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第二百二十一話

「低空に留まっていたワイバーンの半数以上が消し飛びました! 残る半数も身体の一部を失い、墜落しています!」


 リスラからの歓喜に満ちた報告がなされる。

 それは相棒の放った『びぃむI』が、低空で戦車へ強襲を繰り返していたワイバーンの集団へ甚大な被害を撒き散らしたことの報告である。

 その甚大な被害を齎した側である相棒はというと、今もリスラの指示に従い『びぃむI』の被害から逃れたワイバーンを各個撃破し続けている。


 まず、俺にとっての予想外は相棒の『びぃむI』が明らかに太くなっていたことが挙げられる。以前の『びぃむI』の直径はバスケットボールサイズであったと記憶しているのだが、今やそのサイズは酒樽の最も太い部分に相当する。

 相棒は極狭い範囲に円を描くように『びぃむI』を発射した。俺が上体を反らし、少し角度を変えて眺めてみると、『びぃむI』は綺麗な螺旋を描くようにワイバーンたちに向け伸びていった。


 集団となっていたワイバーンたちの死角となる後方より襲い掛かる『びぃむ』ではあったが、当然懸念されるべき事柄は存在した。

 その最もたる部分は、『びぃむ』の弾速がそれほど速くないということ。近頃、めっきり動体視力が向上した俺の眼で見ても、その速度は十分に遅い。

 ましてワイバーンは眼が非常に良い。相棒が放つ手投げロケット弾を数発、紙一重で躱しているほどなのだ。


 ただ、その眼の良さは『びぃむ』に限っては災いした。いや、今も災いし続けていると言ってもいい。


 手投げロケット弾であれば、穂先の着火石さえ避けてしまえば爆発に巻き込まれることはない。だが『びぃむ』は、それとは大幅に異なる。

 太くなった『びぃむI』は周囲を巻き込む範囲もまた拡大していた。ワイバーンたちは目視できる赤黒い閃光を紙一重で躱すのだが、余波によって巻き込まれ身体の大部分を消失。または一部を消失してはバランスを崩し、地に落ちた。


 ワイバーンの体躯は大きく、そして長い。

 胴体を失い、首と尻尾だけとなるワイバーン。首から上を失い、大きな胴体と長い尻尾を残したまま落下するワイバーン。翼を、尻尾を失い、バランスを崩して落下するワイバーン。

 喪失した部位から撒き散らされる大量の血液もまた地上へと降り注ぐ。

 文字通り、血の雨が降る。地上で戦車を奔らせている皆にはいい迷惑かもしれない。


 そして勇躍しているのは、何もリスラとタッグを組んだ相棒だけではない。

 シギュルーやアグニの爺さんの活躍も目立つ。


 今も相棒が撃ち出している、太さも長さも酒樽ほどの『びぃむ』の弾丸。これも弾速は『びぃむI』と大差ない。

 そして単発であるが故に、やや高い位置を大きく旋回するように飛び回るワイバーンには効果が薄い。至近を掠めさえすれば撃墜できるのは変わらないが、効果は半々というところ。

 但し、『びぃむ』そのものは大気すら消失させているようで、例え当たらなくともワイバーンは若干バランスを崩すことがある。

 その一瞬の隙を逃さず、シギュルーがワイバーンの死角となる背中、翼の辺りを狙い爆撃。かなり近い位置から手投げロケット弾を落としているシギュルーは慣れたものだ。発生する爆風を大きく広げた翼で受け止め、上空へと舞い上がる。そのまま急降下して、手投げロケット弾を補給。新たな獲物の元へと急行している。

 同様に地上から放たれる手投げロケット弾も少数だが確認されている。手投げロケット弾を託されているのは、ライアンとアグニの爺さんのみだ。

 地上からとなると、ライアンでは手投げロケット弾の長さに問題があり、投げることができないと聞く。だから、消去法で地上から手投げロケット弾を放っている人物はアグニの爺さんであると予測できる。


「勇者様は上空の警戒を!」


「あっ、はい」 


「グゥ」


「ブゥ」


 前方はリスラが漏らさず監視していることもあって、こちらに意識を向けたワイバーンは即座に相棒の餌食となっている。

 そうである以上、俺とリスラの護衛を務めるキア・マス。ミートと二匹のスモールラビは暇でしかない。元より、俺と二匹のスモールラビに仕事らしい仕事など、最初から存在しないのだが……。

 俺は手持無沙汰を誤魔化すため、荷台に残していた手投げロケット弾に着火石を取り付けるくらいなもの。何かあれば、キア・マスに投げてもらうために。


「残敵掃討ももうすぐ終了します! ですが、相棒さんが弾切れのようです」


「あと、何頭?」


「二頭ですね」


 俺にも遠目に視えてはいるが、確認は必要だ。

 

「相棒、近くに落ちている死体を回収できないか?」


 相棒の触手の有効射程は三十メートルある。巣の防壁の内側から補充できればと思うのだが――


「ニィィィ」


「そうか、近くには無いか。なら移動だな! ミート、巣の中に戻るぞ。キア・マス、移動するから座れ」


「はい」


 キア・マスなら荷台に立たせたままでも、大丈夫そうな気もするがね。

 俺たちが巣に戻る間に、血の雨には止んでいて欲しいものだ。

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