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第二百二十八話

 旧都市国家テスモーラに到着して早々。

 俺、ライアン、キア・マスはレウ・レルさんに誘われ、都市の中心にある城塞を訪れていた。

 その城塞の地下に着くとレウ・レルさんは、今の今まで閉ざしていた口をようやく開いた。


「見ての通り、地下牢です。勇者殿が確保されている盗賊は、一時的にですがここに収監します」


 生きたまま『収納』されている野盗を放出するには、最適な場所だった。

 外で放出すれば、ベルホルムス村の村民のように、俺を白い目で見る者が現れかねないからな。実際にガフィさんをも『収納』した経験があり、他人の目が気になってしようがない。

 レウ・レルさんは俺の意図を汲んだというよりも、四十余名もの野盗を捕縛する手間を省いたに過ぎないのだろう。


「俺は必要なのか?」


「ライアン。君には尋問の手伝いを頼みたい」


「陛下の側近ともなれば、俺のことも知悉しているというわけか……。わかった、協力する」


「では、わたくしはお二人の護衛ということで」


 ライアンの弟子であるイレーヌさんに嫉妬の炎を燃やすキア・マスは、半ば強引に付いてきたに過ぎない。レウ・レルさんが同行を望んだのは、俺とライアンだけなのだ。


「まずはこちらの房に。……入りきりますかね?」


 俺たちが降りてきた城塞内部の階段や入り口は人間サイズなのだが、通路の先には大きな扉の裏口が存在している。

 この牢屋は裏口から近く、かなり広い。そして鉄格子がやたらと太い。

 まるで中型の魔物でも収監するために造られているような感じだ。


「二十畳くらいありますし、余裕でしょう」


「ニジウジョー?」


 ポンコツ汎用スキル『通訳』は今回も仕事をさぼったようだ。こちらには畳は存在しないから、妥当ではあるけれども。


「房の鍵を開けろ」


「ああ、鍵は開けなくても結構です。相棒、中に野盗を放り出してくれ。あと、投降しようとした人は近くに出してね」


 相棒の左触手からは、牢の奥側に先日も放出した指揮官と弓隊が全裸姿で放り出された。右触手からは、投降しようと寝転がった下着姿の男性が鉄格子の間際に降ろされた。

 相棒にしては珍しく、俺以外の他人にも優しい扱いである。


「――ここは? えっ、牢屋?」


「――なんで裸!?」


「――ば、ば、ば、化け物!」


 奥に放り出された野盗たちは我を取り戻す。絶望的な戦場とは打って変わり、牢屋へと収監されているのだから、驚きも一入だろう。

 裸に引ん剝かれているのは相棒の趣味なので俺に責任は無い。女性も素っ裸であるためか、キア・マスの視線が突き刺さるけど、気にしたら負けだ。

 いや、キア・マスが気にしているのはライアンの視線が彷徨っているからだ。俺には一切疚しいところはない。


「彼は?」


「当時は面倒で一緒に『収納』してしまったんですけど、唯一投降の意思を示した人ですね」


 人っていうかエルフなんだけど。エルフもドワーフも、それぞれの混血も、人の形をしているから人扱いで問題ない。

 そう定義しておかないと、俺が日常生活で困るのだ。


「そうですか。手配書と照合し、軽い罪であれば監視付きでの解放と致します。

 おい、聞こえているな?」


「手前だけ助かろうなんて思ってないだろうな! ウィヴ、ガキの命が惜しくねえのか!」


「相棒、アイツを黙らせて」


「ニィ!」


 野盗の指揮官だ。その聞き捨てならない叫び声は、俺たちの耳にも当然のように届いていた。

 相棒の左触手はロワン爺さんの剣の腹で指揮官の頭を殴打。指揮官は昏倒した。

 勿論、手加減はされている。そうでないと指揮官の頭は今頃潰れていてもおかしくない。


「うちの村の生き残りはオイラとあそこに居るアイツだけ。子供を人質に取られ、この強盗団で働くことを強要されていました。他の連中も半分は似たような境遇です」


 俺が、俺の意思で、相棒の『びぃむ』で消し飛ばした中にも同様の境遇を持つ者たちが存在していた可能性がある。そう思うと、やるせないという感情と共に、慣れてきていた吐き気に襲われた。

 喉をせり上がってくる朝食を強引に飲み下す。胃液のなんとも言えない酸味が口の中に残る。


「お前の選択は何も間違っていない。間違っているのは賊の方だ」


「そうですよ、勇者様。だからこそ、開拓団とミラ様を守れたのですよ」


「ニィィ?」


「大丈夫、大丈夫だ。相棒にまで心配を掛けられない、な」


 わかっている。あの時は、どうしようもなかったのだ。

 だからといって、そう簡単に割り切れるものでもない。彼らには罪があっても、それが強要されたものであるのだから。


「ライアン。数が多いが頼めるか?」


「ああ、新薬を試すにはちょうどいい機会だ」


「ライアン様?」


 ライアンはニヤリと笑った。悪巧みを思い付いた師匠によく似た笑い方だ。

 その笑みを見て、少し毒気を抜かれた気がした。

 後悔しても、もう遅いのだ。

 これからも似たようなことが起きる可能性は十分にある。師匠が警鐘を鳴らす、相棒の魔術のこともあるからな。

 今度は後悔しないよう、覚悟を決めよう。


「今代勇者様の恩赦である! 手配書と照合後、重罪犯でない限りは貴様の罪は問われない。勇者様に感謝を! 今後の聴取に協力せよ」


「ありがとうございます。それで……子供はどうなりますか?」


「各都市の駐屯騎士団に伝達、捜索するつもりだ」


 その後、男は何も言わず、頭を下げ続けた。


 手配書の内容次第では、この男も戦場やイラウでのように処刑されてしまうだろう。強要された罪であっても、犯した罪の対価を命で支払わされるのだ。

 最近はこちらの世界の在り様に馴染んできているつもりであったが、まだまだ俺は日本人であるようだった。

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