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第二十二話

 北門の門番の待機する場所の更に内側にとても豪華で立派な馬車が控えている。

 馬、馬なのか、アレ? それが4頭いて、引いている馬車の装飾がまた凄い。キラキラしてる。


「軍用に調教されたホバースケイルですか、高速馬車ですよ。あれ」


「えっ、ホバースケイルってあんなでしたっけ? 前に討伐した奴と色も形も違いますよ?」


「軍馬の代わりですからね。野生とは異なり、家畜のように品種が存在するのでしょう」

 

「父上もカットスもそんな細かいことどうでもいいのよ。使者を待たせているのだから、急ぎなさいよ!」


 ミラさんの言うことは尤もだな。逆らうのも恐ろしいので、言う通りにしたい。


「私はこの度の道中における護衛と案内を役目を仰せつかりました、イスパン=マイヤと申します。帝都までの道行き数日の間ですが、よろしくお願いいたします」


「安心しました。マイヤ少佐殿、よろしくお願いします」


「形式ばった挨拶はここまでにして、堅苦しい言葉遣いは終わりにしませんか、ライス殿」


 何だろう、この馴れ合いは? 良いんだよ、姿勢を正さないといけないこともなく、楽だから。でも、また初っ端なんだぜ。


「こちらがお嬢様と噂の魔王様ですな」


「ええ、娘のミラと冒険者のカットスさんです」


「ミラと申します。道中、よろしくお願いします」


「ええと、ヤマダ=カツトシです。『魔王』は愛称みたいなものなので、気にしないでください」


「うーん、普通の青年にしか見えませんね」


「よく言われ……ませんね」


「ふふ、面白い青年のようですな」


 マイヤさんという軍人ぽい制服を着た中年の男性。師匠、ライスさんと同年代だろうと思われる。

 しっかしミラさんがやたらと大人しい。猫被りすぎだと思うな、ボロが出なければ良いけど。


「荷物が見当たりませんが? これだけで本当によろしいので?」


「ええ、彼に預けておりますので問題はありません」


「そうですか、では、出発致しましょう。

 護衛には我が隊から4名が付いておりますので、安心して道中お過ごしください」


 国境を越えた幌馬車と違い、しっかりとした屋根もある馬車は外から観た感じよりも広々とした内装だった。師匠は高速馬車だとか言っていたが、それはどんなものなのだろうか?

 ミラさんは先に乗り込んだマイヤさんに手を引かれることで馬車に引き挙げられた。おぅ、紳士的な振舞いだぜ。まあ、俺は最後に乗り込むんだけどな。


 馬車は走り出すが、ほぼ揺れがない。土の道には小石が転がっていたり、他の馬車の轍があったりと平坦ではない。酷いものだとなんでこんな穴が? というものまで存在するというのに一切とは言わないがほとんど揺れを感じない。

 しかも速い。ただ単純に速い! 両脇にある窓の景色が物凄い速さで切り替わっていく。

 やるじゃないか、ホバースケイル。嘗ては相棒のオヤツだったとは思えない。


 馬車に乗り込まなかった護衛の4名は、馬車の前後を2名ずつで左右に分かれるように、ホバースケイルに騎乗していた。普通の乗馬のように鞍を乗せ、手綱を引いている。その他にも装備はあるようだが、俺に詳しいことはわからない。日本に居たころから興味のない分野なのだ。

 しかし、こうして観るとだな。移動用に俺もこの調教されたホバースケイルが欲しくなる。欲しいからといい、乗りこなせるとは限らないのだが……。


 車内では師匠とマイヤさんが会話しており、聞こえてくる内容は今後の予定みたいだ。


「随分と大人しいですね、ミラさん。見違えましたよ。……痛ッ」


「この馬車凄いわね。空間拡張が施されているわ」


「なんです、それ?」


「だから、外見よりもずっと広いでしょ、中が! 魔法や魔具で広げているのよ」


「へえ~」


「カットス、あなた、父上に魔法を教わったのでしょう?」


「教わりはしましたけど、こんな高度なことは知りませんよ」


 ミラさんは冒険者でもないし、魔法も使えない。基礎理論は師匠に幼いころから習っているそうなのだが、魔法を用いる才能が欠如しているらしい。でも学習だけはしっかりとしているので、知識だけはあるから偉そうなのだ。

 この場合何よりも、空間魔法の理論は俺の脳みそには難しすぎた。元素魔法と呼ばれる物理法則に似た魔法の理論を全て修め、更に3段階以上の魔法展開能力が求められる。それを可能とすることで漸く空間魔法の理論は構築できるらしい。

 そんなものは高校一年6月中退の俺には無理以前の問題だし、それに一年近くも魔物と戯れる生活が経過し忘れかけているわけで。ミラさんにスパルタで叩きこまれた文字の読み書きと、師匠に教わった初級魔法理論で既にパンク寸前なのだ。

 以上のことを踏まえると、相棒の『収納』はとんでもない能力だということになる。


「あんな難しいの、良く理解できますね?」


「何言ってるのよ。私だって知らないわよ、詳しいことは何も。

 この魔法ならこんなことが出来るよ、程度のことしか知らないわ」


「はあ? 今までそんなこと一言も」


「あんたと同じで初級の内容はちゃんと習ってるわよ。でも、才能がないんだもん」


「あ、はい。ごめんなさい」


 出来ないことを覚えるのは辛いよな。俺は魔法理論の構築から展開までを実際に試しながらだったから、楽しみもあったわけだし。理論だけを延々と学ぶだけなら、途中で投げ出していたかもしれない。

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