表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/393

第二百十一話

 師匠の下を離れると、以前手投げロケット弾の製作が行われていた場所へ赴いた。

 少し離れた場所で戦車を弄るローゲンさんの姿こそあれど、ロギンさんや手投げロケット弾の製作に携わっていた面々の姿はない。

 最初に行うべきは防具の補修依頼。出来るようなら簡易でも構わないので兜も欲しい。ただ、以前聞いたように、この村には皮をなめすのに必要な施設が存在しない。鍛冶場も生活用品や農具の補修を前提とした弱い火力の炉があるだけ。

 そういった理由で、鎖帷子は修理できないだけでなく、革鎧の補修も出来ない可能性もある。


「ローゲンさん! ロギンさんはどこでしょう?」


「おう、魔王さん。もう具合は良いのカ?」


 この問いは、今日朝から何度目だろう?


「二日後にはワイバーンの巣に向かうと聞きましたからね。寝込んでいる場合じゃないんです」


「そうなのカ? 急がねえと俺も間に合わねえナ! で、ええっと兄貴カ? 兄貴ならあそこだ」


「あそこ?」


 ロギンさんが指し示す先を目で追う。

 村の北東の角、農地の端で作業をする大勢の男たち。丸太を立てて、何かを作っている最中らしい。


「櫓を建てて、その上にバリスタを据えるんダト。ダカラ、兄貴が指揮をとってイル」


「でも、あれって生木じゃないですか?」


 遠目でも丸太には表皮がついたままであることが分かる。しかも、結構太い。

 日本でもってか地球でも生木をそのまま使いはしない。勿論、こちらでもそれは常識だ。あれだけの太さの丸太なら二年以上は乾燥させないと、普通は使わない。

 師匠に聞いた話では魔術で強引に乾燥させる方法もあるらしいのだが、熟練の技を必要とするそうだ。慣れない者がやると、ひん曲がったりして材木としての価値がなくなるとか。


「期間限定の物見台だからナ。乾いて割れたり曲がったりしたら解体して、薪にするとサ」


「それにあんな丸太、どこから持って来たんです? 村人は外に出ていないはずでは?」


「昨日、村に生えていた木を片っ端から切ったンダ。数に限りがあるカラ、北側の角二か所にしか櫓は建てられないだろうゼ」


 ローゲンさんの話を聞きながら、今一度村をぐるりと見渡してみた。疎らに生えていた、そこそこ高かった木が見当たらないことに気付く。低木は残っているようだが、大半が建物の影に隠れてしまい視えない。


「で、兄貴に何か用なのカ?」


「ええ、防具の補修をお願いしようかと」


 戦車の最終調整に勤しむローゲンさんと、櫓組みを指揮しているロギンさん。二人とも忙しそうなので、兜の作成依頼は次回に持ち越すことに決めた。

 仕方なく、ワイバーン戦で破損し血に塗れた革鎧と鎖帷子を相棒に取り出してもらう。

 革鎧は腕鎧も垂も右側の部分には俺の血が付着している。しかも時間が経っていることもあってか、乾燥してガチガチに固まっていた。

 鎖帷子もある意味では同様に血に塗れ、鎖が血で接着されたようになっている。


「こりゃもうダメだナ。魔物も獣も血の匂いに敏感なヤツが相手だと役に立たないばかりカ、邪魔にしかならナイ。鎖はお湯で洗えば、使えるだろうがナ」


 マジか……。革鎧に付着しちゃ血は、教訓というか戒めとして残しておこうかと考えていたのだが甘かったようだ。

 そりゃそうだよな。匂いに敏感なヤツが相手なら居場所がバレてしまうことになるだもの。

 但し、この地竜の皮鎧。支払いは俺の金だがミラさんからのプレゼントのようなものだし、捨てるには忍びない。『収納』しておくことにする。


「魔王さん、親父の作った古い鎧はどうシタ?」


「あるよ。……これ」


 古い鎧というか、前に愛用していた革鎧。無論、ロワン爺さんの店で買ったものだ。


「鱗を剥がしていないワイバーンの皮があるんだガ……、動きを阻害しない程度に貼り付けてみるカ?」


「お任せしますよ。何にせよ、あと二日しかないので。間に合うのなら、何でも構わない。……皮? 相棒、黒いワイバーンの皮はどうした?」


「ニィ!」


 相棒はポイっと、黒いワイバーンの皮を放り出した。

 デカい! 脇腹に縦の切り込みがあり、綺麗に剥がされている皮は大きな一枚もの。それでいて、このワイバーンの皮には何かが足りていない。


「おおぅ、立派ダナ! ん? 翼はどうしタ?」

 

「そうか! 翼か」


 前にも似たような状況があったような……。姿形は異なるのだが、腕だけが切り離されている状態を俺は知っていた。

 そうだ。守護の森の巨猿の腕が、正にこれと同じ状態ではなかっただろうか?


「翼、食ったのか?」


「ニィ!」


 二本の触手が根元から徐々に姿を変えた。ワイバーンに生えていた翼に似ている。

 但し、相棒の触手には関節がないため、似ているようでどこか違う。


「これはまさか! 空を飛べるようになったとか?」


「ニィ!」


 俺の背中側で凄まじい風が巻き起こっている。いや、俺の方にも影響はある。

 現に、俺の正面に位置するローゲンさんの立派な髭が揺れている。


「……ニィィィ?」


 相棒が困惑したような声に替わる。

 いくら動かしても宙に浮くことすらないからだろう。


「鳥みたいに羽ばたくだけじゃないのかもな。そういえばワイバーンって、そんなに激しく羽ばたいてはいなかったような……」


 残念ながら、この翼の扱いを相棒は理解していなかった。勿論それは俺も同様で、アドバイスのしようもない。


「惜しいナ。魔王さんに掴まって、俺も飛んでみたかっタ」


「試行錯誤するつもりですから、いずれ飛べるようになるかもしれませんよ。今はやるべきことを先に済ませてしまいましょう」


「そう、ダナ。魔王さん、革鎧と鎖は置いていけ。暇をみて俺と兄貴で仕上げておくゼ。この皮使うからケド、余ったらちゃんと返すからナ」


「忙しいとこ申し訳ないですが、よろしくお願いします。あぁ、あと投槍はどこにあるか、わかりますか?」


「槍なら魔王さんが寝泊まりしていた小屋の中ダ。箱に収めてあるダロウ」


 懸念事項の補修依頼は引き受けてもらえた。

 あとは、水素の充填を済ますだけだ。問題は、相棒とライアンとアグニの爺さんが槍をどれだけ消費するかなんだが……。巣に存在するワイバーンの頭数が判明しないと、どうしようもないんだよな。

 いや、まずは小屋の中にあるという手投げロケット弾の本数を数えてから考えよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