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第七十四話

 確認、確認と。

 まずは的にした案山子なんだけど、これはもう木端微塵どころか、その破片すら存在を確認できない。相棒の放った『びぃむ』が上半身部分を貫通した直後、どういう理由か巻き込まれるように消滅したからだ。

 

 大体、発射のシークエンスから不可解だったのだ。そこで止めておけば……といっても、後の祭りなんだが。

 俺の方の段取りとしては、こうだ。

 練兵場に集積された荷物の『収納』が済み、的とした案山子を設置後に相棒に『びぃむ』の発射を指示。

 すると、相棒は基幹となる八本の触手を俺から見て正面前方の的へと向け、発射角の調整に入る。俺の視点からでもわくわくが止まらないのだ、客観的な視点であればなお格好の良く映ることだろう。ロボ好きとか、SF好きならの話だけど。


 俺は発射角の調整が済み次第、即発射されるものだと考えていた。

 しかしそうではないようで、各触手の先端部から三十センチほど手前の部分にドーナツ状の魔法円が出現する。この魔法円、最初は全体が赤かったのだが時間が経つにつれグラデーションを描きながら緑へと変色していった。その際に触手の先端が何かを吸引しているかのように収縮を繰り返していたのを覚えているが、それが何なのかは今のところ謎でしかない。

 それはまるでサーキットなどで見られるスタートの信号機のようで、最終的に魔法円の全てが緑色に染まる。

 何が起こっているのかよくわかっていない俺が首を傾げていると、二本の枝が伸びてきて一本が俺の頭を撫で、もう一本が目の前でサムズアップ。

 準備完了、オールグリーンとでもいうのだろうか? いいや待て相棒、お前そんなこといつ覚えたんだよ!


「準備完了なら、発射!」


 それぞれの触手の先端は俺よりも前に綺麗に配置されている状態で、その先端部分から鮮血のような色彩の赤と黒が混じったような光が水平に螺旋を描きながら迸る。

 触手の先端部の太さは俺の手首程度でしかないのだが、そこから迸る光の直径はバスケットボール程度でありながら連続して射出されているためか柱のようにも見えた。

 但し、赤黒い螺旋の柱の進行速度は目視できる範囲である。それでも約一秒ほどの射出時間ですら、的にした案山子を貫通後も伸びていく様は電信柱などより遥かに長いものだった。

 しかし、射程距離というものも当然あるようで、的や練兵場の内壁や外壁を貫通しただけで済んでいる。どこでどうやって消失したのか、俺自身では確認できなかったことが惜しまれる。それがわからないと運用するこは限りなく危険なままなのだ。


 八本もの触手から一斉射された『びぃむ』本体が貫通し、その後の余波で巻き込まれ消滅した的や練兵場の内外壁。

 『びぃむ』にSFやロボットアニメのような爆発属性がなかったことは幸いではあるが、余波もまたとても侮れない被害を齎している。

 本体は直径バスケットボール大の光の柱なのだが、余波で抉られたであろう直径は優に二メートルを超えている。どういう理屈か、外壁部分は更に大きく直径で五・六メートル近い穴が開いていた。何か妙なものが置いてあったとか、爆発物とか? それが計八本分なのだから、被害は洒落になってねえ!


「とりあえず、だ! 相棒、土で応急処置をするぞ。空地から土を拝借してこよう。なるべく建物に影響が出ないように、何もない所からな!」


「被害が甚大になってしまったイタズラを必死に母親の目から隠す、子供のようだね。今回のは事故なんだから本職に任せるべきだと僕は思うよ。第一に証人がこれだけ存在するのだから諦めたらどうかな?」


 師匠に図星を突かれる。痛恨だよ! 俺は今現在ここに居る人たちよりもミラさんの反応が怖いだけなのだ。隠せるものなら隠したい!


「ほら、誰かが通報したようだ。ウルマム卿が走ってきている」


「ぐぅぅ」


「――これは一体、何が?」


 時間切れだった。ダリ・ウルマム卿がやってきてしまった。

 被害はあれど破壊音などはなく、あったとしても瓦礫が崩れる音程度だったのだが……。いや、この場合、俺が何かをしてこういう結果になったということの方が大事らしい。

 ダリ・ウルマム卿にはグチグチと小言を言われたが、大して怒ってもいないようだった。本人も元軍人というだけで現在、施設の管理を担当している訳ではないというのが大きな理由だそうだ。


「なに、勇者殿は国賓でありますからな。故意でもないのなら、注意で十分でありましょう。壁の修復は担当者に任せるとして、そんなことよりも結成式の方の準備に取り掛かりませんと」


「ライアン……は良いとしても、ミラと姫殿下がお戻りになりませんと始められないのでは?」


「そうですよ。所詮、お飾りの開拓団長の俺だけでなく、ミラさんを紹介しておかないと」


 開拓団の総責任者はミラさんで、その補佐がリスラなのだ。俺はあくまでも神輿なのだ。責任があるようで、殆どない楽な立場である。


「その件については問題ありませんな。宰相閣下も孤児院に足を運んでおいでですから。もうじきお戻りになるのではないでしょうか?」


「帝国はなぜかスラムが存在しませんからね。浮浪児を全て孤児院で保護しているというのは素晴らしい」


「いやいや、スラムが存在しないのではなく、発生してもすぐになくなるのですよ。

 成功の如何は別として、我が国は開拓団の結成数が多いですからな。その都度、低賃金で雇うことが可能となれば、そこはもう人材の宝庫でしかないのです」


「あぁ、なるほど。それはそれで素晴らしい。スラムの管理は色々と難しいですからね」


 師匠とダリ・ウルマム卿の話は明後日の方向へと舵を切る。孤児の話をしていたはずなんだけど、完全にスラムの話にシフトしてしまった。


「ですが、それはそれで問題がないわけでもないのですよ。この国の主要な民はエルフに代表される長命種族でして、どうしても職を選ぶとあぶれてしまいがちだ。選ばねば市井に幾らでも仕事はあるのですが……。

 結局は出戻りで再びスラムの発生、新規開拓団が雇用と、繰り返されるのです。ですがそれならばまだ良い方で、開拓団から脱走した者らが盗賊に身をやつすという話もまた枚挙に暇がない。陛下をはじめとし、重臣の皆さまも頭を悩ませている問題ですな」


 確かに盗賊は問題だな。魔物と違って安易に殺すという選択が取れない分、俺にとってその存在は鬼門なのだ。猿にすら躊躇してしまう俺には、それ以前の問題と言えるかもしれない。

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