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第二百二十九話

 ライアンの新薬は一言で言い表すと、酷い。

 本当に酷いとしか言いようが無かった。

 でも、そうでないとライアンが記憶を覗き込むことにリスクを負うことになる。だから、仕方がないことと割り切るしかない。


「ライアン。それは禁制の薬物ではないのか?」


「元々俺が使っていた蟲や小動物にのみ効果のあった薬だ。それを改良しただけだから、禁制の薬とは配合も何もかもが異なる。確かに効能はよく似ているが、常習性もないはずだ。それに俺にしか調合できないからな」


 レウ・レルさんが疑うのも当然だ。

 灰皿のような香炉で焚かれたライアンの薬は、野盗たちの意識を奪い去った。その様は、正に生ける屍と呼ぶに相応しい。


「これなら養蜂とやらにも活用できそうだな!」


「これでは強力すぎるのではありませんか?」


「俺の奥の手のひとつだからな。乱用するつもりはないぞ」


 乱用するつもりが無くとも、これだけの効力を発揮しているとなれば、問題となりそうなのだが……。

 キア・マスの心配はライアンに向けられたものであるのに、ライアンは聞く耳を持ってはいなかった。


「団長さんたちと婚約者殿は距離を置いた方がいいな。煙が流れてきている。

 ここからの護衛は魔王に任せるさ。なんでか、俺とこいつには効かないからな」


「ライアン様、くれぐれもご注意くださいね」


「では勇者殿、あとを頼みます」


 ライアンの新薬はライアン本人と俺には全く効果が無かった。

 ライアンは魔人で、俺は地球人だから、なのか?

 ただ、仮に俺の意識が奪われても相棒までどうにかなるとは一切考えれない。相棒は俺が眠っていても、俺を守り続けることができるのだ。

 そこには大きな信頼関係が成り立っている。


「まずは、ウィヴと言ったか? こいつの記憶を見せてもらおう」


「気を付けろよ」


「大丈夫だ。こいつらには今、意識が無いから抵抗されることもない」


 そう言うとライアンは投降の意思を示した男、ウィヴの膝裏を蹴って強引に座らせた。そのくらい言ってくれれば、俺か相棒がやるのに。

 その後、正面に回り込むと頭を掴んでウィヴの眼を覗き込んだ。


 五分程経ち、ライアンがウィヴから視線を外した。


「……クソ野郎が! 小さな村ひとつ、賊共に蹂躙されていた。生き残りはこいつとあの男だけ。女も戦える者は殺され、子供が捕まっていた。証言通りだ」


「人相とか、わからないのか?」


「ん、ああ、人族だな。あそこで伸びている奴とよく似た人族の男がリーダーであるらしい」


 ライアンが記憶を見たことで、ウィヴは本当に子供を人質に取られ、盗賊家業を強要されていた事実が判明した。

 伸びている男とは、相棒が剣の腹で頭を殴った指揮官の男。奴によく似た人族となると兄弟か、或いは親族が関係しているのだろう。


「左から二番目の男をこっちに持って来てくれ。もう一人の生き残りだ。記憶の整合性と、情報の強化を図りたい」


「相棒、左から二番目。そいつだ、こっちに連れてきてくれ」


「すまねえな」


 ライアンの眼は白目が黒に、瞳が金色に輝いたまま。だが、黒い部分に充血が見られる。

 相手の意識が無くとも、全くの消耗無しで使えるものでもないらしい。

 だからと言っては何だが、ライアンを出来る限り補佐してやりたい。奥から野盗を引っ張り出す役目は、相棒が適任だけどな。

 連れてきた男を座らせてライアンの目線に合わせることくらいは、俺でも出来る。


「どうやら賊は、幼い子供のみを選んで連れ去ったようだ。クソ野郎が!

 それと子供を連れ去った賊は、ファルコンスケイルに乗った連中だ。奴らはあの晩にほぼ壊滅しているが、一部は逃走していたはずだ。どうにか、その後の足取りを追えないものか……」


 村の子供を連れ去った賊は、俺の意思で相棒が『びぃむ』で薙ぎ払った連中とのこと。確かに一部の野盗は『びぃむ』の効果範囲から逃れ、逃げ出したのをリスラが見ていたと思う。

 騎乗馬にしているファルコンスケイルは目立つ。軍がホバースケイルを騎乗馬にしているのと同様に。どこぞの街に出入りしていれば、目撃者が居ても不思議ではないだろう。


「ファルコンスケイルを追えば?」


「乗用に馴致されたファルコンスケイルは貴重だから、乗り捨てるとは考えにくい。だが、街に出入りする際に隠しているか、隠れ家でもあればどうにもならない。

 いずれにしろ、捜索は騎士団に委ねるしかない。騎士団がどう判断するか。そのための情報は俺が搔き集めるとしよう。クソ野郎は最後でいい。それ以外を並べておいてくれ」


「わかった。相棒、頼む」


 ライアンは無理を押してでも今日中に野盗たちの記憶を漁るつもりらしい。ならば、俺が出来ることはライアンの作業を滞りなく完遂させることだ。

 いいや、俺と相棒で、だな。

 

「ライアンの邪魔にならないように、こちらに並べていこう」


「ニィ!」


 ライアンが記憶を見終えた者は牢の奥へと戻す。まだ見ていない者と区別するため、混ざらないように気を付けながら。

 ウィヴともう一人の生き残りの男は、鉄格子を背にするように座らせておいた。


「この女はクソ野郎の仲間だ。奥に転がしておけ」


「エルフなのに、か?」


「エルフだろうが馬鹿はどこにでもいる。ドワーフは馬鹿をやらかす奴は少ないがな」


 そういうものか。

 キア・マスよりも背の高い長髪の女エルフ。耳の形からエルフであることは、俺でもわかる。


「クソ! クソ野郎の仲間、多いな!」


「ライアン、少し休め。目が真っ赤だぞ」


「明日一日寝れば治る! 嫌なことは今日中に済ませたいんだ」


「わかったよ。並べておくから早く済ませよう」

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