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第四十一話

 確かにやりすぎたとは思う。思うのだが、それは師匠の指示に因るもので俺が悪いみたいに言わないでほしい。そんな発言をしたミラさんは既に応接室を去っているので意味はなく、俺はミラさんの命令通りに侍女の介抱をすることにした。


 近寄ってじっくり見ると、侍女の服装は微妙だった。肩から存在しない袖を無視するとこれはセーラー服に見えなくもない。下に穿いているスカートは噂に聞いたメイド喫茶のメイド服のようで、やたらと丈が短く太ももの中ほどまでしかない。

 チョロっと捲れるだけでパンツが見えてもおかしくない超ミニスカート。そこからスラリと伸びるのは、白くて細長いのに肉感もまた素晴らしく艶めかしい生足。ストッキングは元よりニーソックスなどは未見である。ゴムやゴム紐といったものがなく、下着も何もかも紐で縛るタイプばかりで、靴下の代わりになるのは足袋のように生地が伸び縮みしないものだけなのだ。

 しかしなんでこの世界にセーラー服が? スカートに関しては文化としてアリなのかもしれないけどさ。というか、この生足の破壊力はアリです!

 ちょっと胸を反らすように視線を離して全身を観察してみる、ここで気を失っているのは見紛う事なくエルフ美少女のメイドさんである。だが、なんでこの人、気を失っているにも関わらず笑顔なんだろうか?

 姫様の後ろに静かに佇んでいた姿から察するに、ミラさんやあの姫様には皆無なお淑やかでマトモな女性である確率が非常に高い。これは……良い子にしていた俺へ神様からのご褒美か? いやいやいやいや、邪な考えは止そう。ミラさんの反応が何よりも怖い。


 気を失っている侍女の両肩を掴み、揺する。それでも目を覚ますことがないので、頬をペチペチと優しく叩くこと、数回。


「――ハッ。ご主人様! あなた様こそ、私の本当のご主人様です。どうぞ、このキア・マスに何なりとご用命を!

 ……あぁ我がバイブル、そっくりの触手にこの私もいつか」


「あ、あの、大丈夫ですか? 倒れた際に、頭をぶつけたりしませんでしたか?」

 

 覚醒するなりガバッと起き上がると、恍惚とした表情のエルフメイドは俺に抱き着いて言い放った台詞に唖然とする。しかも後半の、小声の部分が恐ろしくも鮮明に耳に残る言葉だった。それでも女性に抱き着かれるという行為に慣れていない悲しき元男子高校生の触手は反応してしまうのだ。

 やべぇよ、この人と急ぎ侍女を剥がす。今は居ないからいいものの、こんなところをミラさんに見つかれば大問題だ!

 それにしても人を見る目には自信があったはずなんだが、これはどういうことだ? このエルフメイドのどこが清楚でお淑やかだと……、俺はどこで間違えた! こいつは、ただの変態エルフメイドじゃねえか!

 第一、場をを騒然とさせたあの触手の持ち主である俺に抱き着くなどはあまりにも不自然すぎだ。それに恐らくだけど、この侍女に身体的な異常はない。だって、もう立ち上がってキビキビと動き出し、姫様の残した粗相の後始末に勤しんでいるのだから。


「ご主人様、どうぞお掛けください。すぐにお茶をお淹れいたします」


「あ、はい」


 落ち着け、俺。ミラさんからの命令は無事かどうかはさておき果たしたはず。変態エルフメイドはこうして今、何の問題もなく動き回っているではないか!

 何も言ったつもりはないのに、壁際に備え付けられていたティーセットで俺へと甲斐甲斐しくお茶を淹れてくれたエルフメイドに一応の感謝を示しつつ、一口。


「カットス君、やるね。もう侍女を手懐けたのかい?」


「そうじゃないですよ、師匠。あのメイド、頭がおかしいので当たり障りのないようにしようかと」


「メイド……カットス君の所では侍女をメイドと呼ぶのか、覚えておくとしよう。

 それであの変わった服装なのだけど、あれは50年ほど前に遺跡から出土した古文書に記されていたものと同様のデザインなんだ。僕も何度か見たことがある、複製された古文書の方をだけど」


「古文書ですか。それってもしかして、……触手にメイドが裸に剥かれたり、ネチョネチョのグチョグチョにされたり?」


「おぉ、良く知っているじゃないか! 宮廷の侍従騎士の活躍を描いたと思われる絵画が主体の古文書なんだよね。当時、人気もあって結構な数が複製されたはずだよ」


 あぁ、あの肩なしセーラー服の出所が判明したような気がする。たぶん、あの超ミニのスカートも、だ。ニーソックスが存在しないことが少々残念ではあるが、それはそれ。

 誰だ? 嘗て隆文の蔵書で見たようなエロ本か、R18の薄い本かはわからないけど、そんなものを古文書扱いした奴は! というか持ち込んだ奴は不可抗力だから大目に見るとしても、保存した奴は大罪人決定だろ?

 この世界の過去に存在した者たちが碌でもない存在だということが勇者召喚に引き続き、改めて判明した瞬間だった。

 そこでひとつ疑問が湧く。何千年だか何万年だか前に存在したという遺跡から出土したものが、なぜに現代日本にあるようなオタク的書物が存在しているのか? こちらの年代に比例して、日本を含む地球側の年代も古くならないとおかしい気がするのだが……。



 コンコンと扉がノックされる音がして、その扉の向こうからミラさんが姿を現した。よく見るとその後ろで、ミラさんの服の裾をちょこんと掴む姫様の姿も見える。


「身を清めて着替えてもらったわ。私の服だからサイズはどうしても合わないけど、可愛いでしょ?」


 姫様が身に着けている服は水色のワンピースだった。ミラさんの服にしては水色というのは珍しく、初めて見る。でも、ミラさんは赤毛だから似合わない色遣いだと思うのだけど、それを言葉にしてはいけない。しかし、銀色の髪をした美少女然とした姫様には、サイズ以外はとてもお似合いだった。

 だが、その姫様は俺の視線を避けるように、ミラさんの体でもって視線を遮るようにその身を隠す。


「父上たちの入れ知恵だからカットスは悪くないとは説明したのだけど、どうしても怖いのよ。許してあげてね」


「俺としても少しやり過ぎたかな、と思う面もありますね。ただ理解に苦しむのは、あのメイドのことなんですが……」


「メイド? あぁ、侍女のことね。それがどうしたの?」


「あのメイド、笑いながら気絶してたんですよ。そして今のあの態度と、とても気持ち悪いんです」


 ミラさんは俺の隣に座り、いつものように会話をする。俺に対し怒っているような素振りはないので安心した。

 姫様は俺と話をするミラさんに隠れながらも、こっそりと片目を覗かせてこちらを観察している。警戒する気持ちは理解できるので、俺としては様子を見るしかない。

 ただ試験と題して執り行った以上、その結果をどう評するかは師匠や皇帝陛下、宰相閣下に委ねるしかない。

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