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第三百八十八話


 ミラさんや井戸掘りに訪問しているデュランさん一行と別れ、俺は再び……再びなのか? 微妙なところだけど、ある場所へと赴いた。


 もちろん、ミジェナにも告げてある。回収するだけなら半日もあれば足りる。お泊りする必要はない。


 ちなみにアグニの爺さんとライアンは今回もお留守番で、海に行ったメンバーが開拓村で休憩してそのままやってきたことになる。




「正吾、何もねえぞ?」




「正規の入り口は郷にしかないんですって」




「だからまた掘り起こせと?」




 ここは開拓村から見て北方面の広葉樹林の中。その中でも異様に拓けた土地。より正確には、地盤がとても薄くて木の根が蔓延る余裕がないというだけの土地だった。


 でも正吾さんの指示であの歩く木やウネが埋め戻した結果、疎らにだけど草は生えるようになったらしい。




 そう、埋め戻されている。正吾さんの埋め戻すという指示がどのようなものだったのかを、現在、ウィンちゃんの仕事を見学しつつ観察している最中である。




「正吾さん、一体どこまで埋めたんですか?」




「……穴を埋めろとしか」




 俺たちが最初に崩落に巻き込まれて落下した際に見た空間は膨大で、とても埋めることができるとは考えにくいのだが。ただその考えはあくまでも人力による作業であるならば、だ。


 労力の元手が歩く木とウネであるならば、また違う結果が導き出されても不思議ではなかった。実際にウィンの触手が掘削しながら取り込み、別の触手から吐き出している土砂の量は凄まじい。既に丘が出来上がっていたりする。すぐにこの丘は立派な小山になるのではないだろうか?




「にぃ」




「おっ、ウィンちゃん、ぶち抜けた?」




「あい」




 最近のウィンちゃんは成長著しい。


 不思議部屋の中の義体は上半身はもうほとんどが人体を形成しており、残すは腰から下の下半身だけとなっている。伸びては貼り付き、俺に抱っこを強制する触腕は腕が伸びることで担っているので、今でも少しだけシュールではあるが。


 ただ、上半身は裸だったので俺の下着、もちろん新品を着せている。


 もうひとつ付け足すなら、俺の下着と股引は平良さんが勝手に着ていた。


 平良さんは有機物を触れるだけで取り込んでしまう体質なのだけど、あの部屋に限っては別である。本人の強い意志に、この場合は願望かも。によって、俺所有の物資は勝手に使われていることが多々ある。





「抜けたか。よし、降りてみようぜ」




「良かったですね。埋め戻したのが真下だけで」




 掘り始めてからそれほど経っていないのに、待ちくたびれたような台詞の平良さん。正吾さんは自身が指示したという事実を無かったことにしたいらしい。


 俺とエダさんは呆れて何も言えない。いいや、言わない。沈黙は金だ。




「おおぅ、マジでトーチカじゃねえか」




「これなら、ひとつ壊せば十分じゃん!」




「あの、エダさん? 別に壊さなくとも丸まま持って行きましょうよ。その方が断然早いですし。ウィンちゃん、よろしく」




 俺の指示らしくもない好い加減なお願いに応じて、ウィンちゃんはトーチカをひとつ丸呑みにした。今も地下ではあるのだけど、そのトーチカ基礎部分もしっかり呑み込んだ模様。




「どうせならあと幾つか持って行きましょう。ジルバが壊してしまった村の復興に役立つでしょう」




「正吾よぅ、お前が付いていながらあれだけの破壊を撒き散らしたのなら、ジルバだけに責任を押し付けるもんじゃねえだろ? 違うか?」




「……はい、仰るとおりです」




 正吾さんが平良さんに叱られているのは当然の成り行きなのだが、俺は正吾さんとジルバの行いを開拓村の全員に秘匿しているので居た堪れない。




「お説教ならまた別の機会っていうか……ほら、部屋の中でやってくださいよ。今は作業が優先なんです。そうですよね? エダさん」




「うん、カッシーの言う通りだとあーしも思う」




 ジルバが俺をカッシーと呼ぶものだから、エダさんはそれを真似たらしい。


 だが、カッシーと呼ばれてもあまりピンと来ないんだよね。




 少しして、平良さんと正吾さんは部屋に引き籠った。中で何が起こっていようと俺は一切関知しない。俺の精神衛生の保全のためにも。大体あの人たち、何をしに付いてきたのかと問いたいくらいだよ。


