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第二百二十話

 問題は? 当然ある。

 野盗の襲撃の際とは異なり、相棒には幾つか足りない能力があるからだ。

 中でも枝となる『分岐1』が存在しないため、砲身を補強することが出来ない。前回のように『びぃむI』を二発分束ねて放つことは不可能だろう。


 但し、今回は撃てる本数が多い。そこを工夫するしかない。

 では、具体的にどうれば良いか?

 広角に放てる『びぃむV』は射程距離が短いのが難点。今回もまた『びぃむI』の薙ぎ払いを用いるのを基本としたい。

 ただ、束ねることが出来ない以上、薙ぎ払いのタイミングはより一層シビアとならざるを得ないだろう。

 そして、もうひとつ。


「相棒、『びぃむI』を細かく区切って撃ち出すことは可能なのか?」


「ニィィ?」


「薙ぎ払いを避けるワイバーンを短い『びぃむI』で狙い撃ちに出来れば良いんだが……」


「ニィ! ニッニィ!」


 最初の質問では相棒に上手く伝わらなかったようだが、補足を述べるとようやく理解出来たようである。

 返事の具合からして、恐らく出来るものと俺は判断する。


「ダリ・ウルマム卿、投槍を数本そちらで管理してください。ライアン、シギュルーでも一本なら持てるはず、だよな?」


「ん、ああ。俺たちが襲われた時、シギュルーは投槍を一本持ってきていたからな」


「シギュルーには逃げそうな奴を爆撃してもらいたい。指示はライアンに任せる」


 上手くいけば、上空を旋回しているワイバーンの群れは相棒が一掃できるだろう。でも、その群れから距離を取っている個体までを狙うのはかなり難しい。

 そういった個体は、申し訳ないがシギュルーに担当してもらうしかない。或いは『びぃむ』での掃討が済んでから、逃げた個体を追撃しに向かうしかない。

 ただ、それは現実的ではない。如何に戦車の機動が優れているとはいえ、飛んでいるワイバーンに追いつけるか、疑問でしかないからだ。


「シギュルーが投槍を上手く当てられるか分からないが、やるだけでもやらせてみよう。ピィィィィィ!」


「それでは俺たちは防壁の外側へ――」


「――勇者殿、暫しお待ちを! 殿下のみでは強襲への対策に問題がありましょう。キア、勇者殿をお守りせよ」


「はい、父さま。ライアン様、行って参ります」


 確かに、上空を舞うワイバーンは急降下しては戦車を牽く農耕馬を狙い襲撃を重ねている。巣を囲う防壁を越えて外に出たとしても、狙われないという保証はない。

 そして、リスラは愛用のクロスボウを持ち込んではいても、強襲してくるであろうワイバーンを相手取るには厳しくもあった。

 キア・マスが護衛についてくれるというのは、俺としてもありがたい限りである。


「クルゥ?」


「キア・マス、投槍を移し替えますよ」


「何本か、着火石も取り付けてしまいましょう」


 ライアンの指笛で呼び出されたシギュルーがライアンの元に着地。

 手投げロケット弾の移し替えはリスラとキア・マスに任せ、俺は上空を仰ぐ。

 今はまだ逃げようとする素振りを見せるワイバーンは皆無であるようだ。だが、それも時間の問題であるのだろう。急ぐ必要がありそうだ。


「勇者様、投槍の移し替えは完了ですわ!」


「あなたたちもライアン様の元に」


「「ブゥ!」」


「いや、ラビたちは残りたいそうだ。役に立つかわからないが連れて行ってやってくれ」


 マフラーやスカーフのように首に布を巻きつけたスモールラビの二匹は、リスラの背に纏わりついて離れようとしなかった。

 短時間の内に、リスラに随分と馴染んだようである。俺や相棒には近付こうともしないにのに……。


「勇者殿、ご武運を」


「武運を」


「ミート、先刻壊したばかりの壁を抜けて外に出よう。相棒は『びぃむ』の充填を開始してくれ」


「ニィ!」


 ワイバーンたちが怒りに駆られ、戦車を襲っている今がチャンス。

 襲われている戦車の乗員や馬を助けられる余裕はない。こちらの準備が整うまで、今しばらく囮の役目を担ってもらいたい。


 荷台の手投げロケット弾は残すところ、あと三本。かなり軽くなった戦車を牽くミートの足取りは軽やかだ。

 相棒の両の触手の先端側には魔法円が浮かび、順調に『びぃむ』が充填されていることが、その色から判断できた。



「高い位置のワイバーンはどうするのですか?」


「更に上空を飛ぶシギュルーに任せるしかないな」


 ミートの俊足により、二分と経たずに低い位置を飛ぶワイバーンを一掃できそうな場所を確保できた。薙ぎ払いの角度を広角にせずとも、鋭角に薙ぐだけで十分に作用することのできる位置取りである。

 現在、キア・マスは大型のナイフを両手に持ち、二台の上で迎撃態勢を維持している。幸い、巣から離れた俺たちを気にするワイバーンの個体は存在しないようであるのだが。


「あと少しで『びぃむ』の充填が完了する。リスラは周辺の警戒と、逃げ出す奴がいないか監視してほしい。キア・マスも頼むぞ」


「はい」


「お任せください」


 『びぃむ』の作用する範囲は今までの経験上、俺もある程度は把握している。

 地上を逃げ惑う戦車を巻き込まないよう余裕を持たせ、且つ多くのワイバーンを掃討する必要がある。

 『びぅむI』を細かく区切った狙撃は相棒に一任するが、薙ぎ払いのタイミングは俺が見極めなくてはならない。責任重大だ。

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