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第三百九十話

「ほら、カッシー。早く、出して出して!」



 イラウに寄り、モリアさんに挨拶をする暇すらなく、俺たち一行はフリグレーデンへと入場した。


 不思議部屋で騒ぐ珍しい大所帯と、貯蔵庫(仮)に保管されていたキャラバンとリスラを開放。と言う名の放逐を済まし、今夜以降の宿を確保した後にモリアさんの方からわざわざ接触しに来てくれた。


 当然、そこでも一悶着あった。だが、余所の家の事情に他人の俺が踏み込むような話でもないため、割愛する。少々詳しく述べるのであれば、デュランさんとアグニの爺さんが揃い踏みしていたことに、モリアさんが苦言を呈した。という程度の話だ。




 かなり端折るが、今に至る。


 現在、日本人組+エダさんと、ここに俺たちを案内したデュランさんは当然として、そのクローン体であるアグニの爺さん自身にモリアさんとミモザさんに、ライアンとミジェナの姿がある。日本人組+エダさんですら俺には大所帯と感じるのに、更にデュランさんの係累が約半数を占める状況。




 それはさて措き。


 フリグレーデンで最重要施設とされる魔道金属炉の前に佇む、俺とウィンとその他多数。ここでは愉快痛快な仲間たち、と呼称したい。




 それで冒頭に戻るわけであるけど、




「エダさん、いちいち俺を仲介させないでウィンに直接言ってくださいよ」




 エダさんが目の色を気にすることはない。


 ここに並ぶメンバーでそれを気にするのはライアンとミジェナくらいなもので、他は俺も含めて誰も気にすらしていない。


 最重要施設と銘打つだけのことはあってか、サンプルでこの場所に入ることが許された存在は、今ここに存在するメンバーを含めても二十に満たないのだとか。現在のメンバー内で純粋なサンプルを呼べる存在はミジェナくらいなものだが……。




「一応カッシー付属の寄生型魔道生命体じゃん。あーしもどう扱うべきか悩んだんよ?」




 正吾さんなんて俺を介さずにウィンに指示を出す筆頭だし、最近では平良さんも魚の開きを作る作業に介在させていて似たり寄ったりだ。この二人にエダさんが足されたところで大した変化でない。そも、聡明なウィンは俺に利のない指示には端から従いもしない。




 いずれ、俺とウィンの関係も新たな形を迎えるのだろうけど、それは今ではなく、急ぎもしない。理想は正吾さんとジルバの関係性だが、俺とウィンに関してはもっと良好な関係を築けるかもしれない。少なくともウィンはジルバのような甘ちゃんではないもの。




「じゃあ、これからはウィンに直接指示をお願いします」




 縦横無尽に伸びるウィンの触手に射程制限はあるものの、俺自身の肉体の括りの範疇には無い。現在八十八メートル圏内であれば伸縮可能なのだ。射程がいつの間にか延びたとも言える。


 ちなみに八十八という中途半端な数字はソロノスの単位に由来し、厳密には数センチとか数ミリの誤差はある様子。




「……なぁ、詳しく聞かせろよ?」




「ん!!」




「どこから話したものか……」




 俺がこちらの世界に置いてけぼりをくらって以降、最も状況が動いたのは正吾さんとの邂逅であるのは間違いない。その辺りから説明していく。しかし、ライアンもミジェナも理解できているのか非常に疑わしい。


 ミラさんもそうだった。宇宙という概念すらようで、宇宙船と言っても話が通じない。現代ソロノス語には相当する単語がないのかもしれない。俺の説明を聞きつつも時折頭上に”?”を浮かべ、首を傾げているのが何よりの証拠だろう。




