やその他の種族は同じものとして考えているだろうぜ。

 兄さんが以前、公国首都にある学院に通っていた頃に母さんから教わった知識を披露して盛大に笑われたそうだ。それ以来、兄さんは学院を去り、ミラやライナスの教育はファビア義姉さんと兄さんで行うようになっている」


 三十分程度で稽古を終えたライアンが俺に分かり易いように解説してくれる。


「兄さんと俺は母さんから同じ教育を受けてはいるんだが、どうしても人族の兄さんには魔法が使えなかった。でも、魔術理論の理解度とその実践に関しては、兄さんの方が俺なんかより遥かに上なんだけどな。

 俺に出来て自分に出来ない兄さんは悔しさからか、学院での一件以来ずっと魔術と魔法を敢えて区別しなくなっている。だから、お前が疑問に思うのは仕方のないことだ」


「それで話は少し変わるが。お前、魔力が極端に少ないんだから無理に魔術に頼るんじゃなく、何か一つでも近接戦闘の技術を得た方が良いぞ?

 ユニークスキルだって万能じゃねえ。あれだけ強力なんだ、どっかしらに穴があってもおかしくはない」


 俺の疑問から派生して、俺へと突き刺さる事実。

 わかってはいるんだ。でも俺、剣道や空手の経験皆無なんだよね。兄弟の中でも、弟が空手をやっていた程度なのだ。


「まて、なんでライアンが俺の魔力の多寡を?」


「ん? そんなもん、一目でわかる」


「どういうこと?」

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