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第六十六話

 『びぃむ』のことはさておき。

 夜も更け、若干ながらも眠気に襲われる身としては早々に本題に入ってもらいたいところである。


「では今度こそ本題に入るとしようか。ウルマム卿」


「ライス殿、この度は我が娘の見合い相手を都合していただき、誠にありがとうございます」


「こちらとしても渡りに船でして、お礼を述べたいのは僕の方も同様なのです」


 お、お見合い? 言われてみれば……確かに、そんな感じの席ではあるような。部屋に入った時からウルマム卿が何やら緊張していたのは、これが狙いだったのか。

 でも師匠は既婚で故郷には奥さんと息子を残してきているから、まず見合い相手となるのはベスタだろう。つうか、俺……この場に必要なのか? 眠いんだけど。


「父上! 見合いとはどういうことですか!? わたくしは何も聞いていませんよ?」


「うむ、実はな。ル・リスラ殿下付きの侍女として勇者殿の側付も兼ねるとなると、お手付きを期待できるかと踏んで居ったのだが……、そう上手い話はなくての。

 日に日にミラ殿との仲が睦まじくなる一方の勇者殿を見ておって、これ以上はミラ殿にも御父上であるライス殿に対しても礼を失することになるゆえな、恥を忍びつつもライス殿に相談した次第じゃ」


 変態エルフメイド本人は何も知らなかったのか、酷く落ち込んでいるというより拗ねている様子。でも、やたらと俺の部屋に居座ろうとしている節が見られのは素なのだろうか? どちらだろうと、冗談でも俺が手を出すわけはない。変態はちょっと勘弁してほしいし、第一にミラさんがブチ切れ兼ねない。それに俺って結構奥手だし、勝手にそんな期待をされても困る。


「キア、リンゲニオンの法でエルフの成人年齢の引き下げられているのです。いつまでも過去の適齢期に拘ってもみっともないですよ?」


「それはリンゲニオンの人口流出を防ぐために打ち出したアホな政策に依るものです! 概ね人族の十倍の寿命であるエルフなら百五十歳が適当なのです! 成人年齢を百二十歳まで下げたのはあからさまに異常なのです」


「それでもラングリンゲ帝国内のエルフの成人年齢もリンゲニオンに準じる形なのですから言い逃れできませんよ、キアお姉ちゃん?」


「――くっ。わたくしとメレアでは二歳しか変わりません! エルフの二年など無きに等しい」


「フッ、私はもう結婚していますもの」


「……」


 ラ・メレア妃が変態エルフメイドを揶揄い、更に油を注いでいく。最初こそ反論する勢いがあったものの、後半になるとその勢いにも陰りが。

 そんな下らないやり取りの中、貴重な情報が得られた。エルフの寿命が人間の十倍だという。ラ・メレア妃や変態が幾つかは謎だが、少なくともリスラの年齢は人間で言うところの十二歳ということになる。

 十二歳かぁ……。流石に十二歳の少女に、あんなことやこんなことをするのはヤバイよな。ミラさんも大して変わらないのかもしれないけど、俺は襲われた方だし主導権は皆無で少なくとも言い訳には……使えるかな?



 何とか情状酌量が得られないかと四苦八苦している間に、ラ・メレア妃と変態の問答は終息していた。切り替えの早い変態は好い加減に肚を括った模様で、今更だがウルマム卿の横で畏まっている。


「それでお相手は、以前お会いしたことのある伯爵の隣の殿方で?」


「ええ、彼は名はライアン=ホーギュエル。僕とは四歳ほど離れた()です」


「へっ? ……すみません」


 あっと、いけね。驚きの余り声が出てしまった。

 ベスタが師匠の弟? 師匠は確か三十代だったはずだ。ミラさんの年齢を踏まえると幾ら若い頃に仕込んだ子供だといっても、それくらいでなければおかしい。でも、ベスタは見た目年齢としては俺とそう変わらない姿をしている。ってことは養子か何かで、義理の弟という感じなのではないだろうか。

 大体、訝し気な表情をしているのは俺だけではない。隣でいまだに宰相閣下はぶつぶつと唸っている最中ではあるが、師匠とベスタ改めライアンを除くすべての人物たちの頭上に疑問符が浮かんでいることは間違いがない。


「失礼ですが、先日ミラ様も含めたわたくしたちとお会いになられ方だとお見受けします。ならば、なぜミラ様が叔父にあたる方を認識できないでいらっしゃったのでしょう? それになぜ正体をお隠しになるのか、疑問なのですが」


「兄さん、事情は俺から……じゃなくて私から――」


「よい、非公式の場ゆえ言葉遣いなど気にする必要はない」


 非公式の場というのは確かだろう。宰相閣下が未だに立ち直れていない現状がそれを保証するかのようだ。


「まずは宰相閣下には謝罪を……っと聞こえてないか。

 では迷宮のトラップが反応した理由と、ミラが俺に気付かない理由を」


 まるでフラットベッドのコピー機が原稿をスキャンするかのように、ベスタの体を眩い光の線が左から右へと移動しながら別の姿へと書き換えて、いや置き換えていく。

 俺が普段接していた小汚い格好をしたベスタはもう居ない。一度も立ち上がることなく椅子に掛けたまま、ベスタは初めて目にする別人へと変身してしまった。

 変身を終えたベスタ改めライアンは、驚きで目を丸くする一同を見回すとはにかむように微笑んだ。先ほどまでの小汚いベスタの姿ではニヒルな笑みは似合っても、今のようなはにかみはとてもじゃないが似合わなかっただろう。


「この姿はライアン=ホーギュエル時代のものです。しかし俺はもう領地とは無関係なので、今は只ライアンとお呼びください。若しくは先ほどのベスタでも構いませんよ?」

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