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第七十七話

 繁華街から外れ、通りも細く入り組んだ路地のどん詰まりにある宿。

 ドタドタと室内からでもわかるほどの足音を響かせ、奥まった一室の扉が叩かれた。

 事前に決めていた回数のノックは少々乱暴だが、確認後に扉を開いた。扉の先にはローブを目深めに被った怪しげな風体の男たちが。その彼らに廊下の左右を一度確認させてから私は部屋へと招き入れた。


「はぁはぁはぁはぁ、隊長! ありゃダメだ、赤い光が……ぐっ、ゴフッ」


「慌てるな。落ち着いてからで構わない」


 隊長である私へと報告をあげようとするのは、我が隊の副長を務めるアラン=メヒルド。メヒルド子爵家の三男で隊長の私よりも家格としては上だが、家督を継げない以上はそう変わりはなく、常に使いっ走りのような仕事に従事することが多い不憫な男だ。

 そしてもう一人の男はリグダールといい。寒村の狩人の次男で田舎暮らしに嫌気が差し上京した経緯を持つ。彼は父親から受け継いだ狩人の技術にスキルの相乗効果もあり、我が隊の斥候になくてはならない存在である。

 彼らには異界の勇者が結成したという開拓団の結成式典の調査を任せていたのだが、この慌てようは一体何なのだろうか?



「それで、何があった?」


「結成式典は皇宮領内で執り行われ、部外者は立ち入ることができませんでした。

 多少無理をすれば何とでもなるのでしょうが、騒ぎを起こすと式典そのものが中止されかねませんので控えましたがね。リグ、続きを頼む。ふぅ」


「はい。副長と別れた後、私は商家の建物の屋上から観察していたところ、式典そのものは訓練場のような構造物内で執り行われた模様です。しかし、この構造物の外壁は非常に高く、目標を直接目視することは終始不可能でありました。

 ただ、式典の数時間ほど前に一度。西側の外壁を突き破る赤い光を目撃しております。この赤い光は、式典の開催中に再びまみえるのですが……」


 式典会場には立ち入れず、異界の勇者と目される人物の容姿の確認も取れていない、か。

 情報筋に依れば、かのヘルド王国が古代文明の遺産を使い召喚に成功したという話。我がムリア王国内では信頼性の薄い情報として扱われていたのだが、ここへきて帝国の警戒態勢が厳重であることは情報の確度をあげることに繋がる。


「その光は一体何なのだ?」


「わかりません。ですが、大型の兵装或いは魔王と呼ばれる冒険者絡み、または遠距離射程の魔法ではないかと」


「古代遺跡の発掘された兵器という線も捨てがたいですが、私もほぼ同意見です」


 私の部隊は帝都に潜入しての情報収集。収集した情報を実行部隊に伝達するだけとはいえ、少々きな臭くなってきたか……。いや、こんな作戦を国の上層部が立案する時点で今更ではあるか。 


「一度目の光が訓練場の外壁を破壊したというが、二度目はどうだったのだ?」


「自分は一度目を目撃してはおりませんが、二度目のものなら。あれはとんでもない射程を持った攻勢の光です。空に放たれたものを目撃したのですが、雲を貫通し消し飛ばしています。非常に危険なものだと判断できます」


「二度目の光は、最初の光より数段細いように感じました。しかし、危険であることには変わりありません」


「実行部隊は既に帝国内各所に配備済みだ。こちらの情報の伝達が開拓団の移動に後れをとれば致命となろう。だが、目的地すら掴めておらぬ現状では我が隊は追跡調査の末、進路の予測をせねばならぬ。但し、緊急で本隊に撤退を上申しておく必要もありけるか」


 吹けば飛ぶような一代騎士爵の私の陳情など、本隊のお偉方が受け入れるとは考えにくい。しかし今、手にしている情報は危険に過ぎる。

 異界の勇者の確保を代償に、同胞をむざむざ死地へと送り込むことに疑念を抱かざるを得ない。

 第一にムリア王国が現在も貧窮しているのは王国上層部の見栄に由来する。

 帝国貨幣や公国貨幣に市場を席捲されていたとしても、今まで何も問題などなかった。少々の経済的な格差が生じるなど、大国と小国と間では日常茶飯事であるのだ。

 ノウハウも何も持たない新造貨幣発行などという無謀を通り越した政策を実施しなければ、ジャガルに付け入る隙を与えることもなかったのだからな。


「よろしいのですか? 隊長の進退問題に発展しますよ?」


「なに、構わぬさ。情報を秘匿し、仲間を殺すよりはマシだ。

 謎の兵器に、魔王を名乗る冒険者。我らの敵はただの開拓団一行であったはずなのだが……」


「では、私は急ぎ伝文を作成いたします。分散浸透中の各小隊への通達は如何しましょう?」


「手が足らぬ。リグダールは本隊へ馬で駆けろ、宿の厩舎に繋いでいる私の馬を使え。本隊から各隊へは鳩で通達も可能だろう」


 浸透している各隊にも私の方から直接通達しておきたいというのが本音だ。本隊を経由する際にどう捻じ曲げられるか、わかったものではない。

 ただ、私の隊でも国境から帝国内へと足並みを揃え潜入できた者はこの場に存在する三名のみで、関所で足止めをされた者たちの越境はほぼ不可能と考えた方が無難である上、もはや手遅れに近い。大方、分散浸透中の小隊や分隊の状況も変わりはしないだろう。


 今思えば、作戦の最初期に中隊規模での潜入に成功したという女性のみで構成された第三騎士団は実に有能ではないか。

 国の上層部はお飾りの騎士団は国庫の負担になると解散を宣言したらしい。しかし彼女らもまた国を憂う者である以上、私の所属する第二騎士団や首都防衛が主任務の第一騎士団と何ら変わりはなかったのだ。

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