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第七十九話

 家畜。それは人々の生活とは切っても切れない関係の獣たち。

 こちらの生活も一年を余裕で過ぎているというのに、俺は大半の家畜を目にするのはほぼ初めてのこと。

 原則的に壁の中という限られた環境にある町や村では居住区と商工業区とは別に、農地や放牧地は完全に区切られており、用のない者や資格を持たない者の出入りは制限されている。アリガでは豚を壁外の野に放っていたけれど、あれは例外中の例外らしい。

 そのような経緯で俺は今までにお目に掛かっていたことのある家畜は、それこそアリガの豚くらいなのものだ。やたらとデカかったが豚は豚だった。食肉用だとすれば、大きいことは良いことなのだろう。

 だからこそ、この異様な光景に俺は驚きを隠せないでいる。


「どうしたのよ、カットス? 牛なんかじっと見て」


「牛? これが本当に牛なのか?」


 俺にはどう見ても虎にしか見えないのだが……。確かに細部は違うよ? でもね、顔や体型は完全に虎だよね?

 黄色地に本来であれば虎縞であるはずがホルスタインのような黒い斑点模様。本当は良くはないけど、まぁ良いだろう、我慢できなくもない。

 体がデカい分、虎ゆえの背の低さも乳を搾るのに適していそうだしな。


「それは羊ね」


「羊? マジかよ! 完全にアルパカ、リャマ?」


 どっちだったかは不明だが、月の栄亭でよく食った覚えがある。それに寝具などの素材に用いられているのは、コイツの毛だ。

 しかも、デカいのだ。何がって? その体躯が、さ。

 ただ、体の大きさに関してはわからない話でもない。

 この世界には普通に魔物が存在していて、獣たちとしのぎを削り合っている。

 凶悪な魔物に対抗するために、身体を大きくすることで対処するしかなかったのだろうと考えられなくもない。まぁ、それで対処出来ているかどうかは知らないが。


 明日には帝都からの出発を控えた、今日。

 俺を神輿とする開拓団員総出で朝から家畜の積み込み作業をしている。

 俺はミラさんと一緒に作業をし、リスラは子供たちのお守だ。そこにはライアンも込みなので、安心だ。


 で、狭い運搬用の荷車に押し込めるため、今日この日までは楽にさせておいた家畜たち。ストレスが溜まることで牛の乳が出にくくなったり、羊の毛の質が落ちるのを防ぐためギリギリまで積み込むことを避けたのだ。


「デカいけど、鶏は鶏だな!」


「まったく、何しているのかしら?」


 俺の常識が悉く破壊されることを抑止したのは鶏だ。

 コイツらは至って普通の鶏だ。チャボっぽいのや白色なんたらといった小学校で飼っていた鶏に似ている。まぁ、でも二回りほどデカいことには変わりはないんだけどさ。


 家畜運搬用の荷馬車は全部で十台ほどである。

 人員輸送用の馬車は普通の幌馬車で一台に詰め込めば二十名は乗車できるそうだが、長旅となるので余裕を持たせ一台十名ほどの乗車で二十台も用意されていた。

 開拓団員の総数が百五十名なのに対し、どう考えても多すぎるのだが……。

 それでも家財道具や開拓に於ける資材などは全て相棒が『収納』しているため、荷馬車の数が皆無であるのでこれでも少ないらしい。


 荷馬車や馬車を牽引する馬の数も相当だ。この馬たちは馬車を牽くための馬ではなく農耕馬だそうで、開拓地での作業まで視野に入れて買い付けたのだそうだ。

 実際に馬車を牽くためだけの頭数はもっと少なくても良いそうだ。人員を輸送する馬車は本来は一頭で十分なのだが居住地や農地の開拓を視野に入れると頭数が不足するのだそうで人員輸送の馬車は二頭引きに、家畜輸送の荷馬車も四頭引きにしたのだという。

