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第六十一話

 迎賓館の応接室には、俺を含む開拓団の主要メンバーが集っている。

 本日は謁見の当日ということもあり、皆それぞれに綺麗な格好をしていた。

 ミラさんはカッチリとしたパンツルックのレディーススーツに見えなくもない。リスラもまたレディーススーツに身を包んでいるのだけど、どこか可愛らしく感じてしまう。変態エルフメイドはいつもと変わらず、奇妙なセーラー服とメイドスカートなのだが今日は落ち着いた黒基調だ。


「本日はわたくしキア・マスが、帝城及び皇宮のご案内を仕ります」


「なんで、変態メイドなの? 人手不足なの?」


「いえ、ラ・メレア妃様からのご用命であらせられます」


 ラ・メレア妃はリスラの実姉で、変態エルフメイドの元主人。そして何より重要なのが、リスラの輿入れを画策した人物であるということ。

 なまじ皇帝陛下や宰相閣下が俺に好意的であるがために警戒心が薄れてしまうが、ラ・メレア妃はとんでもない女狐であることは確かだろう。


「皆さま、お忘れ物はございませんでしょうか? 時間も押しております、帝城の控室には寄らず、そのまま謁見の間までご案内いたします」



 迎賓館を出て右に曲がれば、そこはもう帝城へと続く跳ね橋がある。

 現在の時刻は凡そ10時くらい。跳ね橋は勿論降りていて、警備する兵の姿がちらほらと見える。

 変態エルフメイドの姿を見た兵は、姿勢を正すと敬礼。


「こいつ、何気に偉いの?」


「キア・マスはメレア姉さまの侍従騎士でしたから、城勤めの兵士の態度は当然のことですわ」


「彼女、騎士とは何か違う気がするのだけど」


 ミラさんの否定的な発言に俺も同意したい。狩りでの装備や身のこなしから察するに、騎士とは呼べない何かではないかと思う。

 跳ね橋を渡り終えると壮麗な門扉が俺たちを出迎えた。門の両脇にもまた警備の兵が配され、厳重な警備態勢が敷かれていることがわかる。


「ご主人様、正妃様。ここより先は余所見をせず、わたくしの後ろに確実についてきてください。あまり離れすぎますと危険ですので」


「城の回廊は迷宮の仕組みが施されているのですわ。正規の案内人から離れ横道に逸れてしまえば、侵入者対策の贄とされてしまいますの。アタシも姉を訪ねにきて、何度か酷い目に遭いましたの」


「それは探検と称してウロウロするからです。リンゲニオンの姫君であっても部外者なのですから、勝手は許されませんよ」


「うっ」


 付かず離れずの距離を保ちつつ案内に従い進んで行くと、辿り着いたのは何とも煌びやかな装飾が施された扉。その両脇に控える金属鎧を着た重騎士に、変態エルフメイドは何かを小声で告げた。


「では皆さま、これより謁見の間の扉が開かれます。手順と作法は事前説明の通りでございます。先頭はご主人様、次いで正妃様、その斜め後方に姫様、最後尾にわたくしが控えましょう」


「準備はよろしいかな? キア・マス殿」


「よしなに」


 重騎士が二人、扉の中央に手を掛け押していく。内開きの扉は一切の音を立てずにするりと開いてゆく。その隙間は徐々に広くなり、観音開きの扉は完全に開かれた。


 俺は召喚以来、謁見というのは二度目である。初回は忘れてしまいたいほどだが。

 

 扉の装飾に負けず劣らず、謁見の間の装飾もまた素晴らしい。迎賓館も素晴らしいものだったけど、ここはまた趣が異なっている。迎賓館は派手さはあれど、それなりに落ち着いていたものだ。しかし謁見の間はキラキラと派手で目に優しくないのに、下品とも思えない。微妙というか、絶妙に調和していた。

 

「ご主人様、驚くのは後、お進みください」


 変態エルフメイドに促され、派手すぎる謁見の間へと歩みだす。


「はい、ご主人様はそこで棒立ち。正妃様と姫様はその位置で」


 俺の斜め後ろの位置で、ミラさんとリスラは頭を垂れる。要するに床を見ているのだ。

 俺は棒立ちを余儀なくされ、どこを見ていいものか迷っていたが……。その心配は一切なかったと言える。

 正面の3段ほどの階段があり、そこにある玉座には皇帝陛下、寄り添うように隣腰かけるのはラ・メレア妃様だろう。玉座の斜め前には宰相閣下の姿がある。

 俺たちの居る場所から玉座に至るまでの壁際には置物に扮したような重騎士が立ち並び、その手前に重臣と思われる複数の者たちも立ち並んでいる。

 俺はそんな彼らを一瞥した後、改めてラ・メレア妃に目を奪われた。

 宰相閣下が何やら口上を述べているようだが、そんなものはBGMに過ぎず、ラ・メレア妃から目が離せないでいた。

 このラ・メレア妃、派手派手しい空間にありながらも凛としていて、されど妖艶さがこれでもか滲み出ている。大人の女性と呼ぶに相応しい、とんでもない美人なのだ。

 ミラさんなど、このラ・メレア妃と比べればただ発育の良いだけで背伸びをしただけの子供に過ぎない。リスラなど比べるのも烏滸がましいといった感じ。だが、しかし、リスラはこのラ・メレア妃の妹なのだ。目鼻立ちは確かに似た雰囲気があり、将来に希望が持てるだろうが、俺との寿命の差を考えると宝の持ち腐れと言っても良い。

 おっと、いけない。今、俺の肩越しにミラさんとリスラの頭がピクリと反応したように見えたぞ。ミラさんたちは床を見ていることしか出来ないはずで、俺がラ・メレア妃に見惚れていることなど気付いてはいないはず。だが、ミラさんはとても察しが良く危険な女性だ。俺が邪な考えを巡らせていると知れたら、一体どうなることか……。

予防接種さえ打っておけば……後の祭り継続中

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