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第四十話

 宰相閣下の後ろから二人の女性が現れた。

 その二人の女性の姿は少女、しかもとびっきりの美少女!

 以前に見せてもらった皇帝陛下の耳よりも若干長く尖った耳を持つ、長い髪が銀色に揺れる少女と淡く金色に光り輝くボブカットの少女。

 銀色の髪の少女の胸元はかなり寂しい感じだが、金色の髪の少女に比べると煌びやかな服装をしている。対して、金色の髪の少女は銀色の髪の少女の一歩後ろに控えるように佇み、日本の女子中高生に似た体格に大人しめな黒と白の服を纏っていた。

 二人とも顔立ちは西欧のそれで、肌は透き通るように白く血管が透けて見えるほどに美しい。


「閣下、案内ありがとう。陛下もご機嫌麗しゅう? そして初めまして、今代の勇者様。わたくしはリンゲニオンが第八王姫、ル・リスラと申しますわ」


「初めまして姫様。俺は山田 勝利といいます」


 真面目に練習した貴族的挨拶を初めて実践することが出来た! が、今はそれどころではない。


「わたくしの後ろに控えますのは、この度の輿入れのために選抜された選りすぐりの侍女で名はキア・マス。ここ娘を連れ、あんたの妻になりに来てやったわよ! 喜びなさい」


「……プッ。と、失礼。

 ル・リスラ嬢、やはり最後まで猫を被ってはおられませんでしたな。賭けは私の勝ちですぞ、陛下」


「何よ! やっとあの辛気臭い王宮から逃げ出せる絶好の機会なのよ、当然じゃない」


「ル・リスラ、地が出ているぞ。勇者殿が若干以上に引いているのがわからぬのか? 叔父上、その話はまた後程」


「……くっ」


 なにこれ、コントか何か?

 もう丁寧な話口調などそっちのけで、姫様は素の状態を俺へと晒してしまっている。とはいえ、これはこれで俺としては好感が持てそう。

 しかし今、そんなことよりも俺が気になるのはミラさんのこと。先ほどからずっと何かを考えていて、全ての事象が上の空なのだ。



「お初にお目に掛かります、ル・リスラ殿下。私はオニング公国がホーギュエル伯爵と申します。

 既に我が娘ミラはカットス殿の正妃として迎えられていることはご存知かと思われます。然るにリンゲニオンが第八王姫、ル・リスラ殿下であろうとも、それは覆せぬ事実でありましょう」


「……レゼット、ちょっとどういうことよ? そんな話聞いてないわ!」


「聞いていないも何も、余としてはリンゲニオンからの輿入れの話の方が寝耳に水である。

 第一に勇者殿の国元では一夫一婦制であり、妻は夫一人に対し一人と定められているそうでな。この度のリンゲニオンの主張と行動は、もはや横暴と呼ぶしかない」


 俺がミラさんのことに気を取られている間にも、師匠がリンゲニオンの姫様を煽りまくり。それに続くように皇帝陛下も姫様を激しく牽制していた。

 傍から見ていると凄く可哀そうなんだけど、最終的に俺にしわ寄せがくる話なので見ていることしか出来ない。すまぬ、許せ、姫様。


「聞いた話では勇者はこの国の臣となるのでしょう? ならば、この国の法に従うべきで、妻を何人娶ろうとも平気なはずよ。アタシは別に正室でなくても構わないの! あそこから出られれるのなら、側室でも十分なのよ」


「……おっと、これは予想外でしたね」


「余としても想像の埒外である」


「然り、ですな」


「ちょっと何よ? レゼット、説明なさい」


 なんだろう? 雲行きが怪しい。師匠と皇帝陛下と宰相閣下、この三名が非常に困ったという表情をしている。


「しかし、無条件にというわけにもいかぬであろうな? ライス殿」


「そうですね。では予定通りに」


「ル・リスラよ。一つ条件がある、それをクリア出来るかどうかが問題なのだが……如何いたす? この試験は余をしても楽しみであってな、是非に挑んでもらいたい」


「何よ、何をすればいいの?」


「何、大したことではない。

 これより披露していただく勇者殿のご雄姿をその目に焼き付けた上で、正気を保っていられるかという試験である。そなたであれば簡単であろう?」


「やってやろうじゃない! アタシの夫のなる勇者、早くその雄姿を披露するがいいわ」


 ミラさんといい、この姫様といい、なんで俺のところにはこんなにも気の強い女性が集まるのか? しかも政略結婚だというのに……。

 宰相閣下は姫様の横から移動し、皇帝陛下の傍へと寄った。それを確認してから俺は立ち上がり、最終確認のつもりで言葉を紡ぐ。


「どうなっても知りませんからね? 相棒、武具は無しで頼むよ」


 モゾモゾと俺の背後が騒めき、相棒の触手が放たれる。

 相棒の有効射程は約30メートル。ここから姫様と侍女までの距離はせいぜいが5メートルといったところなので余裕だった。

 刹那に展開した触手は姫様と侍女を取り囲むかのようにその先端を向けている。今回相棒が用意した触手は地竜をベースに様々な魔物素材が入り混じる、それは怖気を震うに相応しくとてもグロテスクであった。


「あれ、なんか多くね?」


 俺の口をついて出た疑問には誰も返答することはないが、師匠が少し首を捻ってはいた。通常、展開される触手の本数は8本が最大値であったはずなのだけど。

 ……14,15,16。ゲッ、倍に増えてる?

 よくよく観察してみると、8本の触手それぞれが枝分かれしていた。その方式も綺麗に二股に分かれていたり、ささくれ立つように枝が出来ていたりと様々だ。

 先頃加筆された『分岐1』がこれに該当するのかもしれない。なぜなら、8本それぞれが枝分かれしてはいるが、1本につき2本以上には増えてはいない。『1』という数字は枝の数ということだろう。あくまでも予想だが、その数字は増える傾向にあるんじゃないかな? と考察してみる。

 俺がそんなことを悠長に考えている間にも、応接室は大変なことになっていた。いや、その事態から目を逸らすための現実逃避をしていたとも言えるが。


 皇帝陛下も宰相閣下も、また護衛までも腰を抜かして呻き声を漏らす始末。腰を抜かすことなく耐えきった護衛も腰の剣を抜き放ったものの、触手に怯えるかのようで見事なへっぴり腰具合。

 触手16本に取り囲まれるように、その先端を向けられた姫様と侍女は言わずもがな。


「ヒィ」

 

 可愛らしい悲鳴をあげながらも体が硬直し動くことが出来ないのか、眼球だけが忙しく周囲を囲う触手を窺うが、パタリと崩れ落ちるかのように気を失うと――。


――チョロロロロロ


 水音と共に鼻をツンとつくような臭いが立ち込めた。


「「あっ」」


 それは誰の声であっただろうか? 俺も無意識に声を発したような気もする。

 卒倒し、失禁したのは姫様だった。侍女は白目を剥くこともなく、ただ気を失うことで済んだ様子でどうやらそちらは無事らしい。


「カットス、やりすぎよ! 姫は私が介抱するわ、あなたは侍女をお願い」


「はい、わかりました」


 今の今まで何かに思い悩んでいたはずのミラさんが立ち上がり、姫様に近寄ると濡れることも厭わずにお姫様抱っこした。そして俺が相棒を隠すことで落ち着きを取り戻した皇帝陛下の護衛に扉を開けさせると、足早に部屋を後にする。

 俺はというとミラさんの命令通り、侍女の介抱に取り掛かることに。

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