 農耕馬であるから当然のように力強く、疲れにくいらしい。その上、気性が非常に温厚で扱いやすいのだという話。但し、普通の馬に比べて足は少し遅いそうなのだが、特に問題となることはないようだ。

 個人的には軍用のホバースケイルに興味があったのだが、あれは特殊な調教が必要で一般には卸せないということだった。残念だが、いたしかたない。

 で、この馬も言うに及ばずデカかった。俺が日本の観光牧場などで見たことのある競走馬を引退したようなサラブレッドに比べ二倍ほどに大きさがあるかも。

 まず、筋肉が凄い。筋骨隆々とはこういうことなのだろう。そして鬣に面構えも凄まじい。これでいて温厚だというのだから安心感も一入だ。

 たぶん、暴れん坊だったら手が付けられないだろうからな。その威容は正に、化け物と言えた。

 あぁ、勿論、農耕馬以外の馬もいる。ダリ・ウルマム卿率いる元軍人さんたちの愛馬がそうだ。彼らの馬たちはサラブレッドに似て線が細く、走りに長けているのだと思われる。ただ、やはり、俺が知っているサラブレッドよりも若干デカい。



「――ッス、聞いてるの?」


「ごめんなさい。考え事をしてました」


「もう、しっかりしてよね。進路は各都市とその周囲の開拓村を経由するのよ?

 私が最前列の馬車で指示を出すから、進路については問題ないでしょうけど」


「俺は主に後方の警戒ですよね。わかってますよ」


 ミラさんも初めての大仕事に対し、念入りな確認をしているのだろう。

 俺に割り当てられている仕事とは全く関係ないのだが、そこは言わぬが花だ。

 俺はダリ・ウルマム卿率いる元軍人と冒険者引退組とで、周囲の警戒に当たるのが仕事だ。街道筋には魔物が近寄ることは滅多にないそうだが、キャラバンや開拓団などを主に狙う大規模な野盗などの警戒する必要があるのだという。

 また、車列の中央部ではリスラが子供たちの護衛を務めることになっている。但し、そこにはライアンと変態エルフ嫁というある意味で最強の二人もいるので任せておいて十分だろう。



「あぁ、良かった。間に合いましたね。マスターがのんびりし過ぎなのですよ~」


「おぉ、カツトシ殿。遅くなって申し訳ない」


 ミラさんと多種多様な事柄の相談をしていると、そこに予想外の来客が訪れる。


「えっ、なんで、ここにいるの?」


「魔王様、酷いです! これでも急行したのですよ?」


「冒険者ギルド出張所の立ち上げ業務があるでな。手伝いで儂が駆り出されたのだ。所長はその娘だがな」


 現れたのが宰相閣下が非常にお世話になったというアグニの爺さんと、ノルデの冒険者ギルドで俺の担当していた受付嬢さんだったからだ。

 俺はミラさんと目と目で通じ合い、一緒に首を捻る。

 冒険者ギルドの出張所の話は聞いているけれど、それは開拓がある程度落ち着いてからという話だったのだが、どういうことだろうか?


「やや、アグニ殿、お久しぶりでございますな」


「ライツバルではないか、久しいの」


 まるで示し合わせたかのように現れ出でる宰相閣下。絶対にタイミングを計っていたよね?


「どういうことでしょうか、宰相閣下。以前伺っていたお話と異なるようですが?」


「うむ、私の方での連絡事項に手違いがあったようでな。アグニ殿までお越しになられたのは、流石に意外ではあるのだがどうしたものか」


「な~に、気にするでない。ここまで来てしまったのだ、開拓団に同行すれば良いだけのことよ。はっはっはっはっ」


 ミラさんの鋭い質問に、宰相閣下自身も意外だというアグニの爺さんの出現。そして何より、好い加減なアグニの爺さんの対応。カオスなんだが、どうすんだ、これ?

復帰後、文中で用いられる数字を漢数字に変えてます。

以前のものはそのままですが、ご了承ください。

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