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第七十五話

「魔王の兄ちゃん、久しぶりっ!」


 こんな元気な掛け声と共に現れたのはライアン少年バージョンだ。

 こいつ、完全に子供の振りをしていやがる。その癖、目だけはちゃんと偽装しているのだ。

 だというのに、ライアンと手を繋いでいる変態やその後方で他の子供たちを誘導しているミラさんとリスラには見えないように、口の端をやや上げながらニヤリと笑う仕草は以前のベスタのままなのが残念さを際立たせる。


「カットス、ライアン君とはやっぱり知り合いだったのね? 叔父様と同じ名前の子だから、私も気になっていたの。でも、よくある名前だからかしらね。叔父様とは似ても似つかないのだけどね」


 近付いてよくよく観察すれば、師匠と似ている部分は幾らか存在しているのだが結構大雑把なミラさんはそこまで関知していないらしい。それは別としても、実際にライアンはミラさんの叔父なわけなのだが……。


「あぁ、うん。以前に町で出会って、一緒に遊んだことがあるんだよ」


 徹夜会議の最終盤での口裏合わせの台詞を口にして誤魔化す。俺が街中へ出向く時は大概ミラさんも一緒なのだが、疑問に思われている節はないようで一安心だ。


「オレ、魔王の兄ちゃんと一緒に開拓団に参加するんだ!」


 次から次へ、よくもまぁ抜け抜けとそんな台詞が出てくるものだ。と、俺はライアンに感心する。その横でしっかりと手を握っている変態エルフの苦笑いがまた珍しい光景を醸し出している。


「孤児院からの参加するのは、この子たちね。全員で五人いるわ。

 この子は十二歳のガヌ君、獣人族の少年よ。

 この子は十歳のサリアちゃん、エルフの女の子ね。

 こっちは八歳の双子で男の子がタロシェル君、女の子がミジェナちゃん。この子たちはエルフかハーフエルフか院長さんや職員でも判断がつかないそうなの。

 それで最年少五歳のライアン君は人族の少年なのだけど、つい先日孤児院に保護されたばかりと聞いているわ。それでね、カットスと面識があるという話で着いてきたのよ」


 ミラさんの紹介に合わせ、各自が俺へと会釈。

 ガヌ君は特に印象的で、猫耳やしっぽだけが獣的な特徴という胡散臭いものではなく、完全に二足歩行するトラ猫! 見た感じ少し硬そうな毛は、短毛というほど短くはなく、長毛というほど長くもない毛並みでモッフモフだ。

 他の子どもたちはエルフの血が大活躍しているお陰か、幼いながらも美少年に美少女揃いときた。似非最年少なライアンの紹介など好い加減過ぎて、苦笑すら漏れて来ない有様だ。


「初めまして、冒険者をしているヤマダ=カツトシです。これからよろしくね」


 俺は基本、初対面の相手には冒険者と自己紹介をしている。日本からやって来ただけで勇者扱いされるのはどうかと思うし、相棒さえ隠せば魔王と呼ばれる必要すらないのだ。自称など、以ての外である。

 月並みな挨拶を返すがライアンが魔王魔王うるさいものだからか、子供たちの俺を見る目には怯えに似た何かがあるように感じる。

 悪魔も魔王も実在しないという話はどこへいったの? ねぇ、師匠!



「カツトシ様は怖くないのですよ? とてもお優しい方ですからね」


 俺をフォローしてくれているリスラを、ミラさんと変態エルフがジト目で見つめる姿は何ともやるせない。

 少なくとも変態エルフはリスラを非難できる立場にはないはずだ。一緒に気絶していた経緯があるのだから、な!


「(なんだ、この微妙な空気は?)」


「(リスラとキア・マスとの初対面で色々あったんだよ)」


 声を潜め、耳打ちしてくるライアンに例の事件のことを説明すると隣の変態エルフが恥ずかし気に悶え始めた。後始末はライアンに任せることにしよう。



「それでね、カットス。あなたには魔王と呼ばれる冒険者であることを最前面に押し出しておいてほしいんだって。あなたが勇者であるという事実は伏せたまま、結成式を敢行するそうよ」


「勇者殿、その件については先日話した内容に準じる。彼の懸念が当たっているかわからぬが、周辺を嗅ぎまわっている輩の存在が確認されておる。

 ゆえに勇者殿の特定を防ぐことにしようと、今更ではあるがご協力願いたい」


「はぁ、わかりました。でも、俺を勇者と呼んでしまっている時点で手遅れなのでは?」


「ふむ、確かにそうであるな。では、カツトシ殿と」


 子供たちの後方に佇んでいた宰相閣下。ミラさんたちと共に現れたことからダリ・ウルマム卿の話の通り、共に孤児院へと向かっていたのだろう。

 その宰相閣下が提案することなのだ。既に主要な参加者には話が通っているものと考えて相違ないだろう。


「だから、ね。その……カットスのスキルを披露したらどうかしら?」


「あっ! 魔王の兄ちゃん、アレやるの?」


 俺は見たぞ。宰相閣下からのアイコンタクトを受けて、ライアンが発言するところを。説明を求めて宰相閣下に視線を送ると、サッと目を逸らされた。ヤラレタ。


「まおう! まおう! まおう!」


 腹は立つが不思議と親近感の湧くライアン。実年齢を考慮すると遥かに年上であるはずなのだが、ベスタであった頃からの付き合いであるからなのだろうか?

 『びぃむ』で壁を破壊した直後なので、少々ナイーブになっているというのに、なんというタイミングか。しかも師匠は不在、今はダリ・ウルマム卿とどこかへ行ってしまっている。


「子供たちを驚かせたくないから、相棒は隠していたというのに。

 仕方がないか。相棒、ノルデで子供たちに人気だったヤツでお願い」


 怯えにも似た何かの感情をうかがわせる子供たち。どう説明して開拓団に参加させたのかも不明である以上は、出来るならば少しずつでも心を開いていくために時間に余裕を持たせるべきだと俺は考える。だが、ここまで煽られると開き直るほかない。

 ノルデでは子供たちに何故かとても大人気だったのだ。その時の要領でいくしかない! リスラや変態エルフを恐怖のどん底に叩き落した時とは異なる形態であれば、問題なんてないはず……だよね?

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