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第二百三十一話

「前に一度だけ爺に促されて話すか迷ったんだが、時期尚早と判断して俺が却下した内容だ」


 野盗たちの記憶に流された挙句、思考が暴力的になっていたライアンは一転して真面目な態度をとる。


「一体、何の話だ?」


「まあ、聞け。

 正式名称は不明だが、アンバームズ教会が牛耳る東国連合と呼称される地域。そこでは人族至上主義が蔓延り、エルフやドワーフ若しくは近似種に対して差別意識がある。当然、主導しているのはアンバームズ教会だ」


「人族至上主義と言うなら、上位種である魔人は神様扱いなのか?」


「先達に聞いた話に依ると、魔人もまた差別の対象であるようだ。奴らとしては、自分たちこそが至上でなければならないのだろう」


 人族の上位種である魔人すらも差別するという東国連合とアンバームズ教会。


「それに奴らの言う神とやらは、世界に人族が満ちる時に天から降りてくる。という話だ」


「やけに詳しいけど、知り合いでもいるのか?」


「それも先達に聞いた話だから、どこまでが真実か定かではないがな」


 ライアンの言う先達というのは、ライアンより先に帝国に存在していたベスタのことだろう。要するに、先輩魔人ということだ。


「話を戻すぞ。奴らがなぜ俺たちを差別するか、なんだが。

 齢二百歳を超えたエルフやドワーフ、それらの近似種は呼吸を司る器官に魔石が見付かる。個体差はあれど、二百歳でも小指の爪の先程度の大きさになる」


「魔石を持つのは魔物だけ、じゃないのか?」


「お前ならそう考えると思って話すのを控えていた。

 母に教わった話では、生物の全てには魔石が宿る資質があるという。人族は寿命が短く、魔石が肥大化しないために目に付かないだけらしい。逆にエルフやドワーフなどは寿命が人族の数十倍にもなる訳だから、魔石が大きく目に付き易くなる」


「じゃあ何か、東国連合やアンバームズ教会は、エルフやドワーフを魔物と同一視していると?」


「そういうことだ。兄さんの話では、過去の戦争で屠られた兵士の胸から魔石が発見されたことに起因しているらしい。しかし、この話はこれで終わりではない。

 俺は魔人としては幼く、呼吸を司る器官に魔石は存在しないと考えられる。だが、魔石は間違いなく、体のどこかに存在するはずだ」


 俺には魔石を持つのは魔物だけ、という固定概念があったことは否めない。漢字で書くと魔物の魔と、魔石の魔が共通していて分かり易かったからな。

 だから、ライアンが俺に真実を伝えることを躊躇った理由はわからなくもない。

 ただ、それは別として、だ。

 ライアンが最後に話した内容には矛盾がある。ライアンが魔人としては若輩で魔石が存在しないというのは頷ける話なのだが……、それ以外にも体のどこかに魔石の存在を認めている節があるのが疑問だ。


「いいか、覚悟して聞けよ?

 ユニークスキル持ちは総じて体のどこかに小石大の魔石が存在する。これに関しちゃ、兄さんもお前も例外ではない。当然、俺もだ」


「……俺にも魔石が」


「アンバームズ教会から分割され、ヘルド王国の国教となったバームズ教。その教義ではユニークスキル持ちを悪魔と呼称する。兄さんに事情は聞いている」


 そうだ。ステータスプレートが黒く変色したことで、ユニークスキルを所持していることが判明して悪魔呼ばわりされた。その後、処刑される前に師匠と共にヘルド王国から逃亡した。

 そうか、魔石。それが原因だったのか。


「でも待てよ。エルフやドワーフが魔石を持つことで魔物扱いされるなら、人族でもユニークスキル由来で魔石を持つ者は、東国連合やアンバームズ教会での扱いはどうなる?」


「そこが面白いところだ。

 今も東国連合は群雄割拠の紛争地域であるという話だが、戦力となるユニークスキル持ちは排除するには惜しい。または、アンバームズ教会を討とうとした勢力にユニークスキル持ちが存在した可能性もある。だからこそアンバームズ教会は、ユニークスキルだけは許容しなければならなかった、のかもしれん。

 過去にアンバームズ教会から乖離し、帝国やヘルド王国へと逃れたバームズ教は、他種族もユニークスキルも双方を差別する主義を通している。そういう仮説が成り立つのは当然のことだろう?」


 ライアンの仮説は恐らく的を射ているのだろう。

 戦争に勝つためにユニークスキル持ちの存在を許容したとは、アンバームズ教会は都合が良過ぎるだろ! そのくせ、エルフやドワーフを魔物扱いしたままとは尻の穴の小さい連中だ。


「補足するが、首を切り落とした罪人の胴は魔術の炎で焼く。帝国だけでなく、オニング公国でもウルグステン王国でも同様だ。理由は、魔術の炎で焼かれた死体からは魔石も一緒に燃えて無くなるからな。

 因みに公式にはされていないが姉さんから聞いた話では、オニング公国の王族には東国連合との国境線を死守し続けているウルグステン王国のドワーフの血が混じっているらしい。だからか、オニング公国でも死体は魔術の炎で燃やし、灰にしてから墓に入れることが決まりになっている」


「土葬でない理由はそういうことだったんだな。それにしても、ミラさんの殴る蹴るという行為はドワーフの血に由来するのか?」


「どうだろうな? 姉さんの曾祖母がドワーフの姫だったと聞くが、そこまでの影響はないだろうよ。それに幼少時のミラは深窓の令嬢といった風な生粋の箱入り娘で、暴力とは無縁だった記憶がある。妙な成長をしたのは兄さんの責任だろ」


 ライアンの話をここまで聞いても、俺にはショックのようなものは無い。

 相棒を単なるユニークスキルではなく、パートナーだと考えれば存在の核となる魔石が俺の体内に存在することは特に問題とは思えなかったのだ。

 そして、ミラさんが暴力的な理由はどうやら師匠にあるらしかった。

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