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第二百十話

 村長宅を後にした俺とガヌは、放牧場に向かって歩んでいた。

 ここまでガヌには、後方の警戒を重点的に担ってもらった。俺がミモザさんの追跡を恐れたからだが、そんな様子はない。

 だから、今がチャンス!


「ガヌはここに待機。俺はあそこの建物の影に隠れる。触手を最大限に延ばしてからガフィさんを解放する」


「ほんとにやるの?」


「ミモザさんが捜して聞き廻っているし、時期に皆が気付き始める。ミラさんにバレたらきっと怒られる。ガヌも共犯だから一緒にだ。怒られるのと姉ちゃんに撫でられるのと、どちらを選ぶ?」


 俺はミラさんに怒られるのは御免蒙りたい。しかし、ガヌはそれでも決断を渋る。

 尤も、『収納』した際にガフィさんは怒りに震えていたのだが、それは言わぬが花だろう。

 一日の猶予を強引に作り上げただけでも、俺はガヌに対する義理は果たした。それに、元々アランや師匠がガヌを餌にしたのが問題である。

 俺はそこに偶々立ち会ったに過ぎず、責任を負うべきは本来アランであり、師匠であるべきなのだ。


「……わかった」


「逃げるなよ? 逃げるようなら相棒が捕まえるからな」


「大丈夫、ミラ様に怒られるのはボクも嫌だから」


 ガヌは今の俺にとっても大事な人質だ。逃げられると困る。

 ガヌが居てくれないと、解放したガフィさんに追われる羽目になるだろう。

 急げ、急げ、ガヌの気が変わらない内に、建物の影に隠れるのだ!


 人通りのない小道にぽつんと立つ、ガヌ。その脇に相棒のスライム触手の先端があるはずだ。

 俺は民家と思われる建物の影から小道を覗き込んでいる。

 俺の目が良くなったのは事実だが視力が上がったのではなく、動体視力が格段に良くなっただけで、何も遠くが見通せるわけではない。


「相棒、やれ」


「ニィ!」


 ガヌの横を通り過ぎる勢いで白いモノが放出された。ガフィさんだ。

 『収納』した際にガフィさんは突進の勢いのままに呑み込まれた。向きを反転することで、その勢いのままに放出したのだろう。巧いな、相棒。

 一瞬びくっと大きく肩を跳ねさせたガヌも覚悟を決めたのか、ガフィさんに近寄っていった。肩を叩いているように見える。

 しかし、ガフィさんは混乱の最中にいるようで、ガヌに反応を示さない。


「上手くいった。今の内に逃げよう!」


「ニィィィ?」


「ガフィさんは耳も良いからな。俺の逃げる足音を捉えられては堪らない」


 勿論ガヌも同様であるのだが、ガヌは一応俺の味方であるのだ。それにガフィさんが正気を取り戻せたとしても、側にはガヌが居る。ガヌを放置して、俺を追い掛けるとは考えにくい。

 我ながら汚いやり口だ。師匠程ではないが。



「どうだ、相棒?」


「ニィィィ、ニィ!」


 相棒の返事は少々怪しいのだが、どうやら追手は掛かっていないらしい。

 逃走経路は師匠に割り当てられている小屋へと至る道。このまま進めば朝食時にミモザさんに告げた通り、師匠の下に辿り着ける。


「やあ、カットス。もう平気なのかい?」


「なんだアランか、びっくりさせるなよ」


 突然、後方から声を掛けられて焦る。

 相棒の知覚は射程半径に限られる。射程内であれば、レーダーのような機能があるっぽい。だけど、射程外からの侵入速度があまりに速いと知覚が追い付かないらしい。例として挙げるなら、先の黒いワイバーンの奇襲がそれに該当する。

 だから、ガフィさんがとんでもない速度で追い掛けてきたのかと一瞬疑ったのだ。

 

「いつまでも休んでいられないだろ」


「君向けの仕事はたんまりとあるようだから、頑張れよ。僕は隊長たちを開拓団員に紹介して回らないといけないから、手伝えないけどね」


 アランに遅れて、ちんたらと歩いてくる三名の元ムリア騎士と兵士。

 あのミロムとかいう兵士さんも今日は明るい表情を見せていた。吹っ切れたのだろうか? 疑問ではあるが、聞くに訊けない。

 何にせよ、アランに任せておけば問題あるまい。


「でも、なんで仮面付けたままなんだ?」


「着けていないと、なんか落ち着かないんだよ。それに一応は防具の代わりにもなるし」


 アランには変な癖が付いてしまったようだ。っと、思い出した!

 ロギンさんに革鎧と鎖帷子の補修、新規で兜を作ってもらおうと考えていたのだ。

 でも、まずは師匠に話を通して、村長宅を出ると伝えておかないとな。


「じゃあ、僕は行くよ」


「おう、行け行け」


 アランたちを見送り、今度こそ師匠の下へ向かう。


「あぁ、カットス君。体の具合はもう良いのですか?」


「はい、もう平気です。無理は利きませんが」


 怪我をした俺が悪いのだが、外に出る度に似たようなことを言われ続けている。

 返答するのも好い加減飽きてきた。


「そうですか。では、ローゲンさんの下で投槍を完成させてください。相棒さんとライアンとアグニ殿が使う分を優先してお願いします」


「えっ、アグニの爺さんは村に居残りだったのでは?」


「いえ。帝都から白銀騎士団が来ていますから、村は彼らに任せることにしました。ライアンの話ではあの投槍を用いるには、そこそこの腕力と背丈が必要とのことです。ライアンは空から投げ落としたようですが、アグニ殿なら十分に活躍できるでしょう」


 それにしてもアグニの爺さんは見舞いに訪れて以来、顔を合わせていない。ミモザさんは先程会ったばかりだが、一体どこに行ったのやら?


「そのアグニの爺さんはどこに?」


「キア・マス嬢と共に巣の監視をしているはずですよ。カットス君が交戦したような異常な個体が他にも存在しないかなど、生態を調査しています。

 投槍はカットス君が樽に詰め物を施せば完成となります。残すは戦車の調整くらいですが、それが完了次第、討伐に向かうことになります。日数で言うと、今日を含めて二日くらいでしょうか」


 そういえばキア・マスの姿は、最近見ていなかった。中身のインパクトは非常に強いんだが、影は薄いんだよな。

 そして……二日。たった二日で、作り置きされた手投げロケット弾の全てに水素を詰めなきゃいけないのか。大丈夫か、俺?

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