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第二百二十六話

 ワイバーンの巣であった場所は真紅の炎に覆われている。

 防壁を内側に崩し、燃えそうな瓦礫はすり鉢状の中に投入された。

 開拓団、自警団を問わず討伐隊に参加した者たちが巣から離脱した上で、師匠が火を放ったのだ。

 鎮火し、焼け野原となった後は、徐々に草原へと戻っていくのだろうか。


「我らが勝利! 凱旋せよ!」


 ダリ・ウルマム卿の宣言に、討伐隊のほぼ全員が勝鬨を挙がり、各戦車は駆け出す。但し、指揮を無視した自警団の一部は沈鬱な表情のままに。

 また、村へと向けて移動を始めたのは俺たちも同様である。


「ワイバーンの駆逐は無事に終わりました。開拓団は村を発つ準備を明日から始めます。カットス君にも色々と働いてもらいますよ」


「ライス殿、開拓団は一度テスモーラへと引き返した方が良かろう。村との間に溝が埋まれつつある」


 村の自警団員は俺たちを避けるようになった。完全に恐れられているのだと分かる。

 そして、それは俺だけでなく、ライアンやシギュルー、アグニの爺さん、師匠もまた同様だろう。


「本当に失礼な輩ですわ」


「大半はそうではない。しかし一部が表面化してしまった以上、互いのためにも長居は避けるべきであろう」


「ええ。僕もウルマム殿に同意しますよ」


 キア・マスは怒りを露わにする。そのキア・マスを宥めすかしながら、現状を正しく分析するのはダリ・ウルマム卿だ。

 師匠もダリ・ウルマム卿の意見に賛同を示す。ミラさんには師匠から伝えられるのだろう。


「どうせ、馬車を購入するのはテスモーラになるんだろ? なら気にする必要なんてないさ」


「カットス君が所持しているワイバーンの死体を数匹、自警団への報酬として引き渡しましょう。信賞必罰は村長にお任せしましょうか」


「うむ。それが最も角の立たぬ方法であろう」


 最初からベルホルムス村と開拓団では完全に別組織。お互いのために、余計な口は挟まないに限る。

 高級貴族であるダリ・ウルマム卿は、それなりの権限を有していると思う。でも、本人が望んでいないからな。


「ムリア騎士と白銀騎士団。イラウからのキャラバンも一緒に移動しましょう。カットス君が確保している野盗の一部も騎士団に預けてしまえば、身軽になりますからね」


「ライス殿、それはどういうことか?」


「あ~、なるほど、そういうことですか。ガフィさんが一晩失踪した件は、カツトシ様が絡んでいたのですね。ライアン様も高空からの落下時、カツトシ様に収納されたのですよ?」


 相変わらず、妙なところで鋭い感覚を発揮するリスラ。これは完全にバレているな。

 だが、あの一件は俺だけの犯行ではない。ガヌも一枚噛んでいるのだ。巻き込むのは可哀そうだ。知らないふりをしよう。


「これは失言。僕とミラしか知らない事実でしたね。

 相棒さんの能力が回復した折に、荷物と共に出てきたのですよ。カットス君に伺ったところ、あの晩に丸ごと呑み込んだままだったと……」


「四十人くらい生きたまま『収納』してある。内一人は投降の意思を示したんだけど、当時は面倒だったので一緒に『収納』しちゃいました」


「勇者殿。賊は今もまだ生きている、と?」


 俺が師匠を見ると師匠は目を伏せたまま、一度だけ首を振った。

 これは以前に一度だけ聞いた時空間魔術の話を漏らしてはいけない、という意味だろう。近しい間柄であっても、あの情報は命取りになりかねない重大な事実と師匠は認識していた。

 俺はその辺無知ではあるが、師匠の判断を覆すだけの理由もない。ここは師匠の判断に従い、無難に切り返そう。


「はい。生きていると思います」


「俺も、そうやって助けられたのか……」


「凄い勢いで落ちてきたから、普通に受け止めても大怪我をしていただろうし、思いつく方法がそれしかなかったんだ」


「ライアン様の場合は致し方なかったのです!」


「助けてもらったことに文句を言いたいわけじゃねえんだ。ちょっと複雑な心境なだけだ。すまん」


「ライアン様、羨ましいですわ! 触手様の中にお入りになるなど」


 久々に変態性を発揮しているキア・マスのお陰で、話が逸れてくれた。ダリ・ウルマム卿も額を抑え、頭が痛そうだしね。

 師匠も極小さな動作ながらも、ひとつ満足そうに頷いた。

 

「歓声が聞こえますな」


「明日には移動と慌ただしくなりますが、今日は素直に勝利を祝いましょう」


「シギュルー、ラビを連れていけ。これ以上は近付けないだろ?」


「クルゥ」


 シギュルーはラビ二匹を背に乗せて飛び立った。スモールラビはライアンよりも軽いから、最初から背に乗せておけるらしい。


「特技兵の腕章は、新たにどこかで調達せねばなるまい」


「将軍、あの布切れでも十分に野生のものでないと判別できますよ」


「スモールラビは街道を往く者たちには、かなり嫌われておるからな。勇者殿はどう思われますかな?」


「まあ確かに、面倒な相手ではありますね。縄張り意識が強いのか、頻繁に襲われます。その上、肉は吐くほど不味いですから……」


「守護の森にスモールラビは少なく、そういやな思いはないのです。実際にあの仔たちは可愛いですからね」


「親父殿、腕章は多めに確保しておいてくれよ。養蜂というやつを試したいからな!」


 ライアンはしっかりと覚えていた。スカイダイビング直後の記憶障害から、完全に回復したようだ。


「カツトシ様の仰った養蜂にはアタシも興味があります!」


「ライアンの蟲薬魔術ですね。改良は進んでいるのですか?」


「開拓予定地に着くまでには完成させたい」


 ライアンの蟲薬魔術は、概略だけでもヤバい魔術だ。何せ、対象を洗脳する魔術だからな!

 試すには魔術の改良が待たれる。その前に、ベルホルムス村へと帰還するのが先だけどな。

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