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第七十六話

 現在、子供たちと触手のハートフルなふれあいが俺の至近で繰り広げられている。

 

 ノルデのように子供たちの人数と触手の本数が釣り合わないということもなく、一人に一本若しくは二本という贅沢な配分である。

 諦めに似た何かで開き直って相棒に依頼したのが数分前のこと。

 当初はやはり、というか案の定、子供たちはドン引きした。ただ、その直後に引き金を引いたのはこいつだ。

 そう、ライアンはサクラなのだ。仕込みなのだ。こちら側の人間なのだ。但し、魔人族だが……。


「あははははは、おもしれえ!」


 ライアン、お前、本気で楽しんでいるだろっ!

 他の子供たちも今は同様に相棒で遊んでいる。


「ぶら~ん! ぶら~ん!」


「きゃははは」


 楽しそうで何よりだわ。少し前までの怯えた表情は皆無となり、男の子も女の子も満面の笑顔が花開いている。

 しかも何故か、俺の胸元に必死に抱き付いている少女までいる。この子は、え~とサリアちゃん十歳だったか?

 双子がエルフかハーフかの判断が出来ない中、この少女はエルフと断定されている。耳の長さで判断したのか? だが、この子も双子も幼いからか、そう大した差は無いように思える。どのような経緯で孤児院に預けられたか、それとも保護されたのか、疑問が浮かぶ。が、今は遊び、遊ばせる時間だ。



「カットス、相変わらず大人気ね」


「まあ、そうなのですか?」


「ノルデでは毎日、こんな感じだったわよ? 但し、子供の数がもっと多かったけどね」


 リスラの質問に答えるミラさんは、ノルデで俺が子供たちに集られている所を目撃していたらしい? ほぼ毎日、こんな調子だったのだから、おかしくはないが。

 師匠とミラさんが暮らしていたのはノルデでも北側の貴族街で、俺と相棒が子供たちと戯れていたのは中央から南側に掛けての所謂商業街であったはずなんだけどな。



「ハイハイ、一旦終了よ。結成式が始まるわ」


 楽しく遊んでいた子供たちからのブーイングが巻き起こる。意外というか、当然のようにその中にはライアンの声音も含まれていた。


 開拓団の結成式と銘打っているが、言ってみれば朝礼のようなものだ。但し、体育館のような屋内ではなく、練兵場という屋根もない運動場に近いロケーションである。

 俺の配置は朝礼に於ける教師陣の立ち位置に似ている。校長先生にあたる立ち位置には皇帝陛下が、教頭先生には宰相閣下が、という感じだ。

 そして当然の如く、長い演説は校長先生の真骨頂と言えた。今日は五月晴れといった風情の天候で、雲こそあれど炎天下ということもなく過ごしやすい気温。倒れる生徒こと、開拓団の参加者はでないだろう。

 その参加者たちの総数は百五十二名。結構な数だが、これでも帝国政府や師匠に厳選されている。応募総数は千を超えていたとか、いないとか……。


 冗談はさておき、開拓団の結成にあたる代表者の挨拶が順に進行していく。

 宰相閣下と先ほど話した通り、俺が勇者であるという事実は伏せられている。

 だが、何も発言しないということは叶わず、冒険者の代表として挨拶をさせられた。それも本命のミラさんの直後ということで、簡潔に済ますことが出来たのは幸いだろうか。

 こういった演説のようなものは得意ではないのだ。やはり慣れないからか、恥ずかしさが先立つのだ。


「カットス君、アレを」


「本当にやるんですか?」


 しまったー!

 『びぃむ』に関して、師匠たちと話を詰めていなかったことを思い出した。


「カツトシ殿、妙な輩への牽制にもなります。景気よくお願いしますよ」


 皇帝陛下はアレを見ていないから、そんなことを言えるのだ。至近で目撃している俺としては避けたいところだが、そうも言ってられない状況に陥る。

 何が行われるのかと開拓団の参加者たちから好奇の視線が殺到している。

 荷物の集積に付き添い、実際に先の『びぃむ』を目撃した者たちの哀れみにも似た視線は、少なくとも救いではあるのだろうが。


「何をしているの! 早くなさい」


「わかりました、やります。相棒、もう一度『びぃむ』だ。

 ターゲットはあの雲にしよう」


 ミラさんにまで急かされ、覚悟を決める。

 目標とするのは今、俺が立っている場所から正面の上空にある雲。射程距離的には届くかは不明だが、ほぼ不可能だろう。

 どこかで見た銅像のようなポーズで俺はターゲットを指定した。相棒はそれを追うように触手を展開し、『びぃむ』のチャージに入る。

 ちなみに今回の触手の表皮は衆目があるため、大人しめの素材で構成されている。主な素材は地竜のようだが、何かしら他の素材も混じっているように思える。


 『びぃむ』のチャージが完了との報告が相棒から齎されたのだが、若干異常も見られた。無事にチャージが完了した緑色の魔法円を持つ触手が三本、赤いままの魔法円を持つ触手が五本。

 意味が分からないが、分からないなりに考えると、どうやら弾も無尽蔵ではないらしい。何らかの原料が必要なのだろう。例えば、魔力とか?


「仕方ないよ、相棒。撃てるだけでいいさ。

 では、お待ちかねの『びぃむ』発射!」


 俺の宣言により、音もなく迸る赤黒い螺旋の閃光。

 晴れ渡る青空に浮かぶ儚い浮雲に、閃光はジリジリと伸びて往き。

 まさか、まさか、雲を貫通したと思いきや、貫通した傍から周囲を巻き込むように消し飛ばす。

 残ったものは綺麗に三つの円形で撃ち抜かれた雲のみ。

 閃光は射程距離に達したのであろう。花咲き、やがて散りゆくかのように大気へと溶けて消えた。

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