第二十三話
ラングリンゲ帝国は主要な都市を結ぶように宿場町が存在する。それは一定の距離を保っており、その間をまた細々とした開拓村が埋める形をとっている。やがてその開拓村が発展し、新たな宿場町となる可能性もあるだろう。
一般的に普及している馬車ではどうしても無理なようだが、この高速馬車とやらだと宿場町や開拓村を結ぶ区間を日が沈むまでに走破することができた。それは野営を必要としない画期的な移動方法であると言える。
但し、そんなことが可能なのは帝都のお偉いさんくらいのものだろうけど。
「往路で代官への通達は済ませています。宿まで馬車を降りる必要はありませんので、そのままでお待ちください」
「それは助かります」
随分とまた手際が良いもんだ。お陰でこちらも変に気を遣うことも、疲れることもなく有難く思う。それだけの恩恵を受ける師匠は、俺が当初思っていたよりも有名な学者であるようだった。
「宿はこちらです。貸し切りですので一人一部屋、ゆったりとお休みできましょう」
「何も貸し切りでなくとも」
「いえ、警備の手間を考慮すると、貸し切りの方が楽なのですよ」
どうやら警備の4人もこの宿に泊まるようだ。馬車は裏手に回され、ホバースケイルは厩舎に繋がれたいた。厩舎では普通の馬と並ぶように、入れられているのだけど平気なのだろうか?
「あぁ、知らなかったの? ホバースケイルは草食なのよ」
「あんな厳つい風貌なのに草しか食わないなんて、俺の相棒とは大違いだな」
「あんたの相棒は肉食でしょ。逆に草は食べないんじゃない?」
「どうだろう? 考えたこともなかったな」
厩舎を眺め首を傾げていた姿を目撃したミラさんが教えてくれた。
でも相棒は、野菜も食べなきゃいけませんよ。などと注意を促す必要のある相手ではないと思われる。特に好き嫌いがあるとも思えないが、果たして草は食べるのだろうか? 『収納』との違いは一応触手にその特徴が表れることで判断できるのだが、草となると微妙だ。一体どのような扱いになるのか、予想もつかない。
「試してみればいいじゃない?」
「いや、マズいでしょ。帝国は俺の素性は掴んでいるらしいけど、組織の末端にまで知らされているとは限らないし、宿の人だって居るんだから」
「ノルデでも最初は慎重だった癖に、いつの間にか開き直ってたじゃないの」
「あれはどこからかバレて、どうしようもなくなっただけだよ。俺が自分からそうしたわけじゃない!」
確かに開き直った部分はあるけど、こう宣言しておくことに意味があると思いたい。思わなければ、やってられない。
どこから漏れたのか、恐らくは冒険者ギルド辺りだろう。ひた隠しにしていると怪しさ満点だからこそ、敢えて漏らしたのではないかと俺は睨んでいる。お陰で、子供たちにまで大人気の相棒なわけだが。
「面倒な性格をしているわ」
「うるさいよ」
「お二人は仲がよろしいですな。ご婚約でもされているので?」
「冗談、こんな触手男」
「ぐぅぅ(事実だから言い返せない)」
「まぁまぁ、ミラもその辺にしておこうか。明日の予定だけど、明日もまた次の宿場に向かうだけだよ」
「観光等はお帰りの際にお願いしますね。何分、距離がありますので、帝都には余裕をもって到着しておきたいのです」
言わんとすることには十分に納得できる。実際のところは観光と言っても、宿場や開拓村では見るところも碌にない。ただ宿や農村があるだけだもんな。
「巷の噂で有名な魔王様に、陛下が興味津々でしてね。早めに到着しておかないと、何を仰られられるか分かったものではありませんからね」
「え? 師匠が著名な学者ということでは、ないのですか?」
「勿論、ライス殿も有能な魔術学者としてその名は帝都まで轟いておりますが、あなたの方が今の帝都では有名かと」
「良かったじゃないの」
良くないよ! なんでそんな帝都にまで、魔王と広まってるの? 意味が分かりません。だって俺、完全に田舎と呼べる部分でしか冒険者として活動してないんだよ。
主な活動領域は森や山なのに、どうしたら他所の町にそんな噂が広まるのさ。
「それは少し問題ですね。カットス君のユニークスキルは独特でして、皇帝陛下がお気に召すかどうか……」
「当たり障りのないのを出しておけば大丈夫よ。気持ち悪いのは、止めた方がいいわね」
「当たり前だよ! 猫の手でいこう。いや、通そう」
そう言葉にすると、猫っぽい触手を1本伸ばして俺の頭を撫でてくれる相棒だった。
「ハハ、これが噂の、ですか。可愛らしいものですな」
「戦闘行為が絡まなければ、ね」
「御前試合みたいのは止めた方がいいですね。ありませんよね?」
「予定では考えてはおりませんよ。謁見のみですし、ね」
「はぁ、助かった。本当に」
もし、そんなものが用意されていたら大変だ。この子、戦闘狂で俺には止められないよ?
「では、早めに食事をとって就寝しましょう。明日も早いですし、ね」




