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第二十話

「試射なんだけどよ。俺にも見せろ」


「はぁ、でも、町の外に出ますよ?」


「んなもん訓練所で良いだろ。ギリアも見たいよな?」


「うん、見たい!」


「ちゃんとした獲物が居た方がいいんですけど」


「孫連れで森なんて入れねえよ。結果次第で鉄矢を仕入れるか、考えるんだから頼むぜ」


「わかりました。冒険者ギルドの方に掛け合ってみますよ」


 町の外で適当に獣か魔物を追い掛け回した方が楽なのに。


「で、弓の試射をしたいと?」


「そうなんです。主に彼らの主張で」


「魔王様も大変ですね。構いませんけど」


「相棒がやるので、出来れば俺のことを知っている者以外は、人払いをお願いしたいのですが」


「マスターを引っ張ってきますから、訓練所の入り口で待っていてください」


 いちいちこのような手配をしなくてはならないから面倒なのだ。これが俺個人だけの問題であれば、どれだけ楽か。あれ? 俺個人の問題なのか?


「強弓の試射と聞いたが?」


「お忙しいところ、申し訳ないです」


「魔王様、マスターのことなど気にせずに」


「アグニ、ひどい扱いだな! がはは」


「やかましいぞ、ルーディー!」


 何だこの二人、知り合いだったのか? 物静かな白髭の爺さんの名をアグニというのは初めて知ったが。


「弓って扱うの初めてなんですが、どの程度の飛距離があるんでしょう?」


「普通の弓や短弓だともっと近づかないと届かないよ。でも、その弓ならもーっと遠くからでも大丈夫かな? ね、お爺ちゃん」


「ん、ああ、そうだな。ここからあの案山子までなら普通の長弓でも届く、その弓なら恐らく今の4倍以上の距離でも十分に届くんじゃねえか」


「じゃあ、とりあえず、ここら辺から。相棒頼むよ」


 4倍などという距離は訓練場では不可能だ。最初に居た位置は案山子から20メートルといったような距離だったから4倍だと80メートル。もっといけるという話だし、100メートルは大丈夫かも。

 しかも基準としているのは人の力だし、相棒ならもっと距離を稼げるのではないだろうか?


「相変わらず凄いですね。弓矢の軌道ではありません」


「普通、弓ってのはこう山なりに矢を飛ばすもんなんだが」


「直線だよ、一直線! 案山子に当たったよね? 貫通して奥の壁に刺さってるよ」


 どうしよう、物凄い威力がある。それに命中率も悪いどころか抜群だった。


「カツトシ殿は我がギルドの精鋭だからな」


 お、俺の名前をちゃんと発音してくれる人がいた! アグニの爺さん、ありがとう。なんか、弓矢もどうでもよくなってきたわ。


「こりゃ、魔王の言う通り、訓練所じゃ測れねえな」


「そうですねえ、参りましたね」


「原っぱなら良いんじゃないの?」


「平原だと獲物がね、少ないんだよ。だから俺が森が最適かと」


「おい、アグニ、この案山子借りていいか? ちょいと外に立てようぜ」


「壁の外側なら代官も文句は言うまい」


 冒険者ギルドの訓練所にある案山子は、麦藁でできた案山子で一般的な人間の身長と同じ大きさに作られている。その構造は先に杭を打ち、そこにあとから胴体部分をくっつける形だ。

 ルーディー爺さん主導の元、アグニ爺さんが協賛する形で勝手に話が進む。

 

 南門から出て町を覆う壁に沿い試射の続きを行うことになった。


「アグニの奴が呼びに来たんだが何をする気だ、魔王様」


「この強弓の試し撃ちですよ。俺は最初から森でやるつもりだったんですけど、ルーディーの爺さんが」


「俺が見たくて頼んだんだけどよ。訓練所じゃ狭くて、試射にならねえんだわ」


 今、受付のお姉さんとお手伝いの職員さんで案山子を立ててくれている最中だ。

 距離にして約100メートルといったところ、俺は十分に届くんじゃないかと思っている。


「まずはこの距離でどうでしょうか? 魔王様」


「最初から外でやればよかったんですよ。頼むよ、相棒」


「どうだ? 速くて見えねえんだが、当たったよな?」


「儂の眼には貫通したように見えたが」


「さすがドワーフ、目が良いな」


「ロワン、お主なんという弓を作るのだ! この距離でも軌道が直線ではないか」


 武具屋のドワーフ爺さん、ロワンという名前なのか……。それなりに通っていたけど、初めて耳にしたよ。

 そんなことよりも、まだ距離は余裕らしい。弓も勿論優れているけど、それを引いているのは相棒なのだ。普通に考えてはいけない。


「この弓そもそも材料は魔王様の取ってきたドラゴンじゃぞ? そこらの物と比べられんわ」


「鉄矢も重量があるはずなんだが、この倍の距離でも余裕そうじゃねえか」


「じゃあ、俺が距離を取りますよ。当たり判定の為に誰か、案山子の傍にお願いします」


「……誰も希望しないのですか? 仕方ありません、私たちが行きますよ」


 爺さんたち3人とギリアちゃんは動こうとしないので、受付のお姉さんとお手伝いの職員さんが移動していった。


「このくらいか?」


「いんや、まだまだいけるじゃろ」


「遠すぎますよ! これじゃ的が豆粒みたいですよ」


「まだ足らぬわ」


「お爺ちゃんたち、張り切りすぎ。ごめんね、魔王さん」


 先ほどまでは豆粒程度に見えていた的が、今では点にしか見えない。受付のお姉さんたちはその傍に見えるが、それでもそれなりの距離を取っているはずだ。


「相棒、大丈夫か?」


 相棒はそれでも俺の頭を優しく撫でてくれる。マジで? 届くの?


「どうだ、見えたかロワン?」


「頭に当たったと思うがの」


「ヨムルが走ってきておるな、暫し待つか」


「ふぅふぅ、あた、当たりました。案山子の頭を貫通しました」


 ロワン爺さん、どんな目をしてんだよ? あの点でしかない案山子が見えるなんて。 


「あれじゃな、案山子が柔らかすぎる。岩でも置いてみるか?」


「なら標的を変えましょうよ。誰が岩なんか置くんです?」


「魔王しかいねえだろ」


「ルーディーさん、そりゃないですよ。で、どれにします?」


「例の大岩なんてどうです? あれなら壊れても誰も損しないし、逆に大喜びでは?」


「街道建設の難関、南門の大岩か!」


「魔王、向こうだ」


 ルーディーさんが指し示す方向は、南門からまっすぐ進んだ先。確かに道を通すにしても邪魔にしかならない場所に岩がある。


「カツトシ殿、案山子の位置まで移動せよ」


「はぁ、わかりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば」



「あれ、どうしたんです、魔王様?」


「今度の的は大岩を、という話の流れで強引に。まぁ、ヨムルさんの意見なんですけど」


「災難ですね。ああ、手を振ってますね。やれってことじゃないですか?」


「少しくらい休ませてくれてもいいのに。頼むよ、相棒」


 走ったのは俺だから相棒がどうということもないだろう。案山子の位置まで来たが大岩は点ということもなく、その姿をそのまま映し出していた。


 が、次の瞬間爆散した。

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