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第二百四十四話

「儂も手伝えれば良いのだが、儂は結界魔術以外はからっきしでのぅ」


 アグニの爺さんの言だ。

 そういや、アグニの爺さんも魔術を使うことは可能であった。

 但し、見た目こそ魔術師然としたアグニの爺さんは撲殺ヒーローと呼ばれ、大衆演劇の題目となる程の武闘派で肉弾戦士なのだ。魔力量とて俺とそう変わりがなく、若干多いとライアンが判別するのみ。


「師匠も俺というよりも、相棒を指して要請しいるのでしょう。俺の魔術では、自身の身すらも守れませんから」


 俺自身にとって、先の黒いワイバーン戦は良い教訓となった。

 盾で防御するだけでは自分の身体すら守れはしない。瞬時に展開できる師匠仕込みの魔術も結果を見れば一目瞭然、ほぼ役には立たなかった。

 以前からライアンに警鐘を鳴らされていたように、何らかの武器を持つ必要がある。ただ、それは漠然とした答えでしかなく、どのような武器を持つべきか迷う。

 師匠が俺に武器を見繕ってくれるはずだったフリグレーデンでは、その前日に起こった野盗の襲撃で相棒の能力が無力化されてしまい、盾の代金を肩代わりしてもらうこととなってしまった。結局のところ、師匠は全くお金を浪費していないのだが、それは交渉の結果であるとしか言いようがない。

 開拓予定地は近い。しかし開拓予定地では設備を整えても、その選択肢は狭い。ロギンさんローゲンさんの造れる範囲で、俺に合った武器を造れることを祈るしかない。


「今日は小僧の担当じゃな?」


「はい、そうですね」


「昨日のライス殿の魔術には驚いたものじゃが、今日はどうなるか楽しみだわい」


 昨日、師匠は土壁から放つ突風で開拓予定地へと向けて道を造り出した。違うな、創り出したというべきだ。

 その師匠が創り出した馬車でも通り易い道は、今日中には途絶える見込みだ。

 途絶えるであろう、その道の先はライアンが担当することが決まっている。


 ライアンは師匠のような元素魔術はスクロールの補助が無ければ扱えない。

 元素と言っても俺が学校で習った元素記号があるわけではなく、火の元素・水の元素という属性的な何かなのだが、それはいい。

 スクロールに関しては、師匠よりも一日の長があるとライアンはよく俺に言って聞かせたものだ。なれば、その成果を見ることができるかもしれない。


 ちなみに今日、ミートが牽く戦車の乗り組み員は俺とアグニの爺さんとミジェナちゃんだ。ミジェナちゃんは、俺に弟子入りしたとして付かず離れず付いてくる。


 リスラに聞かされた話では、俺の関知しないところで一悶着あったらしい。

 俺の料理の弟子であることを自負するタロシェルと、魔術の弟子となったミジェナちゃんとで、どちらが一番弟子かを争ったらしいのだ。

 機転を利かせたリスラが仲裁したことで『どちらも一番弟子である』と断定されたと聞く。

 自己主張の弱いミジェナちゃんが珍しくタロシェルに食って掛かった事案であるそうだ。双子であるこの両名だが本当の孤児であるがために、どちらが兄か姉か判明していない。同時にどちらが弟か妹かも。

 今はリスラの機転に感謝するとしよう。伊達に歳は食っていないのだ。


――ピィィィィィィィ


 鳴り響くのは恐らくはライアンの指笛。

 今日の俺はライアンの魔術を見るべく、最後尾に位置していない。見終わったら、最後尾へと回る算段なだけだが。


「シギュルーを呼び、開拓予定地への道筋を見極めておるのじゃろう」


「いくらシギュルーでも、まだ開拓予定地は見えないでしょうに」


「高空に位置しておれば河は見えよう。簡単な方角だけじゃろう」


 シギュルーは賢い。大河と丘というキーワードがあれば、よもやとも思うところはないわけでもなかった。

 シギュルーにより方角を確認したライアンは、師匠が創り出した道の末端で少しだが方向を変えた。


「始まったか。見よ、カツトシ殿!」


「やはりスクロールですね」


 ごつい紙。恐らくは羊皮紙であろうものに刻まれたスクロールをライアンは用いているようだ。羊皮紙と言っても、アルパカかリャマの皮だろうけど。

 道を創り出す方法としては師匠とそう大差ない。師匠は土壁上に作り込んだ魔法陣を、ライアンは羊皮紙に描き込んだ魔法陣を用いているかの違いだけだ。


「小僧の魔力量はライス殿を凌ぐという話じゃった」


「それにしても強引ですね」


 ライアンは都合、三枚の羊皮紙に描き込んだスクロールを用いた。師匠が用いた土壁と同様に耐久限界に達した羊皮紙は、ライアンの手元で焼け落ちたからだ。

 

「ライス殿よりも幅は広く……距離も恐らくは長かろう。ライス殿に負けじと、奮闘した用じゃな。やはり兄弟であるのぅ」


「ミジェナちゃんもライアンに弟子入りした方が良かったと思うよ?」


「……」


 ミジェナちゃんにキッと睨まれた。余計なこと言って、ごめんなさい。

 この子、こんな表情できたのね。


「俺、明日の担当なんですけど……誰か代わってくれませんかね」


「儂は先刻も言ったように極小規模な結界魔術しか扱えんから、無理じゃぞ。それに、そもそも開拓団に魔術師が居らんじゃろう?」


「ええ、分かってはいるですよ。愚痴みたいなもんです」


 俺の魔術は料理に使うのが関の山だ。とても師匠やライアンのような、道を創り出すような真似はできない。それなのに、明日の道作りは俺が担当になっている。

 師匠やライアンと比べ落差が酷いと、開拓団員に笑われないだろうか?

 それどころか、俺の横には何かを期待する弟子となったばかりのミジェナちゃんの存在もある。俺に弟子入りしたことを後悔させたくはない。

 何かしらの方法を考えないと! 今から……。

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