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第七十三話

 よく寝て、起きた。

 ミラさんとリスラ曰く、トイレにもご飯にも起きることなく死んだように丸一日眠っていたそうな。


 そんな俺の眼前には、ちょっとした惨状が広がっている。

 右頬がピクピクと引き攣るのを堪えつつ、今は現状の把握と分析に努めるとしよう。




 原因はまぁアレなのだが、今は順も追って検証していきたい。

 

 師匠と共にやってきたノルデからの開拓団への参加者たちと荷馬車にギッシリと詰め込まれた各々の荷物の山。それを目録の作成順に相棒へと『収納』するというのはここ最近のよくある仕事のひとつでしかなく、何の問題もなく進行した。


 ただ、場所が良くなかった。荷物が山積された荷馬車が多数乗り込んでいたのは、例の如く練兵場。これが迎賓館脇の広場であれば、こんなことにはなっていなかったはずだ。

 まあ、どちらにしろ一度は試さねばならなかったのだが……。予想の範疇を大幅に凌駕する結果を導き出してしまったのは、俺の油断だろうか?


 今現在、見える範囲での被害は練兵場がちょっと壊れてしまっただけである。

 これをちょっとと呼んで良いものか甚だ疑問ではあるが、それは俺の心の平穏の為にそうさせておいてください! お願いします。

 一応、試験をする上で射線などに配慮し、人的な被害が出ないように心掛けていたのは幸いだろうか。そういった問題が発生しているという報告は未だない。



「相変わらず、魔王さんは半端ねえナー」


「だナ!」


 誰だよ、お前ら! って、よく似たドワーフが二人。

 いや、そもドワーフの個体差を見極めるのは難しいんだが……。でも、どこかで見たことのあるような、ないような。

 ノルデから来たドワーフというと、ロワン爺さん関係者かな? そういう目で観てみると鼻筋や目元が……って、判る訳ねぇえ!


 自分自身にツッコミを入れていると、そのドワーフたちと一緒に師匠が俺の傍にやってきた。


「カットス君、壊れたのは壁だけだそうだよ。それで忙しいところ、申し訳ないんだけど、こちらの二人を紹介させてもらうよ。

 ロワン氏の次男であるロギン氏と三男のローゲン氏。

 残念ながらロワン氏は足腰の衰えに難があって開拓団への参加は見送られた。あと、長男のローガン氏もノルデの店を受け継ぐそうでね……」


「で、俺たちが志願したんだナ!」


「親父からの土産もある。勿論、作り方も教わってきたんだゼ」


 俺がロワン爺さんの店で面識があるのはロワン爺さんと奥さん。それと長男のローガンさんだけだ。次男と三男は存在自体は聞いていたけど、いつも奥の鍛冶場でキンコンカンコンと作業をしている音でしか認識していなかったので、これが初対面となる。

 だが、今はそれどころではない。師匠の伝言は有難く受け取るとしても、今しばらくお待ちいただきたい。

 ところが、どっちがどっちか判然としないドワーフから木箱と革の小袋が差し出された。仕方なく、それを受け取る。


「わかってる、わかってるから少しだけ時間くれや。親父からの土産な、これ!

 発破を練り込んだ粘土で拵えた鏃なんだが、先端にこの着火石を取り付けて使用してほしい。魔王さんの鉄矢、ってわかるか? この矢の棒の部分のことだ、それと矢羽はそのままで鏃だけ交換して使ってくれよナ」


「木の箆だと木っ端微塵になるからナ! それと鏃の補充は利くから、次からは俺たちに注文してくれよナ」


 木箱を開けると卵パックやちょっと高めな菓子のパックの如く、整然と縦に並び固定された鏃が複数個。革の小袋には綿若しくは羊毛に包まれ、それぞれが接触しないように丁寧に収められている直径五ミリほどの小さな赤黒い小石が、これまた複数個存在しているのを確認した。

 鏃の先端部分にはこの小さい小石が嵌りそうな大きさの溝がある。要は、そこに嵌めろというのだろう。

 着火石というのは圧力を加えると一瞬だけ発火する、特殊な加工後に小さく砕かれた魔石を用いた極簡易な魔具とのことを指す。

 俺はいつも魔法でちょちょいとやるので使用したことは数回くらいしかない。ただ、世の中にはミラさんのように魔法を使えない人々の方が大多数らしく、一般家庭や商家に於いては生活必需品として流通しているものなのだ。使い捨てという面からライターというよりはマッチに近い。但し、マッチの芯のように燃え残りは出ず、着火石自体は綺麗に霧散してしまい何も残らない。


「僕も先日確認したのですがね。ついでなので、今回試射してみては、と」


「今、この状況でなければ、このサンプルも非常に嬉しいのですが……」


「「俺たちはそれを渡せれば、それで良いんだナ~」」


 ドワーフ兄弟たちは俺の於かれている状況の悪さには気が付いていたらしく、爆発物という物騒な代物を渡して去っていった。

 師匠が強引に紹介して来なければ、日を改めるくらいの融通は利かせられたのではないだろうか? 



「今日は午後から開拓団の結成式もあるよね?」


「うっ、そうでした」


「今度は祝砲代わりに空へ向けて放ってみてはどうだろうか? その面白い鏃じゃなくて『びぃむ』ってやつ」


「水平撃ちしなければ安全でしょうけど……、今は破損個所の確認をしておかないと」


 そう、これは『びぃむ』の試射が齎した災難。

 撃ち放ったのは相棒だが指示したのは俺だし、何より相棒は俺のスキルで……結局は俺が悪いのだ。


「あぁ、先ほどミラと姫殿下は孤児院に向かったよ」


「そうですか……。ならば、ミラさんが戻ってくる前に、この場を片付けないといけませんね」


 徹夜会議の予定では俺も孤児院に向かうはずだったのだが、俺が丸一日も寝入っていたためにスケジュールに大幅な変更を余儀なくされている。でもまぁ、なんとか回っているからセーフかな?

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