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第二百五十九話

 昨日の晩に試食会を兼ねた炊き出しを行い、それなりの評価を得ることが出来た。

 ただ、俺個人の評価としては微妙。クリームシチューの味に納得がいっていない。何かが足りない……いや、大幅に何かが足りない。そんな感じがしてならなかった。

 プリンにしても、プリン液にクリームを混ぜて舌触りをなめらかにする方法や、最も大事なカラメルはバリエーションの一環とすることにした。

 クリームをプリンにまで使うとなれば、ミルクの消費を考える上で本末転倒だし、砂糖が無尽蔵にあるならカラメルは付けてもよかったのだが、砂糖の備蓄は有限だ。プリン自体に砂糖をたっぷりと用いているため、カラメルは省くことにしたのだ。


 昨日一杯を要したシチューとプリン作りの提案は終わりを告げ、俺の手から離れた。以後はタロシェルやサリアちゃんを中心として、開拓団内にレシピが伝わっては変化していくことだろう。

 実はもう一つくらい何かの案を提示できそうなのだが、イメージがはっきりと浮かび上がってこないのが現状だ。他の作業でもしていれば時期に思い出すか、逆に忘れてしまうだろう。


「雲と風が出てきています、猶予は余りないでしょう。カットス君も今日から建築作業の手伝いに入ってください。あと、ゴブリン族の皆さんが耕した土の回収もお願いしますよ」

 

「魔王さんには建てた小屋を適当に配置してもらいたいナ。排水溝から枝を伸ばすのはゴブリン族がやってくれるヨ。その間、俺たちはあの一角で小屋を建て続ける方が効率がイイ」


「給湯器の数は揃った。伯爵の方の仕事が終わり次第、俺は小屋の内装に工事に入れるゼ」


 皆が忙しく働いている中、昨日の俺はあれでも休日扱いだったのだ。

 そこは師匠なりの優しさなのだと考え、今日からは再びまともな仕事へと就くことに。

 見上げた空は青空が七割、雲が三割といったところ。まだ余裕はありそうだが、北東の空にどんよりとした黒い雲の姿もあって心配は尽きない。

 手の空いている者は片っ端から建設作業に携わっている現在、体調の戻った俺も遊んでなどいられない。



 正方形の上部を斜めにぶった切ったような屋根の掘っ立て小屋は、雨や雪はなんとか凌げるのだろう。たぶん。

 しかし屋根も壁も瓦のように下から重ねていく工法で、屋根はまだしも壁からは隙間風がピューピューと吹き込む。寒さは凌げないかもしれない……。


「連中に排水溝に枝を掘らせてイル。あの枝の真上に小屋の排水口が来るように置いてくれヤ。小屋と小屋の間隔は……オイ、ソニャ! 魔王さんと組メ」


「了解ッス、親方!」


「そういうこっタ。よろしく頼むゼ」


「よろしくお願いするッス!」


「こちらこそ」


 ローゲンさんの指示で俺とタッグを組んだのは、ソニャ・ラゴさんという元冒険者の女性エルフ。名が二つあることからも分かるように、彼女はそこそこの家の出だという。ただ、四女ということで冒険者として食い扶持を稼いでいたのだとか。

 今後の生活のため、手に職を得ようと開拓予定地に到着後にロギンさんとローゲンさんに弟子入りすることが決まっていたらしい。


「魔王さん、親方が無造作に建てている小屋を回収してくださいッス」


「はい」


 土台となっている石材はモルタルで固められている。最初の方に建てられていた小屋はモルタルもそこそこ乾いているようだ。

 コンクリートは何故かある。地球でも古代からコンクリートはあったのだし、何も不思議ではないのだが……十中八九、サイトウさんの入れ知恵と考えておく方が無難だろうか。


「相棒。地面は弄りたくないから、上から覆い被さるように『収納』しよう」


「ニィ!」


 試しに手前に一軒を『収納』してもらう。

 無事に取り込むことが出来、崩れている様子はない。


「一番初めッスから一軒だけ置いてみましょう」


「そうしましょう」


 掘っ立て小屋建設区画から隣の区画に移る。区分けしているのは、俺が掘った排水溝だ。

 で、俺の堀った排水溝から網目状に支流を伸ばしているゴブリンさんの一人。例の角スコを持ったゴブリンさんだ。

 地面にザクっと角スコを差し込むだけで、あっという間に細い排水溝が出来上がる。主流となる太く深い排水溝も、ゴブリンさんに任せておけば良かったのではないかな? そうすれば俺が倒れることも無かったのに!


「この排水溝の上に穴を合わせると?」


「はいッス!」


「相棒、出来そう?」


「ニィ!」


「ちょっと待って、向きはどうします?」


「そッスね。とりあえず、置いてみてから考えましょうか」

 

「じゃあ相棒、頼む」


「ニィ!」


 相棒が小屋を置いた。

 ソニャさんに続いて俺も小屋の中に入り、排水口が支流の真上に正しく配置されているかを確認する。


「流石、ど真ん中ッスよ」


 やったのは相棒なんだけどな!


「で、方向ッスけど、これと同じように並べれば十分ッス」


 小屋の排水口は建屋の端の方にあった。

 雪に覆われることを想定し、且つ暖房を兼ねて竈を設置するつもりらしく。その横に石造りのシンクも設置するのだとか。そのための排水口と排水溝の接続が必要であったのだ。


「次々行くッスよ!」


「モルタルが乾いているヤツを優先しますよ?」


「そッスね。奥から順に、親方たちが居る方が建てたばかりッスから」


 相棒に頼み、小屋の回収を進める。

 ソニャさんの指示に従い、隣の区画やその隣の区画に配置していった。


 小屋の扉が内開きなのも、積雪量を考慮したものだろう。外開きではドカ雪に覆われると開かないもんな。

 窓は排水口の傍に一カ所、その反対側に一カ所。ガラスは嵌っていないが、鎧戸となっている。竈で火を焚く以上、換気口を兼ねた明かり取りなのだろう。


「一通り終わったッス。今日はこんなもんじゃないッスかね」


「じゃあまた明日ですね。俺は土の回収で外周に居るんで、また何かあったら呼んでください」


「はいッス。おつかれッシタ」


 午前中いっぱいも掛からずに小屋の配置は終了してしまった。明日になれば、また数軒の小屋の運搬と配置の仕事が待っている。雨が降り出すまでは、その繰り返しとなるだろう。

 だが、俺にはまだ仕事が残っている。俺というよりも相棒の仕事なのだが……。

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