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第百九十六話

「怪我の具合はどうですかな?」


「斥候から戻ってみれば、魔王様とライアンさんが負傷されたというではありませんか。お爺ちゃんも私も心配したんですからね! あ、あとキア・マスさんも」


「俺は大したことなかったが、魔王は半分以上死に掛けてたからなぁ」


 師匠は俺との相談を終えると、村長さん宅を後にした。夕方に到着する予定のキャラバンを迎えるため、準備に取り掛かるそうだ。

 特にやることもなく窓の外を眺め、ぼーっと過ごしていた俺の下にアグニの爺さんとミモザさん、それといち早く回復したライアンが見舞いに訪れていた。


「婚約者殿は兄さんの手伝いだ。ミラの仇が来る以上、こちらが主導権を握らないといけねえからよ」


「小僧、ミラ殿は亡くなってはおらぬ。手仕事に精を出しておるぞ」


「そうですよ、開拓団員は誰一人欠けることなく賊の襲撃を退けたんですから」


 師匠とライアンは兄弟でも性格が結構違う。

 ライアンの方が血の気が多いというのかな? 攻撃的なのに対し、師匠は超然としているというか、やたら落ち着いている。でも、それは鈍いという意味ではない。何事にも動じず、冷静に対処しているように見える。


「で、俺と魔王は謹慎だとよ。ムリア騎士への対応は兄さんと親父殿で主導するそうだ」


「綺麗に血抜きされた獣の言い訳が、ちと苦しかったからのぅ」


「でも、この村の肉不足は深刻でしたからね。ライス様と将軍様も怒るに怒れなかったのだと思いますよ? その証拠にライアンさんの見苦しい言い訳は、お二人の胸の内に仕舞ってくださったのですから」


 相棒が血抜きしたサイの存在は、確かに不自然だわなぁ。

 ライアンがタイミングよく目覚めてくれなければ、質疑の矛先は俺に向けられていただろう。村の入り口から狸寝入りに徹した俺の判断を褒めてやりたい!


「師匠は俺に何も言わなかったけど?」


「魔王は、あの黒いワイバーンに手酷くやられている。それに肉を確保に動いたのが俺の発案である以上、責任を負うべきは俺だからなぁ」


「おっと、そうだ! あの黒いのは何だ? 儂が見知っておるワイバーンとは色も形も異なる。尻尾など二股ではないか!」


「確か、こちらのお宅の裏庭に放置してあったはずでは?」


「ああ、もう回収しました」


 俺が眠っている間に、十分注意喚起はできたと思う。それにあれは元々相棒の取り分であるのだし、問題はないはずだ。


「あれは魔王の相棒が滅多打ちにしたヤツだ。俺が倒したのは普通のワイバーンだったぜ。で、斥候は巣を見つけたんだろ? 似たような個体を目撃しなかったのか?」


「儂とミモザは西方面を探っておったから知らぬ。巣は村から北東に位置しておるという話だが」


「俺と魔王は真東に進んでヤツらと遭遇戦になった。位置としては、かなり危なかったんだな。群れを相手にしてたら今頃奴らの餌食だったろう」


 知らず知らずの内に巣に突っ込んでいたとしたら? ライアンの言うようにワイバーンの餌食になっていた可能性は高い。

 俺には相棒の触手が二本しかないことは念頭にあっても、結局は相棒が何とかしてくれるという甘えがあったのだ。怪我こそ負ったものの、実際に相棒が黒いワイバーンを倒してくれたから、俺は今もこうして生きている。

 開拓団が、キャラバンが、何故団体で行動するのか? その理由を軽く見ていたことは否めない。猛省すべきだろう。


「草原の移動はそう容易くないぞ。巣に辿り着くほどの移動距離を稼げるものか?」


「お肉に牽かせた戦車なら余裕だぜ? 草むらなんざ目じゃねえよ。てか、爺はまだ戦車見てねえのか?」


「あの改造馬車ですね。それほどの機動力が得られるものなのですか?」


「何たって、魔王が考えた代物だからな。(まあ、原型を留めてないが……)

 それとあの投槍だ。近付き過ぎると巻き込まれかねないが、威力は申し分ない。ワイバーン二頭を一発で倒せたからな!」


 ボソっと原型を留めていないこと言及したライアンは気を取り直すと、手投げロケット弾を推しを始める。

 一発で二頭ものワイバーンを仕留められたのは、ライアンの切り札があればこそだ。威力だけで考えられる程、手投げロケット弾は使い勝手の良い武器ではない。


「それで酒場のメニューにもワイバーン肉が並んでいる訳じゃな」


「偵察行の最中にも少しお肉食べましたけど、やっぱり落ち着いてテーブルで食べるのは違いますね。お二人とも、ありがとうございました」


「獣肉の全部と、俺が倒したワイバーンの切れ端も村に寄付したんだ。開拓団には兄さんが保存している幼体の肉があるからよ。それで村からはお礼にって、チーズをたんまりと貰ったんだぜ? あとで魔王の取り分を持って来てやるよ」


「この村はワイバーンの所為で街道の行き来が出来ん。在庫を抱えておったのだろう。この辺りの羊のチーズは帝都でも高級品だからの」


 チーズ……やっぱりあったのか。ヨーグルトもきっとあるんだろうな?

 お酒がある以上は、発酵食品はどこかに絶対あるとずっと思っていた。

 しかも、高級品だという話。

 道理で今までお目に掛かることはなかったはずだ。武具店を除けば、俺が赴く店の多くは庶民向けか、市場のどちらかでしかないもんな。

 他の開拓村などでもたぶん作っている所もあるんだろうけど、地産地消される分と流通の関係もある。この村に在庫があったのも、ワイバーンの跳梁跋扈で流通が滞っていたからだろう。


 兄貴が『口当たりの良い日本製のチーズだけでなく、本物も食っておけ』と外国産のチーズを買ってくることが頻繁にあったから、俺は山羊のチーズや羊のチーズは食べたことはある。

 独特の風味や塩気が強いけど、俺は結構好きなんだ。だから、この村のチーズにもそれとなく期待してしまう。


「今度はチーズを使った料理を頼むぞ! 先日のクリームコロッケってのは美味かったからなぁ」


「小僧、今なんと? 儂らが斥候に出ておる間に、何ぞ旨いものを食ったのか?」


「魔王様のお料理?」


「先に断っておくけど、俺は今こんなだから料理とか無理だよ?」


 ライアン、好い加減学べよ。これで何度目だよ!

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