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第三百九十一話

システムが切り替わって以降、投降の方法を理解するまでかなりの時間を費やしました。申し訳ございません。

因みに、日時指定方法は未だにわかっていません。


 どう対応し、どう反応するべきか悩む。


 今もウィンはミジェナとわちゃわちゃしている。少女の絡み合いとしては少々触手色が強いが……、ミジェナに気にする様子もない。




 ミジェナも、ウィンを一個体と認めている様子すらある。実際に一個体ではあるのだけど……現在のアレは義体であり、擬態なのだ。


 問題の義体であり擬態でもあるウィンも、ミジェナと片言でとはいえ会話すらしている。ここに俺がどう介入すべきか……いや、すべきではないのだろう。




 ウィンはAIなどではなく、確固とした自我を宿す個体である。


 俺の中にある、もうひとつの存在なのだ。俺がウィンとミジェナと仲に介入すべきことは何もない。


 これは言ってみれば、あの野原に棲むワイバーンの三頭(二頭)にも通じることだ。ウィンの情操教育に必要と判断されたことなのだろう。




 恐らく賢者とその奥方の記憶によって、だが。




 ミジェナの側としても、十分に理はある。


 ミジェナがサリアに振り回される機会はめっぽう減ってはいる。


 宿の専属となったサリアはミジェナを振り回す程の余裕はないからだ。開拓村自体が復興を旨とし、宿もまた改修が必要な状況にある。そんな状況にあってまで、部外者のミジェナを振り回すだけの余力はサリアにあるはずもない。




 しかし、ミジェナだけが宿の仕事に従事してはいない事実もある。


 忙しく、猫の手も借りたい場合にミジェナは召喚される。ミジェナ自身も快く受け入れているものだが、所詮は部外者なのだ。


 開拓団の一員という大きな括りではひとつであっても、現在の状況であれば派閥に似た集団が出来上がっていても何ら不思議ではない。




 そこに来て、ウィンの存在を知ったミジェナは。


 俺に密接な関係にあるウィンの存在は、孤児連中以上に魅力を感じたのではないだろうか?


 実際にウィンと俺は一心同体だが、その事実をミジェナがどこまで理解しているのかわからない。ある程度都合よく解釈しているのではないだろうか? とも考えてしまう。




 まるで父親みたいだと、自分でも思う。


 こちらに来てから随分と成長したとは思うが、最も成長したと自分で評価できるのは筋力も然ることながら、精神面だろうか。


 ミラさんには相変わらず振り回され、正吾さんやジルバに平良さんを相手にしても似たり寄ったりだけれども。




 それでも俺は確かに成長している、と思う。


 だから、大丈夫。ウィンがどのような形態を成そうが俺は俺であり、ウィンはウィンなのだ。


 


 ウィンの姿が激変したことに取り乱しそうになったけれど、ウィンもその辺りは気になっていたのか、




「あーぃ!」




 相も変わらず抱っこをせがむ姿に、毒気を抜かれてしまう始末だった。




「ミジェナもウィンと仲良くしてくれて、ありがとう」




「ん! お兄ちゃんに似てるもの」




 似ている? 誰に?




「ウィンの容貌は勝利くんに似ているんだよ。性別を反転して幼くしたら双子に見えるかもしれないよ?」




「勝利の遺伝子を取り込んだんだ。当たり前だろ」




 正吾さんと平良さんが言う。ジルバは音沙汰ない。


 どこかで見たことのあると思っていた、ウィンの容貌の正体は実は俺でした……。


 記憶の上でも曖昧な幼少期の。両親が残していたアルバムにあった俺の容貌によく似ている。と、今ではわかる。




「ウィン!」




 優しく、されど力強くウィンを抱きしめる。


 失って久しい家族の姿を思い出した。特に母の。


 ウィンの容貌が俺に似ているのは当たり前だが、俺は兄弟の中で唯一母似だった。


 だから、特に俺に似た性別の違うウィンは母の面影を宿していた。




 ウィンも賢者たちもそんな意図などなかったのだろう。俺も今の今まで気付かなかった自分を殴りたいくらいだ。


 いや、もう一人殴りたいやつがいる。




「正吾さん、いつから気付いてました?」




「擬態したウィンを見た時からずっと、だね。勝利くんは存在が近すぎて、気付かなかったんだろうね」




 その時に教えてくれればよかったものを!


