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第二百三十四話

 粉物問屋の店主は留守。裏の食堂の厨房を使わせてもらえるよう、交渉しに行ったのはつい先程のこと。

 店主が戻るまでの間に、粉の選び方をタロシェルとリグダールさんに教えておくことにした。といっても、俺も適当なんだけどな。


「器に小麦粉を入れて、水をこのくらい入れる。そして混ぜ合わせる」


「この粉、ベチャベチャだよ?」


「ふむふむ」


 店主が見せてくれた二品の内、きめ細かく挽かれた小麦粉は粘りが弱い。細かく挽かれていないセモリナの方は、俺たちがパン作りに使っているものと変わらない粘りを発揮している。


「店主が帰って来ないと分からないけど、これは種類が異なるのかもしれないな。でも、これはこれでケーキやクッキーは作れそうな感じではあるか」


「ケーキ? クッキー? 兄ちゃん、また何か作ってくれるの?」


「ミラさんに怒られない範囲でな」


 俺の独り言にガヌが食いついた。タロシェルとリグダールさんは、まだ小麦粉の粘りを検証している最中だ。


「お客さん、お待たせして申し訳ない。裏の食堂の主人に許可が取れました。店は一時的に閉めるんで、移動しましょう」


 粉物問屋の店主が店舗を回り込むように戻ってきた。食堂の許可が得られたことが余程嬉しかったのか、矢継ぎ早に事を進めようとする。


「店主、その前に。この二つの粉は、同じ種類ではありませんよね?」


「ん、ああ、違う。きめ細かく挽くのに適した品種というのが、ちょうど良く手に入ったんだ。こっちの粗いのは固パンに使われている小麦だね」


「店主、この細かい小麦粉は安定して入手できますか?」


「東の砦で兵士たちが育てたっていう小麦だから、手に入れることはそう難しくはないだろうな」


「じゃあ、先にこの細かく挽いた小麦粉をひとつ。それとパンに使う粗い小麦粉を樽で二十は欲しいですね」


「……なんと、この小麦はパンには使えないと?」


「はい、パンには向かないでしょう。でも、他の用途に使えますよ」


 店主は細かく挽いた小麦粉で柔らかいパンが出来ると考えていたようだ。でもね、この小麦粉はどうも薄力粉っぽいのだ。

 パン作りに用いるなら、やはり粘りの強い粉の方がいい。


「兄ちゃん、まず粉を挽かないといけない。それと、バターと種を取って来ないと」


「バターの作り置きがあるのか? 種は最初に作ったのが相棒の中にあるけど」


「昨日作ったのがあるよ。ひとっ走り行って、取ってくる!」


「バターはガヌが作ってるんだよ」


 ガヌは毛むくじゃらで料理には向かない。でも、筒に入れた生クリームをカシャカシャ振る作業は獣人で力もそこそこあるガヌに向いていたようだ。

 子供たちは子供たちで、仕事を上手く分担していたらしい。

 しかも、昨日作ったとか……。昨日はまだベルホルムスからテスモーラへと向かう道中にあったのだが、いつ乳を搾ったのかも謎だ。


「店主が閉店作業を進めている間に、粉を挽き直します」


「早速、石臼の出番ですよ。隊長」


「あの柔らかなパンを作るのか?」


「隊長には僕が順を追って話しますよ。リグダールはタロシェルの手伝いがありますからね」


 タロシェルが粉挽きからパン作りまでの全工程を引き受けてくれる。だから、俺が隊長さんと話す機会が得られたかと思えば、アランがやけに張り切っていたために任せることにした。

 交渉前に威嚇するような真似しかしていない俺としては、隊長さんとゆっくり話してみたかったんだが、どうも上手くいかないようだ。


「そう、そんな感じでゆっくりと粉を挽くの。早くし過ぎると質が悪くなるんだ」


「ほう、奥が深いのだな」


「客を待つ間の手慰みにするのも良いな」


 タロシェルの粉挽き講座を受けているのは、リグダールさんと閉店作業を中断した店主。粉を挽き直し終わるまでは、閉店作業を急ぐ必要もないのは事実だが。


「タロシェル、二本分あった!」


「ありがとう」


 そしてガヌが息せき切って戻ってきた。一体どこまで取りに行ったのだろうか?

 十中八九、ミラさんや子供たちの乗っていた馬車であるのだろうけどさ。馬車は街の入り口付近にまとめて停めてあり、この市場からだと結構な距離がある。

 その間を往復したにしては、あまりにも早くガヌが帰ってきていた。


「ガヌ、どこまで行ってきた?」


「広場。サリアの背負い袋に入れてあったんだ」


 ああ、なるほど。広場までの往復なら、戻りが早いのも当然か。

 それでも気を利かせたガヌとパン作りに励むタロシェルに、俺は何かをしてやりたい気持ちになった。

 

「タロシェル、バターを一本分もらってもいいか?」


「粉はそんなに早く挽けないからパンは一個か二個しか作れないし、一本分あれば十分だよ」


「じゃあ、これでタロシェルとガヌに何か作ろうかな」


「やったー!」


 バターは筒に入ったままの状態。チャプチャプと音がするのはホエーを取り出していないからだ。また、筒の側面のへばり付いているであろうバターには、溶けていないことを祈りたい。

 タロシェルとガヌのみでなく、サリアちゃんやミジェナちゃんへのお土産を含め、多めに作ってみよう。但し、ライアンとリスラの舌は未だ地竜の肉に捕らわれているため、あの二人の分は考えなくてもいいだろう。

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