「ライアンはちゃんと理解したいなら、お母さんに聞けばいい。ミジェナは……そういうお話しだと思えばいい」




 ここはもう割り切るしかない。俺自身も大概だとは思うけど、それ以上に言いようがないのだ。




「壮大な空想の産物だと考えるといいです。今でも理解しがたいですが」




 俺の思い切った割り切りは何も独りよがりなものでもない。実際にミモザさんは同意を示し、モリアさんも無言ではあるが何度も頷いている。


 対応する言葉が存在しない以上、もうどうしようもなかった。


 客観的に諦めたとも、挫折したとも言えるが。




 その間にも、ウィンはエダさんの指示に的確に従い、トーチカ形態の樹脂構造物を次々に取り出していた。




「これだけあれば十分じゃん」




「どう見ても多すぎるだろ!」




 吠えているのは平良さんだ。


 平良さんの言う通り、動力=ウィンの少人数乗りな飛行機体を造り出すには、どこをどう見てもモノが多すぎた。せめてもの救いはビルを取り出さなかったことくらいなものだ。




 復興の役に立つという建前の下、盛大に持ち帰って来たものだがアレらを開拓地に放置してはいない。まずメンテナンスが可能な技術者がエダさんに限られることと、仮に設置しても怖がって誰も近付かないというオチが待っていたからだ。


 いずれは半壊した壊れた宿屋の別棟として運用するか、複数階建ての頑丈な養蜂倉庫として利用するか。主に俺が関わる建物以外に流用する余地がない。


 正直に言おう。開拓団の誰もが欲しいと言わなかったのだ。ただひとり、師匠を除いて……。




 そんな理由もあって、師匠とリスラは未だ貯蔵庫(仮)の内部に捕らわれの身だ。


 リスラに関して言えば、キャラバンの金属製品購入が終わり次第、開拓村行きの当時にミモザさんが連れ帰るという話になっている。だから、その当日に開放すればいい。


 師匠に至っては、適当に開放するとどこで種蒔きに勤しむかわかったものではなく、ミラさんとライアンの連名で実家の領地まで封印しておくことが決まっている。


 俺は師匠の直弟子ではあれど、家族問題に口を挟むほど無謀ではない。ライアンは兎も角、ミラさんの意見に逆らう理由がどこにも見当たらなかった。





「エダさんは今忙しそうだから聞けないけど、野原には行った?」




「ん!」




「……あ、あぁ」




「キア・マスが見たら驚くでしょうね。あれだけ危惧していましたから」




 何のことだ? と俺を見るモリアさんをとても華麗とは言えず、苦し紛れにスルーした。モリアさんはこの場で唯一人、俺とウィンの不思議部屋を知らないので。




「ん、お魚が干してあった」




「部屋に鉄線が張ってあって、その上に魚が干してあるんだ。あの旨い魚が大量にだ」




「俺はまだ見てないんだけど……どうなってるのか少し怖ろしい、じゃなくて! クロエ(黒L)とクロア(黒R)やイボリ(アイボリー)は元気だった? ワイバーンの」




 そもそも俺は、あの仔らが生まれ育っていることも知らなかった。孵化させたのも餌付けしているにもウィンなのだけど、俺はある一定時期までその事実を知らなかった。……なので、あまり偉そうなことは言えない。


 ただ、元気でやっているのかと心配になっただけだ。特に、平良さんから干物を奪い合うような話を聞いているので。




「おまえの触手……じゃなかった魔道生命だったか、がちゃんと飯をやってたぞ」




「……ん」




「ミジェナはウィンさんと仲良くしてましたよ。孤児院関係を除けば同年代に視えますからね」




「え? いや、え!?」




 いや、まさか冗談だよね?


 ウィンは確かに小柄だけど、まだ腰下は触手っぽいはずだ。幾らミジェナが普段からウィンの触手を間近に見ているとはいえ、無理がある……あるよな?




 俺のその思いが伝わったのか。


 エダさんとの作業に従事していない新たな触手が数本出現すると共に、擬態を始めた。数本の触手の先端が器用にも絡み、義体を形成して見せた。


 あの不思議部屋で俺に触腕を伸ばして抱っこをせがむ、ウィンの姿。だがしかし、その姿に違和感が!




「ウィン、完全に触手を脱ぎ捨てたな!」




「あぃ」




 褒めてはいる。


 褒めてはいるのだが、純粋に喜びの感情だけでもない。俺に取って代わられるのではないかと、戦々恐々としたものも含まれている。ウィンはそんなことをしないと、理解してはいるのだが、感情と言うものはそう単純なものでもない。

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