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第二百十五話

 昨日の夕方、酒場の主人や主婦たちはミラさんとイレーヌさんが作る料理に群がっていた。即席の料理教室みたいになっていたとも言える。


「魔王の策に嵌められて、俺と姫さんは散々な目に遭った」


「昨夜のお料理のどれもが物足りなかったのですよ!」


 俺自身は満喫できたので、どうということもない。

 リスラに限るならば、ライアンの巻き添えとも言える部分はあるため、少々申し訳ないとも思う。焚きつけたのはライアンな訳だし、そちらを恨んで欲しい。


「クルゥ?」


「「ブゥ」」


 昨夜のことは置こう。

 問題は彼ら、だ。

 ライアンの指笛で呼び出されたシギュルーと二匹のラビ。

 戦車の荷台に乗るスモールラビの二匹は、「ブゥ、ブゥ」と鳴きながらライアンにその身を擦り付けては甘えていた。暫く、それを放置していたシギュルーも、ラビを押しのけてはライアンに甘える様子を見せる。ライアンの眼も黒と金に変わっていた。


 俺は兎が「ブゥ」と鳴くのは知っていた。

 隣家の暴君玲奈ちゃんが飼っていた白黒斑の兎が「ブゥブゥ」と鳴きながら、玲奈ちゃんの足にしがみ付いて腰をカクカクしていたのを見たことがある。ただ、スモールラビは魔物であって、獣の兎とは別物なんだけどな。


「厄介な魔物なはずですのに、こんなにもライアン様に懐くとは不思議ですね」


「薬効が解けて、これなら魔王の言う養蜂とやらにも期待が持てそうだな」


 期待も持つにしても、ワイバーンの巣の駆逐を終えてからとなる。今も、その作戦行動中なのだ。

 身を寄せて甘える二匹のラビ、その首元にライアンが布切れを巻きつけた。ラビの首元を彩るのは赤い布切れ。村で売っていた布切れは赤色しかなく、この戦車のクッションもまた赤色の布で覆われている。

 ベルホルムス村が手に入れられる染料は、テスモーラで作られている赤い染料しかないらしい。村の特産である羊のチーズと近い位置に存在するテスモーラの赤い染料は、その対価とするには比較的安く大量に仕入れられたと聞く。


「これでこいつらも、ただの魔物ではないと見分けがつくだろう」


「クゥ!」


 但し、スモールラビが懐いているのはライアンだけ。リスラにも俺にも近づこうとはしない。いや、リスラにはおっかなびっくり近づこうとする様子が見られるのだが、俺には一切近づこうともしない。

 その理由は恐らく相棒の存在であるのだろう。シギュルーから何かしらの情報提供があったのでは? と考えられる。


「シギュルーとの合流は成った。本体に合流するぞ!」


「アタシは戦車の上空と後方の警戒。変更はないのですね?」


「そうだ。姫さんは戦車の上空と後方を見てくれ。俺はもう少ししたら、シギュルーと一緒に飛び立つ。ラビは婚約者殿に付ける」


「クゥ」


「「ブゥ」」


 二台に乗るシギュルーと二匹のスモールラビはやる気満々であるようだ。その点を言及するならば、相棒もなのだけど。

 前回、俺が怪我したこともあってか、相棒は早くも盾を両の触手に持っているのだ。

 

 手投げロケット弾の分配は、相棒が二十。ライアンとアグニの爺さんはそれぞれが十とした。足りなければ、この戦車の荷台にあるものを使うことになっている。

 尚、相棒が使う分は既に『収納』してある。


「ライアン様が不在となると、御者はどうなるのですか?」


「お肉は賢いから、御者なんて必要ない。前もそうだった」


 俺が負傷し、ライアンが疲弊していた時も、ミートは俺たちが何も言わなくとも村へと駆けた。ライアンはそのことを言っているのだ。


「お肉、お願いしますよ」


 ミートは尻尾でリスラを叩く。


「ミートと呼んであげなよ」


「カツトシ様、だからお肉と呼んでいるではないですか?」


「ごめん、なんでもない」


 これはやはり汎用スキル『通訳』の揺らぎであるのだろう。

 俺がミートと呼べば、尻尾で叩かれることはないのだが、俺以外が「お肉」と呼ぶとミートは嫌がる。汎用スキル『通訳』がどのような仕組みであるのか、俺は知らない。

 だから、どうしようもないんだ。済まないな、ミート。


「ミート、村の右側を通って北東へ向かおう。本隊への合流が先決だ」


「迂回するように頼むぞ。こいつらが嫌がるからな」


 村を取り囲むように群生する薬草は、どうも強力であるらしい。ライアンの切り札たる魔術にも干渉するほどなのだ。

 そして、ワイバーンが今まで一度も村を襲撃したことがないというほどにも。


「ブゥ」


「グゥ」


「ニィ!」


 移動中、相棒が鳴くとラビが黙る。シギュルーが困った顔をしているようにも見えた。シギュルーはもう相棒には従順だからな。


「上空、かなり高い場所に……なんでしょうか、あれ?」


「姫さん。遠距離は俺や魔王には見えないからな!」


「ライアン様は視えるのではないのですか?」


「強引に暗視を利かせられる程度だ。で、どうした?」


 問題はライアンが視える視えないというところではない。上空を監視していたリスラが何かを捉えたという事実であるのだ。


「距離から考えてかなり大型の鳥か、ワイバーンかと思ったのですが……そのまま北へと飛んでいくようです」


「姫さんでも捉えきれない程の高空を飛んでいたんだな?」


「はい、そうですね」


「ワイバーンはそう高い位置は飛べないと聞いたことがある。それこそシギュルーの親戚か、高位の飛竜じゃないのか?」


「かもしれません」


 リスラの視線が向く方向を見ても、俺には何も見えない。

 シギュルーの親戚といえば、ロック鳥であるのだろう。高位の飛竜とやらはわからないが、ライアンの口調からは緊張のようなものは聞き取れず、特に問題はないように感じる。

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