 その後、俺とウィンちゃんはエダさんの指示に従い、壊れていなさそうなトーチカや背の低いビルを幾つか回収した。


 当然なのだけど、トーチカやビル内部の設備や調度品も丸ごと回収している以上、そこに含まれている。これはこれで使い用があるとエダさんは言う。主に役立つのはエダさんの工作意欲を満たす役割くらいなものだろうが、彼女のモチベーションが下がらないためにも必要経費であるのだろう。上がり過ぎて暴走されても困るが。









「ってことで、ミジェナ。フリグレーデンにお出掛けするよ。たぶん数日泊まりになる。支度しておいてね」




「ん、わかった」




 作業を終えて村へと戻った。


 ちょうどミジェナを見掛けたので、フリグレーデンに同行しないかと声を掛けたところだ。


 直接フリグレーデンに向かわずになぜ戻って来たのかと言うと、デュランさんたち井戸掘り一行を迎えに来たのだ。


 俺自身フリグレーデンに伝手はなくもない。モリアさんを頼ればいいのだけど、それでも手続きやらは複雑そうだ。ならば、完全な関係者に一任してしまえばいい。元よりそういう段取りの話でもあったのだ。


 ただ、開拓村側もフリグレーデンに買い付け向かいたい者たちがいるはずで、復興を停滞させずに誰を連れて行くか。たった半日留守にした程度で、ミラさんがどれだけ話を纏めているかは謎であった。正直、今回は時間がなかたため、あまり期待してはいない。





「私たちが買い付け組として同行します」




「カツトシ様、監督役としてわたくしも同行しますわ」




「私はミモザとキャラバンだけで十分だと言ったのだけれど、ル・リスラが断固行くと聞かなくてね。復興にも手が足りないというのに困ったものよ」




 半ば諦めていた人選をミラさんはやり遂げていた。


 但し、余計な人員がひとり混じって入るけど。リスラの同行に際しては、ミラさんも頭が痛そうだった。


 やはりというべきか、買い付けと言えばミモザさんだ。そしてキャラバンの皆さん。ただ、キャラバンはテスモーラとの交易や生活雑貨の購入を担うシフォンさんの隊とは分けられ、残り半数の人員となっていた。


 また、鍛冶師が誰も選抜されていないのは、デュランさんが介在していることに重きを置いているためか。ロギンさんやローゲンさんは復興に注力する必要があり、抜け出せる状態ではないという方が大きな要因だろうけど。




「出発は明後日の昼を予定しているわ。皆、今日は十分休んでください」




「明後日?」




「カットスの方は仕事が終わっているのでしょうけれども、まだ井戸掘りは終わっていないのよ」




 あぁ、なるほど。


 俺たち日本人組+αは、自分たちだけで予定を組んでいた。そこにはほかの作業者がいることを、思いっきり忘れていた。




『急ぐ必要はあるとはいえ、今日やって明日決行みてぇにそこまで急を要する話でもねぇ。いずれにしろ、エダの工作もある。少しくらいは余裕を持っていい』




『そうそう、あーしが超特急で仕事を終わらせればいいの』




『デアリスを迎えに行く時間も必要だからね』




 不思議部屋でのお説教は終わっていたらしい。終わっていることを察したからエダさんも部屋に入ったのだろうし。


 てか、エダさんはライアンのように目の色を変化させられないから、最初から衆目に晒すつもりはなかったけど。

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