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第五話

 大きな扉、豪華な飾りが施された扉の前に案内されると、扉の前に待機していた兵隊がその扉を二人係で押し開く。

 謁見の間というやつか、正面の立派な椅子は玉座のはず。ただ違和感を覚えるのは、その椅子に王子が腰かけていることだ。


「ふむ、十分に休まれたかな、勇者殿」


「……」


 昨日は半ば放心していて反応すら示さなかった。飯の礼として、頷くくらいはしてやるさ。


「昨日も申したように我が国は現在、周囲の国家に睨まれた状態にありとても危険でな。そこで貴殿には我らの為に、その武威を示してほしい」


「王子、まずは勇者殿の素質をはかりませんと」


 デブと瘦せぎすの男、対照的な二人が並ぶと滑稽に映る。

 瘦せぎすの男が周囲に立ち並ぶ兵隊に目配せすると、俺の眼の間に簡易な机を置き、その上に一枚の銀色をした金属板らしき何かを置いた。机を置いた兵隊は腰に下げていた剣を鞘から抜くと机の上、金属板らしきものの傍へと置く。


「勇者殿、その板はステータスプレートと呼ばれる魔具にございます。

 そのステータスプレートに勇者殿の血液を一滴だけ、垂らしていただきたい。勿論、傷の手当は十分に施しますゆえ、何卒」


 瘦せぎすの男が言う。血を垂らせか、その前にこの剣消毒してあるのか? 見た目、綺麗だから大丈夫っぽいけど。

 デブ王子に瘦せぎすの男、周囲の兵隊の視線が俺に集まっている。ここで嫌だとは言えないだろう、どちらにしろ無理矢理やられるくらいなら!


「――ッ」


 左手の人差し指で剣の先を撫でるとスッパリと切れやがった。思ったよりも鋭いようだ。皮だけ切るつもりが肉までいった、指先がじんじんと痛む。

 ポタポタと指先から垂れる血は板の上に手を移動させる前に、机の上で跳ね勝手に板に掛かってしまった。


 ステータスプレートと呼ばれる金属板に血の飛沫が掛かると、その色が変色する。

 最初、銀色だったはずの金属板は真っ黒に染まり、表面には銀色の枠や装飾、文字が浮かび上がった。浮かび上がった文字は見たことのない奇妙な形をしていて、当然のように読めそうにはない。


「――なんということだ! ただ一人残った者が勇者ではなく、悪魔だったと!」


「その者を直ちに捉えよ! 処刑は明日執り行う、牢に繋いでおけ」



「何を? ふざけるな! 勝手に呼び出したのは、てめえらだろ!」


 驚き叫ぶデブと瘦せぎすの男の指示で、俺は兵隊に捉えられ後ろ手に拘束されることになった。自分らがやれという指示を出したくせに、そもそも俺は俺の意思でここにいるわけじゃない!

 叫び暴れる俺の首に兵隊が何かを嵌めた。そのせいだろうか、力が抜けていく。

 まるで昨日の俺のように全身の力が抜け、立っていることすら難しい。それに伴い、急激な眠気に襲われた。




 尻が冷たい、足もだ。

 目が覚めた、だがいまだに体に力は入ってくれない。

 周囲を確認。なんか部屋の隅に両手で抱えられるほどの壺があるだけの部屋だった。更に見回すと鉄格子が嵌っている。牢屋だった。


「……すまない、君には申し訳ないことをした」


 声、俺に掛けられたのか? すまないと繰り返す声は、俺の入れられた牢の斜向かいから聞こえる。


「すまない」


「あんた、あの時に笑った人。あいつらが消えたのは、あんたの仕業か?」


「すまない、結果的に君を犠牲にしてしまったのは私だ」


 俺が目覚めてからずっと謝りっぱなしなんだが、もしかするとそれ以前からああなのか?


「なあ、あんた。俺の犠牲に見合った何かはあるんだよな?」


 消えた車両と乗客、隆文たちのこと。もうこの際、俺は牢屋暮らしだろうし……何か、彼らの行方でも安心できる材料が欲しい。


「すまない」


「俺は謝罪なんかいらねえんだよ! あいつらがどうなったのか、それを教えてくれよ」


「君を、君を除いた者たちは元居た場所に戻ったはずだ」


 そうか、戻ったか。

 よかった。理屈はわからないが、この人が何かしたから助かったんだよな。


「俺一人の犠牲で、みんなは助かったのか。

 そりゃ、まあ、俺も助けてほしかったけど、それでもありがとう」


「すまない」


 終始謝っているだけの男?は、そのまま泣き崩れてしまった。


 これから、どうしよう。否、どうなるんだろう?

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