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第三十六話

「では父上、都市計画を」


「んーと、都市計画はまだ早いね。開拓に入るための仮の拠点、そうだね陣地とでも呼べば良いかな。それについて考えよう。

 施設もそうだけど、人材や費用なども検討が必要だね」


 今日は交渉後に出掛けるといったことはなく、師匠から領地開拓の授業を受ける。

 主にミラさんが、なのだけど。


「整地や開墾に携わる人材、それを取り纏める人材が必要かと思われます」


「そうだね。でも取り纏めるのはミラ、君がやることだ。

 最初から大勢の人間を動かすことは出来るかもしれない。しかし、維持するにもお金は掛かるよね? それを賄う必要がある」


「カットスのお財布は私が握ったわ。それなりのお金はあるの」


 師匠が速攻で振り向き、俺の顔を覗き込んだ。

 そんな可哀そうなものを見るような眼をしなくとも、言いたいことはわかります。既に尻に敷かれていることが確定したと仰りたいのでしょう?

 俺の財布は昨日、防具やら礼服を買いに行った際に取り上げられたままなのだ。


「仮にあったとしてもです。その資金は大事に使わなければなりません。

 まず一番には人材の確保を。二番目からは陣地の構築と費用の計算です」


「カットスには引き続き冒険者をしてもらうわ。資金ならそれで賄えるでしょ?」


「でもそうなると、陣地の警備に人を多く雇い入れることが必要になりますよね?

 勿論、警備に携わる人員は少数は確実に雇い入れる必要がありますが」


「兵士は借りられないの? 冒険者を雇い続けるのは割に合わない。

 それに警備のためとはいえ、資金源のカットスを足止めするのは悪手でしかないわ」


 俺は、田舎に仕送りをする出稼ぎ労働者か何かか?

 旗頭としてお飾りなのは自覚があるから良いとしても、この金づるとでも言いたげな扱いはあんまりだ。

 あんまりだとは思うものの、大きな声で反論できそうにない。だって、ミラさんが怖いもの。


「兵士はどうでしょう? ある程度の規模まで開拓できれば借りられるかもしれませんよ。ただ、最初からというのは無理があるでしょう」


「カットスの財布に大金貨が3枚もあったから余裕かと思っていたのに。冒険者を長期雇用なんてしたら、すぐに枯渇してしまうわ」


「ちょっとカットス君、大金貨なんてお財布に入れているんですか? 大店の商人でそうは居ませんよ」


「そうなんですか? ドラゴン素材を売り払ったんで、一時的に増えているだけなんです。どうせ武具の購入やメンテナンスですぐに消えますし」


 ノルデの武具屋に売り払い、新作の武器を受け取ったにも関わらず、それだけの利益が出た。それは相棒が得た『収納』のお陰である。

 しかし武具の購入やメンテナンスに掛かる費用と考えると、そう多い金額でもなかったのだ。何せ、武具は普通に金貨100枚を余裕で超える代物。またメンテナンスにも購入金額に比例した何割かが掛かり、莫大な維持費が必要となる。

 ちなみに一般的な店舗で扱われる貨幣は金・銀・銅である。どの国の貨幣かで変換レートも異なる上、レートそのものが変動するので確かなことは言えないが大体、金貨1枚が銀貨100枚で銀貨1枚が銅貨100枚を基準にしている。五千円札または500円玉や50円玉と似たような扱いの大銀貨1枚は銀貨50枚、大銅貨1枚は銅貨50枚といった感じである。

 稀に見ることもあり、今回俺の財布に入っていた大金貨1枚は金貨1000枚相当。その存在自体が危ぶまれ、俺はまだ見たことのない白金貨1枚は大金貨100枚相当であるらしい。


「待ちなさいよ! 大金貨がすぐ消えるって、あんたどんな武具使ってんのよ?」


「あれ、見せたことありませんでしたっけ? 相棒、武具を全部出して」


「……あぁ、なるほどね。これは購入費用も維持費も桁違いなわけだ」


「父上、何ひとりで納得しているのですか? 説明してください」


 相棒に頼み『収納』していた武具を予備も含めて全て出してもらった。

 内訳は剣4本、鉞2本、ラージシールド3枚、サークルシールド2枚、弓1張、騎乗槍1本。


「例えばこの剣や斧は金属製でもこの色はオリハルコンだよね? こっちの盾なんか全部魔物素材製の一点ものばかり。槍と弓はちょっと元が何かわからないけど、これも魔物の骨だろうか。

 騎士や兵士が持つような数打ちの量産物とは価値が異なるのは当たり前だよ」


「なんでそんなに高いものばかり……」


「良いものは長く使えるんですよ。特に盾は俺の命を守るものですから、すぐに壊れるようでは困ります。

 それに、購入代金は魔物素材を用いた武具の方が安く済むんです。自前で用意すればいいわけですし、ね。その代わり、実際の評価額は跳ね上がるんですけど」


 『収納』のなかった頃、「これだけは! これだけはダメ!」と必死に確保したのは今では良い思い出だ。


「評価額が跳ね上がると修繕費にお金が掛かるのは、直すために新たに魔物素材も必要となるからだね。

 これはもう専属の武具職人を雇うしかないかな? 開拓村で武具屋を開かせること条件に、どこかで見つけるしかないね」


「お財布は返すわ。無いと大変でしょ」


 「呆れたわ」と言いたそうなミラさんは俺の財布を投げ返してきた。一日振りに持つ革袋はずっしりと重い。

 ただ今回は既に武具のメンテナンスも終えており、一応プールしているお金なのだけど、それを言い出すと収まりも悪く殴られかねないので黙っている。

 そんなことを考えていると、ミラさんの小さな呟き声が聞こえてきた。


「はぁ、もう資金繰りからやり直しよ」

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