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第三十一話

「それにしてもあのバカ王子、継承順位が低いからと安心しておれば、クーデターなど引き起こしおってからに」


「ライス殿も今代勇者殿もとんだ災難でありましたな」


 このままではマズいと宰相閣下が話題の方向転換を図る。すると、皇帝陛下もそれに乗った。ミラさんに睨まれたままの俺にも、この状況のマズさは理解できた。否応なく理解せざるを得ない状況であった。


「オニング公国の諜報員が入り込んで居たのは確認しましたけど、ラングリンゲ帝国もですかね?」


「まあ、国を運営する以上、情報は重要ですからな」


「しかし人気取りのためとはいえ王も継承順位一位の第二王子も幽閉とは、やはりただのバカですな。各国境に兵を分散配置し、小競り合いを仕掛けていることも我々には理解できない」


「王や第二王子が生きていたことで、私たちは命を繋ぐことが出来ましたけどね。

 本来であれば、見せしめも兼ねて殺すのが普通でしょうね」


 確か、俺たちを救出してくれたのは、あの国で幽閉されていたはずの王様であり、その間の時間稼ぎをしてくれていたとされるのは第二王子らしい。その話は事後に師匠から教えられていた。

 しかし殺すとか、殺さないとか、物騒な話に発展してきたものだ。俺としては、ちょいとついていけそうにない内容の話だった。


「我々の諜報員から上げられた情報を精査した結果、バカの後ろにはバームズ教が控えているようですな」


「元は我が国で駆逐されたアンバームズ教会の生き残りがヘルド王国へと渡り、ヘルド王国の国教となったと伝えられています。今代勇者殿の話と合わせますと、まず間違いはないかと」


 ステータスプレートが黒く変色した際の話を言っているのだろう。俺を悪魔呼ばわりして、牢にぶち込んだという話である。

 師匠やミラさんに聞いた話では、この世界に悪魔や魔王という存在は確認されていないそうだ。あくまでも想像上の存在らしく、絵本やおとぎ話の中にしか登場しない存在らしい。そういった部分では至って普通などだと感じられた。魔法さえなければ、少し文明の遅れた地球と錯覚しそうなものだった。


「かの賢王もバカ息子をどのように処置するのやら? 最早、賢王などとも呼べぬがな」


「事態を収めたのち、責任を取って隠居だろう。次の王は順当に第二王子マイデルだろうさ」


 一応、俺や師匠たちの命を助けてくれた王様なので悪くいってほしくはないのだが、政治の話なので口を挟むことは憚られた。


「ですが、この地図を見る限りでは古代魔法文明の遺跡は、大陸の中央部分に密集しているようです。あのおバカさんの治世を黙って見ている訳にもいきませんよ?」


「そのことで相談なのだが、ライス殿。オニングと連携が取れれば良いのだが、どうだろうか?」


「ノルデの屋敷に情報を統括する者を囲ってはいますけど、どうでしょうかねえ」


「もし連携が取れるのであれば、こちらとしては兵を出しても構わぬのだが、な」


「陛下が仰るように、連携が取れるのであれば、です。周辺諸国の反応を黙らせるにはオニング公国の協力が不可欠かと思われますので」


「そうですか。それについてはノルデに戻り次第、連絡を取ってもらいましょう。

 ですが、今すぐにどうこうという話でもないでしょう?」


「ええ、なるべく早い方が良いのは事実ですが、まずは開拓団のことを優先すべきでしょうね」


 兵をどうこうと聞こえたけど、まさか戦争でもするつもりなのだろうか? 俺の立ち位置的に、その戦争に参加させられる可能性は高い。こんな魔法のある世界の戦争なんて、戦争自体に縁のない日本人の俺には荷が勝ちすぎる。第一に人殺しは、どんな形態であれ勘弁してもらいたかった。


「では、改めてまして開拓地の選定を急ぎ進めましょう」


「閣下、リンゲニオンから逃げるには、どこがお勧めでしょうか?」


「開発がひと段落し、ヘルド攻略の件が順調に進むものと考えますと、国境に近い方がよろしいでしょうな」


「叔父上、国境付近は既に開発済みだ。北西であれば未発見の遺跡も地図には示されている。ただ地上には何もなく、恐らく地下に存在するのではないかと睨んでいるが辺境ゆえ、手を出していない場所が存在する。そこはどうか?」


「解説ですと軍事施設ですか? 確認してみないとなんとも言えませんが、当たりの可能性も否めませんか……」


 師匠が当たりと称するのは、俺が元の世界に帰るための手立てか何かがあるかもしれない、ということだろう。それならば是非にも調べてほしい。出来ることなら戦争などしないで、遺跡の探索を優先的にお願いしたい。


「では、その周辺を開発ということでどうだろうか? 今代勇者殿」


「えっ、俺? 俺は帰る方法がある確率が高いなら、そこでお願いしたいです」


「でも、カットス君、確実にそれが存在するとも限りませんよ」


「はい、わかっています。それでも可能性が少しでもあるならば、縋るしかないんです」


「カットス君が納得するのであれば、僕としても問題はありません。ミラは?」


 そう、問題はミラさんだ。開拓村の村長を引き受ければ実家の政略結婚を回避できるけど、その代わりに俺と結婚させられるという究極の二択。皇帝陛下の案で、婚約という形にしてお茶を濁すという手もあるんだけど……。さて、どうなるか?


「良いわ、引き受けるわよ。覚悟しなさい!」


「その『覚悟しなさい』は俺に言ったの?」


「そうよ、あんたのお嫁さんになってあげるって言ったの!」


「ミラ殿、とりあえずは婚約ということにしましょう。遺跡の探索結果次第ですが、今代勇者殿の帰還が叶うかもしれませんから」


「もしご帰還が成った場合も、ミラ殿には帝国の臣としての騎士爵の地位をお約束します。我がラングリンゲ帝国では、女性でも貴族の当主と認める風潮があります故」


「帝国にホーギュエルに属する家が誕生するのですか、いや~嬉しい話ですね」


 怒りを露わにしたミラさんの宣言に皇帝陛下や宰相閣下、師匠までがなんとかこの場を収めようするが――。


「何よ! 私がカットスのお嫁さんになるのに反対なの? あれだけ悩んだのに」

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