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第四十二話

 相棒の触手は既に消え去っている。ミラさんが姫様を部屋の外に出した時から、相棒は大人しくも消え失せた。ただ、姿を消した相棒がどこに隠れているかは定かではないが。

 皇帝陛下以下、護衛に至るまで落ち着きを取り戻しつつある。

 宰相閣下のズボンは股の辺りが少し湿っているかのように見え、皇帝陛下や護衛も股の辺りをやけに気にしている様子。皇帝陛下、宰相閣下はそのまま席に着き、護衛は恰も何もなかったというが如く、その背後に控えた。

 そんな微妙な空気の中、口火を切るのはやはり師匠である。


「事前の説明を無視し、一部の護衛が剣を抜いたのには本当に焦りましたよ」


「それはどういう意味ですかな? ライス殿」


「いえ、カットス君のユニークスキルは完全な自立型でしてね。護衛がその剣で切り掛かろうものなら反撃されていたことでしょう。彼らがあくまで防衛を旨に行動されたことは、こちらとしても幸いしました」


 相棒は俺が人殺しを嫌うことをよく理解している。ゆえに、昏倒ぐらいはさせていただろうとは考えられた。師匠もそのことを言っているのだろう。

 そうした会話の最中、護衛の数名はガクガクと震えだす。が、それは無視され師匠は更なる難問を提起した。


「それで、どう評価されるのでしょう?」


「ライス殿の仰る通り、初見では対処がとても難しい試験でしたな」


「叔父上、自らの行いを棚に上げて何を言い出すのやら……」


「陛下とて、似たようなものではありませんかな?」


「うっ……」


 護衛も含め、皇帝陛下や宰相閣下もまた似たり寄ったりなのは師匠も俺も理解している。隣のミラさんや姫様もそれは同じようで――。


「レゼット、それで結局アタシの試験結果はどうなったのよ?」


「……ル・リスラは試験には不合格かと」


「陛下の仰る通り、試験の合格者は侍女キア・マスのみであろうな」


 本当にアレを合格と言ってしまうのですか宰相閣下! 


「ふふ、お漏らし姫様は不合格なのです。王宮へとお帰りになるのに十分な理由が出来ましたね」


「お、おも……。キア・マス、あなたはアタシの侍女でしょう。まさか、裏切るつもり?」


「裏切るも何も、私の真なる主は触手の勇者様ですわ。そも、私は勇者様の侍女となる為に選抜されたのですから」


 ミラさんの陰に隠れていた姫様と、試験を合格と判断されたメイドと間で不穏な会話が為される。変態エルフメイドは姫様に対して、最早一切の敬意すら示そうとはしない。


「ル・リスラ嬢、残念ではありますが試験の結果は明らか。ここは潔く、リンゲニオンにお帰りになられるべきかと」


「ダメよ! 私はそんなの認めないわ」


 試験を用意した師匠も、その結果を吟味した皇帝陛下に宰相閣下も、それを全て見ていた俺でさえも、もう結果は見えたものだと判断していた。

 だが、ミラさんはその結果に納得がいっていないようだ。


「私はこの子を妹にするの」


「ふむ、僕としても殿下が本当に正室を望まないのであれば、受け入れても構わないとは思うんだよね。でも、カットス君の意見を蔑ろにすべきではないよね」


 師匠はそう言うと、俺の方を向いた。ミラさんも、姫様も、皇帝陛下たちまでがその視線を俺へと合わせてくる。


「ミラさんの気持ちはよくわかります。俺も男兄弟しかいませんし、姉や妹がいる家庭に憧れを持ったことは多々ありますから。でも、姫様は物凄く打算的ですよね? こういいうのを一度でも受け入れたら、キリがないと思うんですが……」


 姫様はアレだ。リンゲニオンの王宮とかそういうのを抜け出せれば、相手は誰でも良いみたいな言い分だった。今回は偶々その対象が俺になっただけ。

 それに一夫一婦制を守りの要に持ってきている以上、姫様を受け入れた時点でそれはこれ以降適用外になってしまう。俺としては婚約者はミラさんのみに絞りたい。

 何より、まともな恋愛経験のない俺にはハーレムなど高度すぎる。


「勇者殿の仰ることは尤もであろう。そのような婚姻の申し出を断るために、ミラ殿との婚約を急がせたのだ」


「そうでしたね、カットス君の国元での一夫一婦制度。これを防波堤に押し込んでくる婚姻を断る算段でした。それを考慮すると、これからは大変だ」


「故に、ル・リスラ嬢の輿入れは受け入れ難い。ミラ殿も今一度、考え直されよ」


 師匠は一夫一婦制の前提条件を忘れていたのではないだろうか? 姫様が側室で十分だという回答をしたために、皇帝陛下も含めて肯定的な意見になりそうであったが、俺がそれを否定することで冷静な判断を下せるようになったようだ。


「それにル・リスラはエルフの成人年齢も既に満たし123歳だったか? ミラ殿は13歳と妹とするには些か年が離れ過ぎておるようだが」


「陛下、そんなことはもう十分に承知しているわ。カットスを私たちの共通の夫とすれば、彼女は正式に私の妹でしょう?」


 そ、それは所謂、竿姉妹というやつでは……。俺が少々下品な考えに陥っていると――。


「確かにミラが第一婦人となれば、第二夫人の殿下は義妹になりますね」


「カットスは私の我儘を聞いてはくれないの?」


 俺はミラさんのその言葉に衝撃を受ける。俺としてはミラさんの我儘であれば、聞き届けてあげたいのは山々なのだが、これだけは譲れないものがある。


「俺にはミラさんだけが婚約者で、それ以外を認めるつもりは無いです」


「相変わらず、変なところで頑固なのよね」

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