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第二百二十七話

 ベルホルムス村を発ったのは昼過ぎ。ワイバーンの巣を潰した翌日の、である。

 俺が随分とお世話になった村長へのお礼と、討伐隊に参加した自警団への対価として中型のワイバーンを二頭を進呈。指揮を無視し暴走した自警団員が討ち取った幼生は全て置いてきた。

 さすがに村の代表たる村長は表面上取り繕ってはいたものの、村人らの俺や相棒を見やる瞳には畏怖の感情が表れていた。また、俺が一歩進めば彼らが二歩退くというように、態度もまた露骨なものだった。


 俺を畏怖する村人の態度に憤慨したのは開拓団員たち。

 師匠とダリ・ウルマム卿がワイバーンの巣から戻る間に話していた事柄。それが悪い意味で顕在化したとも言える。

 だからこそ、ベルホルムス村に留まり続けるのは危険と判断された。


「あの村はワイバーンに怯えたまま滅べば良かったのですわ」


「彼らにも感謝する気持ちはあろう。されど、勇者殿の武力は強大に過ぎた。恐怖の感情が感謝の念を覆い尽くしたとしても仕方ない」


「うむ。儂らはカツトシ殿の人となりを十分把握しておるがな。村の者たちとの付き合いは極端に短い。そこまでの信頼関係を築けてはおらぬのだ」


 旧都市国家テスモーラへと向かう道中にある開拓団。

 先頭から白銀騎士団の馬車とキャラバン、戦車に流用されることのなかった人員輸送用の馬車、資材を積み込んだ鉄製馬車、家畜を運ぶ荷馬車に続き、戦車隊が殿を務める。

 急ぎ村を発つため、戦車の取引は中止された。故に馬車の総数はやや少なくなっている。人員も残りの馬車や戦車に分散して乗り込んでいる状態だ。


「それに何ですか、あの娘は? わたくしが留守にしている間に、ライアン様に近付くなど言語道断です!」


「アランの妹だろ?」


「勇者様、そういう意味ではないのです!」


 俺の戦車にはリスラ、キア・マス、アグニの爺さん、ミモザさんが乗っている。並走する戦車にはダリ・ウルマム卿、ライアン、イレーヌさんの姿があった。

 ミラさんと子供たちは、安全確保のために中列に配置された馬車の中にいる。


「これが噂に聞く修羅場というやつですね」


「正妃ミラ様が寛大であったからこそ、今の姫様の立場があるのですよ? 他人事ではないのです」


「お姉ちゃんのようにキア・マスも寛大に振舞えばどうなのです?」


「ライアン様はわたくしだけの旦那様ですわ。ミラ様のような奇特な対応はできかねます」


 確かにリスラが登場した時点でのミラさんの対応は不可解だ。まあ、そのお陰で今があるのだが……。


「もう、キア・マスは向こうの戦車に移れよ。ただでさえ狭いのに、うるさい」


「そうです! キア・マスはライアン様奪還に向かいなさい」


「私も殿下に賛成です。キア・マスさんが退けば、私が座席に移動できますし」


「何を言うか、ミモザ。年寄りの儂こそ座席に相応しかろう?」


「馬と並走するお爺ちゃんが年寄り? 笑わせないでください。荷台では私のお尻が痛いんですぅ!」


 俺の右に座るキア・マスと荷台の二人がギャーギャーと非常にうるさい。

 普段とは逆に、リスラがキア・マスを揶揄うという珍しい光景も観れるが、それはそれだ。


「相棒、キア・マスをライアンの後ろに! ミモザさんをアランの横に!」


「ニィ!」


「触手様、お待ちください」


「ああ、私の席が!」


 ダリ・ウルマム卿の戦車の荷台にキア・マスを、少し前を走る師匠の戦車の空いている座席スペースにミモザさんを、それぞれ相棒に置いてもらった。


「爺さん、席が空いたぞ」


「おぉ、すまぬの」


「アグニ様、ゆっくりですよ。お肉が驚きます」


 アグニの爺さんは見た目は魔術師っぽい白髪と白髭の爺さんなんだが、ドワーフの血が混じっていることもあって筋肉がぎっしりと詰まっている。だから、見た目よりも遥かに体重が重いのだ。


「尻の肉が捥げるかと思うたわい」


「移動は馬車が主流だし、穴あきクッションでも作るかな。ぼろ儲け出来そうな気がする」


「アタシ、お裁縫はそこそこ出来ますよ?」


 決して得意と言わないところが実にリスラらしい。そして『そこそこ』という自己評価がどの程度であるのか曖昧に過ぎる。

 でも、布をドーナツ状に切って、綿を詰めて縫うだけ。しかも布と羊毛なら、この座席を作った時の余りがある。ライアンに貰った黒いあんちくしょう接着剤を使えば、針や糸も必要ない。

 それならリスラでも大丈夫そう、ではある。


 相棒に指示してドーナツ状に布を裁断してもらい、羊毛を詰め込んで接着してみた。乾くまでは荷台に干しておく。


 工作をしている途中に中型の魔物が馬車の横合いから襲ってきたが、シギュルーに掴まれてどこかに運ばれた。きっと、シギュルーのご飯になっていることだろう。


「あのアランという苦労性の小僧。ミモザの婿にどうかのぅ?」


「まあ! それは素晴らしい縁談ですわね」


「そういうのは本人たちの意思に任せようよ」


 二個目の穴あきクッションを荷台に置いたところで、そんな会話が。

 ミモザさんはアグニの爺さんの孫だけど、両親はほとんど人族と変わらないそうだ。アグニの爺さんの両親はエルフと人族の混血とドワーフと人族の混血だけど、一番濃い血は人族のものであるという。だから、寿命的には問題にならないらしい。

 そしてアグニの爺さんは貴族ではない。非常に珍しい血統であるということから、大衆演劇の演目などになっているだけ。その内容も脚色が多く、真実ばかりではないという話だった。

 そのような理由から自由恋愛からの婚姻が可能である。俺やミラさんとリスラの事情とは大きく異なり、ライアンとキア・マスの事情ともまた違う。

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