 このところのジルバの態度と併せると、実に殴りたくなる相手だ。


 でも、




「気付かなかった勝利くんには、それだけ余裕がなかったんだよ」




 そう。


 こちらに慣れたと思っていた俺は、実は必死だったのかもしれない。


 帰れる保証などなく、早く慣れなければならないと心のどこかで思っていたのかもしれない。


 ミラさんが、リスラが、ミモザさんが、お嫁さん候補と決まった時もそう。


 特にミモザさんの時がそうだ。ほぼ諦めに近いナニカだった。




 資産を持つ者が更なる何かを求めて事業を起こす、一種の資本主義ではあるのだろう。だが、民主主義とは間違っても口にできない封建社会。


 文明レベルでは判断できそうもない。色々と混じり過ぎている上、魔法という摩訶不思議な技術が導入されていて……そこにスキルと言う名の太古の技術が食い込んでいる世界。




 そんな中に置き去りにされた、中学生に毛の生えた程度の新高校生では限界もあるだろうさ。俺は偶々、兄貴の教訓が活かされただけだ。


 それも極僅かな。




「…………なるほど、確かに。俺に余裕などありませんでした」




「そう卑下するな。お前はよくやった。助勢があったとはいえ、ほぼ自力で俺たちに辿り着いたんだからな」




 カチャカチャと軽い音を鳴らしながら、平良さんが言う。




「勝利くんは誇るべきだよ。自力で私たちの下に辿り着いた者は限りなく少ない。ほぼゼロと言っても間違いじゃない」




「大体は睦美やロゼにインターセプトされるしな。それはそれで幸せだろうが、ウィンを伴う勝利の場合は別だ。アーグナが勝利の秘匿に奮起したとも言えるが、睦美の関係者と遭遇しなかった勝利自身の悪運も捨てがたい」




 アグニの爺さんには、本当に足を向けて寝られない。


 寄生型魔道生命体ウィンを宿す俺が、今現在も生きていられるのはアグニの爺さんが俺の存在をできる限る隠したからに他ならないのだ。




「なぁに、カツトシ殿には実においしい思いをさせていただいた。今まで出会った勇者様方も様々な技術を持っておったがの。食い物に関してはショーゴ様をも凌ぐと、儂は思っておるぞ」




「プリンもゼリーも、おいしいよ!」


「これ、ジルバ!」




 アグニの爺さんと、眠っていたはずのジルバがフォローしてくれる。


 だが、正吾さんにはジルバの言い分は目に余ったらしい。ただ、俺から言わせてもらえてば、ジルバが食に卑しいのは今に始まった話ではない。


 何せ、プリン欲しさにミジェナに集るくらいだからな!




「食うことに必死で甘味に手を出すヤツはまるでいなかった。まして、まともなパンを焼けるだけの知識を持つヤツもいなかったからな。勝利の焼くパンには俺も感動したもんだ」




「でも、お米には勝てませんよ」




「あれは正吾が拾ってきたもんだ。千年も掛けてもいまだ白米が出来ていないのも、専門家が不足している証拠とも言える。


 酵母を用いたパンを焼き、簡素ながら甘味まで至り。俺が普通に暮らせる空間まで用意できた。勝利は自己評価が低すぎる。これからは少しでも改めろ」




 平良さんの言葉に、俺は素直には頷けない。


 パンを焼く知識は兄貴から受け継いだものだし、そのための物資を用意したのは師匠やミラさんだ。俺自身が望んで培ったものではない。


 兄貴が褒められた。と思えば嬉しくもあるのだが、それはそれだ。


 純粋に俺が褒められている気はしない。




「勝利くん。謙虚なのは美徳ですが、過ぎれば嫌味ですよ」




 正吾さんの言う言葉の意味もわからないではないが、実際に俺は大したことはしていないのだからどうしようもない。


 かといって、ここで大きく反論したりもできない。




 元来、そんな性格だったのか。


 それとも三兄弟の真ん中として中庸に育つしかなかったのか、俺には判断できそうになかった。

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