表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/393

第六十九話

「俺がこの姿を晒すのは如何に少人数とはいえ、ホーギュエル家にとっては致命傷となりえるでしょう。実際に母が向こうに残っていますからね」


「ですから、ライアンの正体については他言無用にお願いします」


「それは勿論。オニング公国内では微妙であろうが、余らは特に差別などするつもりなどない。元よりラングリンゲは多民族が集う国家であるゆえ、誰も気にしはせぬだろう。余にしても文献に目を通しておかねば……?」


「陛下、それです! 文献です。レグゼント兄上がまだ存命の頃に、古代遺跡から発掘された文献をリンゲニオンの書庫にて確認した際の、あの文献です」


「そうか、あの時の!」


「どのような文献であるのか、僕はとても気になります」


 皇帝陛下の話の途中に宰相閣下が割り込む。その際、掌に握った拳の小指側をポンと打ち付けた。ああいう動作って、ハーフエルフでもやるもんなんだね。

 いや、あの、そうじゃなくて二人で勝手に納得しないでいただきたい!

 早く思い出して、その内容を聞かせてほしいと思っているのは師匠も同じようだ。ただ、師匠の場合は個人的な興味の方が大きそうなんだよな。


「少し待たれよ、ライス殿。今、思い出しておるでな。

 確か、リンゲニオンではエルフたちの祖と伝えられているハイランドエルフ。実のところ、彼らはエルフの祖ではなく上位種族だということが遺跡から発掘された文献に記されておりました。同様にドワーフの上位種族としてティターンなる種族が存在し、人族の上位種族として魔人族の存在とそれぞれの種族の特徴が事細かく記されたおったかと……」


「そう、だから腑に落ちなんだのだ。魔人族は人族の上位種族であるというのに、人族至上主義を掲げる輩は何ゆえそのような差別をするのか? とな」


「母さんの言っていたことは真実だったのか。信憑性の薄い、眉唾もいいところだと思っていたが……」


「どちらにしろ、人族至上主義などを掲げている連中は自分たちが最も優れた種族でないと気が済まないのでしょうから、そのような事実があろうと公表するとは思えません。それにあのような輩は平気で事実を捻じ曲げますから、僕たちとは相性が悪いことこの上ない」


 皇帝陛下も宰相閣下も最初のベスタからライアン青年への変化に対してはかなり驚きを示していた。ライアンの本来の姿であるという少年というより幼児に変わったのち、目の変化があった辺りでは俺やウルマム卿ほど驚きを露わにはしていなかった。

 その時点で何か知っていそうな感じではあったのだが、もはやライアンが人族の上位種族であるなどという事実。それは、先ほどから立て続けにおきた驚愕をも超える驚愕である。


「喜べ、ウルマムにキア・マスよ! ライアン殿はお主らをも凌ぐ長命な種族であるぞ。ライアン殿も乗り気な今回の見合い、受けぬ謂われはない」


「ですが……実年齢と言いますか、肉体年齢といいますか、まだお早いのでは?」


「何を仰るのです、父上! このように素晴らしい出会いを与えてくださった陛下にもホーギュエル伯爵にもわたくしは感謝し、感激ています!」


「皇妃様、勇者殿、お助けを。お口添えを」


 ウルマム卿の瞳が揺れている、非常に揺れている。でも、泳いでいるというわけでもない。

 俺はこの縁談には中立のつもり……いや、正直なところは変態をベスタ改めライアンに押し付けたい気持ちがないとも言えない。ウルマム卿の内心も、もしかすれば俺と同じ? しかし娘の性癖を思い出し、押し付ける相手の容姿を観て日和ったとか?


「ダリ・ウルマム、良いではありませんか。些か急ぎすぎな部分もありますが、このような良縁を逃せば、それこそキアは二つ名の通り『行き遅れ』となりますわよ?」


「ちょっっっと、メレア! なんですか、その二つ名とは?」


「え? あなた、『行き遅れ』という二つ名持ちだったでしょう?」


「違いますよ! わたくしのは『死に遅れ』です! 何を勝手に捏造しているんですか? ライアン様に妙なことを吹き込まないでください」


 二つ名とか、凄く厨二病っぽい響きが……。しかもメレア妃、わざと間違えたっぽい。変態を揶揄ったり、煽ったりすること、本当に好きだよな。


「本来であれば、父親としてとても喜ばしいのですよ。しかし、我が娘ながらこのような残念な娘で本当に良いものかと……」


「マリ・ウルマム殿。確か俺はに若いどころか、幼い姿をしています。ゆえに心配事もありましょう。俺が――いえ、私は婿入りでも構わない立場にありますから、傍で見守っていただければ幸いです」


「……帝都の館と家督は長男に継がせ、私も開拓団に参加しますからな。そちらで共に暮らしていただけるというのは、私としても妻としてもとてもありがたいことです。何より、この愚かな娘を野放しにすることに苦心しておった次第でありまして」


 俺は結局何も助言しなかった。というか、出来なかった。

 高校一年の小僧に、このような場で何か言うことなど普通は無理です!

 双方が普通なら多少は何か言えたかもしれないけれど、両方とも何気に濃いからね? 片や変身しまくりの初めて目にする魔人族で、片や触手マニアの変態だからね。


「うむ。上手く纏まったようで何よりだの。のぅ、叔父上?」


「これが上手く纏まった内に入るかは微妙なところですが、今は祝福すべきかと」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