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第三百十七話

――宿主よ。四○〇三号はまだ孵化して間もない。

――されど、四○〇三号の性能は他の試験機や量産機を遥かに凌ぎ、大いなる力を有している。


「は?」


 俺は鳴海正吾さんに促され、本に浮かび上がる文字を読み解いていくのだが、その意味が全く理解できていないでいた。


――四○〇三号はチキュウ人の細胞のみで造り上げられた、数少なき魔道生命体である。


「――止せ、それはまだ彼には話してはいない! 彼の選択肢を狭めるてしまう」


――ショーゴよ。何を今更に焦ることがある?


「お前たちが滅んでから既に一万年以上の時が流れている。近年、その遺物によって鹵獲されただけの地球人、日本人にその事実は重すぎる。彼には知るか否かを選ぶ権利がある!」


「……相棒は地球人の細胞で造られている?」


 鳴海正吾さんは少し前に俺に言った言葉がある。

 つい十数分前のことだ。いくら俺でも忘れてなどいない。

『寄生型魔道生命体の存在を良しとしない地球人と、ふいに遭遇すれば殺されかねない』と彼は言った。

 既に人間の姿をしていない鳴海正吾さんや、それ以外にも居たかもしれない地球人の細胞で相棒が、魔道生命体は造られた?

 俺だけでなく、キア・マスの次兄ミヒ・リナスさんも有していたユニークスキル。

 それならば意味は通じる。

 自分たちや仲間の細胞で造られたがモノが、他者の良いように利用されているとなれば壊したくもなるだろう。


「……勝利くん、今はそのことは置け。後で私から詳しく話す」


 文字通りに気炎を吐きながら、鳴海正吾さんはそう述べた。



――宿主に告げる。負傷したクローンの娘を救うに施したるはサクリファイス。


「馬鹿な! あんな失敗作を使ったのか? 大博打もいいところではないか」


――そこは我らの支援と、四○〇三号が宿主の意思を拡大解釈したことで成功率が飛躍的に向上した。

――ショーゴの知る通り、サクリファイスは術者の望みを具現化する術である。

――マナの生成がナノマシン由来の宿主では総量が不足し、サクリファイスの根幹となる意思が途切れることを危惧があり、四○〇三号は宿主に同化することを選択した。

――結果、四○〇三号はマナ不足に陥った宿主の意思を引き継ぎ、サクリファイスを成功へと導いた。


――此度、そなたらをここに呼び出したる主な目的は、これを報せることにある。

――ショーゴの存在は我らの言葉を宿主へ伝えるによい助けとなった。


「同化だと!? では勝利くんは……否、彼の寄生型魔道生命体は言うなれば私と同じ? よもや私や他の地球人の存在を求めてここに、この実験場にお前たちが誘導したのか?」


――我らは四○〇三号の命には逆らえぬ。誘導もやむなし。


「一体、何のことを?」


 今も浮き上がり続ける文字列が示す事柄はひとつだった。

 ミラさんを救うべく、俺は相棒に願った。

 『どんな代償でも支払う』と、そう言った覚えはある。

 

 その代償を俺は何かしらの形で支払ったのかもしれない。


――次も成功を収める保証はないと知れ。


「……なんてことだ!」


 鳴海正吾さんはトカゲの姿なのまま、天を仰いだ。

 空など一切見えない洞窟みたいな触手の中、だけど。


「あの、どういう意味なんですか?」


「君は……私が寄生しているジルバと同じ立場にある。ジルバは私が寄生することを許している、この王竜本来の自我。そして私と同等に、君に寄生していた魔道生命体は君の身体に溶け込んでいると解釈していいだろう。君の肉体と寄生型魔道生命体は今やひとつの肉体を共有しているということだ」


――四○〇三号の宿主との最適化も最終工程へ至る。

――孵化後間もない環境であったからこそ、目立った拒絶反応も見られない。

――但し、最終工程には数日を要する。


「この子はしばらくの間、使い物にならないと?」


――肯定する。


「だ、そうだ?」


「相棒が……消える?」


――宿主との最適化が終了し次第、再生を約束しよう。


 俺は、いつの間にか椅子から立ち上がっていた。

 俺が今まで生きてこられたのも、ミラさんを窮地から救ってもらえたのも、相棒の存在があったからだ。

 俺と相棒がひとつになったなど些末な問題でしかないが、今更消えてもらっては困る。改めて例の一つでも言いたいし、何より相棒には愛着がある。


 時間が経てばまた戻ってくるという、その文章に俺は安堵した。


「しかし……これらを君が内包しているという事実は著しい問題だ。勝利くん、決して私や彼以外には漏らしてはいけないよ。過激な地球人にでも知られれば、君は八つ裂きにされてしまう」


「魔道生命体の材料、が問題なんですね?」


「そうだ、本来なら君には選択肢があった。彼や君を保護した近しい者たちと共に生きるか、私たちと来るかを選ぶ権利があったのだが」


「それが無くなったと?」


「私が君と共に在ろう。君たちが訪れた施設は、転生術中にある存在が緊急事態に対処するための安全装置がある。それが今回初めて役に立った。

 私はあと数十年経過せねば孵化することはなかった。その数十年分を君の保護に当てようと思う。まずは拉致被害者が最初に接触するであろう交渉担当対策に、抑止力を確保すべきだが……郷に赴くしかあるまいか」



「さと?」


「現存する地球人の一派が暮らす郷がある。そこに、私以上の抑止力となる人物のひとりがいる」


 日本人、いや地球人が他にも存在する?

 どう見てもトカゲな鳴海正吾さんも、一応人格的なものは日本人ではあるみたいだ。


「で、相棒? 俺を呼んだ意図は察したけど、どうやって帰ればいいの? あの滑り台を登れとか言わないよね?」


「ニィ!」


――宿主の正面右にある扉を抜けよ。


 何者かの人格が宿る本を無造作に相棒が叩くと、回答が得られた。

 相棒はこの本に宿る人格の主よりも、より上位の存在であるようだ。


「しばらくお別れなんだろ?」


「ニィィ」


 ひしっと抱っこしている俺にくっつく相棒。

 見た目は非常にアレだけど、その仕草は可愛い。

 当事者が俺だから、そう思うのかもしれないが……それは言わぬが華だろう。


「正吾さん。あとで詳しく聞かせてください」


 何もかもがこの短時間に起こり過ぎた。

 ナノマシンが俺の中にあることや、相棒の正体やその相棒の調整に時間が掛かることなど。鳴海正吾さんのことも、アグニの爺さんが隠している正体も気に掛かる。

 いいや、何もかも謎が多すぎるのだ。


「それを聞けば、君の選択肢はひとつしかなくなってしまうよ? それでもいいのかい?」


「……身の安全と秤にかけるにしても、小出しにされた情報ゆえの好奇心には勝てませんよ。でも離れたくない人たちもいるんです。本当にどうしたらいいのか?」


「一応の猶予はある。拉致被害者に接触する交渉担当の睦美さんが君の下へとやってくるまで、だけど。睦美さんは私たちの郷で唯一の過激派だからね」


 『睦美』と言うからには日本人女性なのだろう?

 でも、その答えは色々とヤバい。

 俺、余命僅かじゃないですか?


 先代勇者サイトウさんは、どうやって対処したのだろうか。

 ああ、ユニークスキルならぬ魔道生命体が適合したのは俺だけなんだったけ?


 遺跡探索初日のアグニの爺さんじゃないが、本当に先が思いやられるよ。

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