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第二十九話

「陛下、先代勇者様のお話をしていただかないと」


「だから引き継いでもらおうとしたのだ!」


「ちっ、仕方ありませんな」


 この主従、わざとやってるのか? 話が長いだけで何が言いたいのか、よくわからん。さっさと先代の勇者の話をしろよ。


「先代勇者様の名は、サイトウ=テツタロウというお名前でした。

 言語に関する汎用スキルのみしか持たない人物で、武人ではなく知識に長けた男性であったと記されています。

 召喚された当時で既に年齢が42歳、国元に両親と妻に二人の娘を残してきたそうです。

 最初こそ王家にも牙を剥かれましたが、話をする内に先代勇者様もことの次第を理解されたようでした。要するに教会が諸悪の根源であるという事実を、ですね。

 教会が古代魔法文明の遺産を用いたという事実を突き止めるのにも時間が掛かりました。当時の王国に於いては、戦乱が終息したばかりで更に教会との戦争もあり、古代魔法文明に関することに注視している場合ではなかったからなのですが。

 初代皇帝率いる帝国は、先代勇者様から齎される知識や技術を手に入れました。その代償に、先代勇者様を元の世界へと送り返すための知識の収集へと取り掛かります。領内にある古代魔法文明の遺跡を血眼になって探したという記録も残っています。

 しかし発見した遺跡も隅から隅までくまなく探索しても、それで得られたものは古代魔法文明の版図に関する文献にくらいなものでした。この文献の解析も先々代皇帝の代にやっと解析できたというものであります。当時、先代勇者様の存命の間にその成果を示すことは叶いませんでした。

 それ以降も探索や調査を続けたのですが、大した結果を得られることはなかったと。また周辺諸国へも働きかけたのですが、戦乱が収まったばかりで協力は得られなかったと、記されています」


「我々は代々、先代勇者様から齎された恩恵によって生かされている。

 この国が今でも存在していられるのは、先代勇者様のお陰だと言い切れる。

 ただ、我々はその大恩に報いることが出来なかった不甲斐ない一族の末裔だ。

 そんな不甲斐ない我らの前に新たな勇者殿が現れた!

 我らの自己満足でしかないのは重々承知している。しかし、先代勇者様に報いることのできなかった我らは皇家・臣・民を問わず、今代勇者殿を迎えると宣言する。

 そして先代勇者様と同様に今代勇者殿の帰還に向け、全力を尽くすと誓おう」


 宰相閣下から話を引き継いだ皇帝陛下は熱く語った。その両手を振り回しながら。

 非常に長かった話は終わったというのに、まだ興奮が冷めやらないのか、皇帝陛下はフンフンと鼻息がうるさい。

 しっかしこの皇帝陛下、口調がコロコロと変わりすぎだ。最初こそ横柄な感じだったけど、話をしている間に物腰すら柔らかくなっているし、一体どの彼が本来の人物として正しい姿なのだろうか?


「話はわかりました。なら何故に交渉を?」


「俺も、そこが気になります」


 全力で迎え入れてもらえるのであれば交渉などする必要もなく、謁見でこの話をしてくれれば良かった。それで全ては丸く収まるはず、なのだ。


「う、うむ。陛下は皇家・臣・民と申したが、帝国も一枚岩とは言い難く」


「消極的な連中やこちらの言い分に反対する輩を黙らせるために、協力してほしい」


「まあ、そうなりますよね。どこの国も一緒ですか」


 妙に意気投合している大人3名を余所に、俺とミラさんはどうするべきか困り果てる。俺は中学生に毛の生えたようなものだし、政治的な駆け引きなど理解が及ばない。ミラさんはどうなのかわからないけど、似たり寄ったりか?


「で、協力と言いますと?」


「開拓団を率いてもらいたい。

 場所はどこでも自由に決めてもらって構わぬし、人材や主な資材はこちらで手配する」


「それだけではない。ライス殿には遺跡探索の優先権を認める。

 今代勇者殿率いる開拓団が開発した土地は、リンゲニオン同様に自治区としよう」


「随分と大盤振る舞いではありませんか?」


「それだけ我らも大恩に報いようと必死なのだ」


「先祖代々の悲願なのです。お願いします」


 遥か昔に召喚され亡くなってしまったサイトウさんへの恩返しに取り付かれた帝国の皇帝一家。傍で見ていると、とても哀れだ。

 既に当時の皇帝もサイトウさんも亡くなっているだから、何も俺に筋違いの恩返しなどしなくても良いのに。


「案としては、カットス君にお飾りとして団長を任命しますよね? 開拓村の仕切りはどうします?」


 お飾り! どうせ、訳などわからりませんからね。居るだけで良いとすれば、楽なもんよ。


「ライス殿のご息女をお借りすることは可能でしょうか?」


「陛下、それは……アリですね。ミラも領内に戻れば、輿入れの話が間違いなくあるでしょうし、それを避けるには良い手です」


「父上、輿入れって!」


「政略結婚は貴族の習いです。ですが開拓村の村長を引き受けるのなら、輿入れの話はなかったことに出来ますね」


「……カットスが帰るときには私も付いていくんだから! 村長なんて引き受けられないわ」


 ああ、確かそんなこと言ってたっけ? 態のよい言い訳に使ったな、ミラさん。

 帰れるかどうかすら定かではないのに、その言い訳は通じるのか?


「順調に開発できれば、町となった段階で代官に相当する人物を派遣することも可能です。それまででも構いませんので、よろしくお願いします」


「陛下、代官など派遣したら自治区の意味がなくなります。今代勇者殿の成果の横取りと見做されますが」


「だから『相当の』と言っただろう、叔父上」


「外から観れば、似たようなものですぞ。言い訳にしか聞こえませぬな」


 真剣に検討している師匠と、口喧嘩が止まない皇帝陛下に宰相閣下。半ば諦めたかのような表情をするミラさんに、お飾り扱いの俺。

 この話し合いというか、交渉は長引きそうだ。

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