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第十八話

「村長からの評価も抜群ですね。これでパパム開拓村も安心でしょう」


「評価してくださるのは良いことですよ。ところで、スライムの核って買い取ってもらえるので? 何に利用できるのかも知りませんし」


「スライムの核、どの位の数量がありますか? 場合によっては私が個人的に買い取りますよ」


「どういうことですか? 数はどうでしょうか、恐らくですけど、結構な量ありますよ」


「スライムの核はですね、化粧水の材料になるんですよね。

 作り方も簡単で、水を入れた容器に核を入れるとスライムが生まれるんですけど。生まれてすぐにその核を潰すんです。すると、あら不思議、非常になめらかな化粧水が、とね」


「ええぇぇぇぇ」


「ということで、私自身でも100個くらいは買い取りたいです!」


「いや、纏めて売るのでそちらで話し合ってくださいよ」


 まさかここまで力説されるものだとは思わなかった。どこまで行っても、どこの世界でも女性は女性か、美に関する意識はどこも同じなんだなぁ。ということは、だ。ミラさんにもお土産として持っていくのも悪くない。

 それにしても、月の栄亭のおかみさんはそんなこと一切口にしなかったけど、どういうこった? ドラゴン肉の口止め料として幾つか分けるのも良い手だな。


「相棒やい、スライムの核、お願いします」


 透明な相棒の腕。まぁ、触手なんだけどね。そこから、パラパラとスライムの核が受付カウンターの上へと山のように放出された。最後には例の大粒のやつまでもが。

 スライム製の触手にこんな利点があったのか、人目を憚る場所でも使いやすいとは。


「これ、すごい数ですよ! ちょっと待っていてください、応援を呼んできます」


 走り去った受付のお嬢さんの叫ぶ声がここまで聞こえてくる。一体何人の応援を呼びつけるつもりなのか?

 応援が到着すると、皆さん女性の職員ばかりだった。目をキラッキラさせているのは、聞かない方がいいか。


「一般的に取引される大きさのものが642個。少し小さいものが267個。この特大のはひとつだけですけど、これは扱いに困りますね」


「引き取ってはいただけないと?」


「ええ、好事家でもなければ。用途に困りますから、売れませんよ」


 確かにこの大きさだと化粧水がどれくらい作成可能なのか、小粒なのを全部集めたのと同じくらいだろうか? そうするとお値段が跳ね上がると、そりゃ買う人がいないのも納得だよ。


「市場との兼ね合いもありますので、清算は後日になります。あまり大量に流通させても値が下がり、魔王様が損をしてしまいますから」


「そこら辺は任せますよ。そこまで貧しくもありませんし」


 すでに数え終わっているのに、応援の女性職員は受付のお姉さんの後方から去る気配がない。なんだろう、全員が俺から視線を外そうとしない。


「それでですね。これだけの職員が、個人的にお取引願いたいのですが」


「いえ、それは、そちらでお願いしますって言っているじゃないですか。

 冒険者ギルドで一度纏めて買い取り、その後、職員優遇価格なりなんなりでお願いしますよ」


「あっ、そ、そういうやり方があるのですね。……ミシェル、リーダーに話を通しますよ! あとマスターにも、です!」


「えっと、じゃあ、俺帰るんで」


 そそくさとこの場を去る。この後、冒険者ギルド内部で何が起ころうとも俺には関係のないことだ。

 宿に戻ろうかとも考えたが、お土産があるので師匠の家に顔を出すことにした。主にというか、ミラさんのご機嫌伺いになるけど。


――ピンポーン


「はーい。あら、今回は早いお帰りね」


「頑張りましたから(特に帰りの移動を)」


「まぁいいわ、入りなさいよ」


「いえ、特に大した話があるわけでもありませんし、お土産をですね」


「父上も留守だから、そう言ってくれると楽だけど」


「これ、どうぞ。女性には人気の品みたいなので」


「何よ、これ?」


 あれ? おかしいな。冒険者ギルドだと職員の女性が目を輝かせていたというのに。


「やっぱり、上がりなさいよ。こんなところに長居させても悪いもの」


「はぁ、お邪魔します」


 お土産を手渡しして終わりな超簡単ミッションのはずが……。師匠が居ない家に上がるとか怖いくて仕方ないのだけど、どうしよう?


「で、何なの、これ?」


「ス、じゃなくて、化粧水の材料です」


 ここでスライムの核だと答えただけではぶん殴られる未来しかい見えない。危なかった。


「これが化粧水の材料になるの? 化粧水って結構高級品よ?」


「そんなことは初めて聞きましたけど」


 高級品ね。道理で、職員のお姉さんたちが必死になるわけだ。


「水を入れた容器にそれを入れて、変化後にそいつを潰すとかなんとか。

 簡単な説明しか受けてないので、詳細は師匠にでも訊いてください」


「じゃ、ちょっとやってみましょ」


「いやいやいやいやいや、どうなるかわかりませんし、師匠と一緒にやってください!」


 俺はただお土産として持ってきただけで、事後に関しては責任は持てない。失敗して何か不都合でも起きてみろ、俺の身が大惨事だ。主にミラさんの手で。


「カットス、あんたの意見はどうせもいいの。やるのよ!」


「まじで? ……俺、今日まだ用事があるんで失礼します」


「待ちなさいよ! 何かあっても困るから、ここに居なさい」


 ダメだ、逃げ切れない。お願いします、何も妙なことは起こりませんように! 序にミラさんも怒りませんように!

 洗面器大の桶を用意したミラさん。当然、その中には水が張ってある。


「これに、この小石みたいのを入れるのよね」


 ポチャンと小さな飛沫をあげて核は桶へと投じられた。既に逃げられないが、これで完全に退路は断たれた。


「ちょっと、なにこれ気持ち悪い! 動き出したわよ」


「ミラさん、急いで核を潰すんです!」


 金槌で核を潰しているミラさん。ちょっとぉ、その金槌どこから出した?

 スライムは表面に膜を形成する前にミラさんによって退治されたのでした。めでたし、めでたし。


「あぁ、凄い! なめらかよ。手がすべすべするわ」


「よ、よかったです」


「へぇ、これは良いものをもらったわ。で、これ何なの?」


「えっ? えっとですね。ス、スライムの核です。今回の依頼内容でした」


「はぁ? あんた、私に魔物退治させたわけ?」


「いや、こういうものだと受付のお姉さんや他の職員さんも……」


「まぁ、いいわ。これはこれで使えそうだし、許してあげる」


 良いなら良いで、怒らなくても良いじゃないか! うぅ、背中に嫌な汗で冷たいよ。

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