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第百八十六話

――ピィィィィィィィィィーーーーーー!!


「何だ!? シギュルーからの警告だと?」


 周囲を見回してもそれらしい気配はない。

 逃げて行った獣が、仲間を助けに戻って来るわけじゃねえようだが……。

 警告を発しながら、シギュルーが俺の下へ飛んでくる姿が見える。魔王もこちらに視線を向け……いや、南の空を見ている?


 魔王の視線の先を追うように、上空を仰ぐ。


「クソッ、冗談じゃねえぞ!」


 ワイバーンが二頭、俺を目掛けて突っ込んでくる!

 そのどちらもが成体のワイバーンときた。

 こんなのどう考えても、俺が相手に出来るわけがねえ!

 とにかく今は身を隠し、逃げることを優先する。


 光魔法で即座に姿を消す。気配までは消せないのは承知の上だ。

 姿を消した俺を見失い、キョロキョロと周囲を見渡すワイバーンが一頭。同時に現れた別のワイバーンは、俺が一撃を加えた草食獣の腹に喰らいついていた。

 それは俺の肉なのに! 

 

「ピッ!」


 シギュルーが俺の遥か上空を通り過ぎる際、合図と同時に何かを落とした。

 落下してくる物の輪郭が徐々にはっきりとしてきて、肝を冷やす。


「馬鹿野郎! これは優しく扱わないと、ダメだろうが」


 シギュルーが落とした物は、試射のために持ち込んだ魔王専用の投槍だったからだ。

 まだ先端に着火石を装着していないが、地面との接触で暴発しないとも限らない。もし爆発に巻き込まれようものなら、ただでは済まない。

 この投槍は魔王が不思議な水を樽に込めた場合に限り、凄まじい熱と破壊を巻き散らすのだ。

 この窮地に於いては最高の得物になり得えた。


 だが、問題がある。

 この投槍は俺が扱うには長すぎる。投げる時に必ず石突が地面に干渉してしまう。

 俺には汎用スキル『剛腕』があるから飛距離を気にする必要はないが、投げるには色々と工夫が要る。

 至近距離で狙うのもマズい。爆発に巻き込まれては堪らない。

 一定の距離をおいて、狙撃する必要がある。それも、ワイバーンに感知されない死角から狙う必要がある。

 もう一本あるはずだが、取りに行く暇をワイバーンが与えてくれるとは思えねえ。


 

――ああああああああああぁぁぁぁぁ

――ニィィィヤァァァァァァァァァァ


 光魔法で姿を消したまま、投槍を持って駆け出して直ぐ。

 二つの、悲鳴にも似た叫びが響いた。

 今の声は……俺じゃなければ、あいつらしか居ねえ。

 潜んでいる草むらの草を掻き分け覗いてみれば、案の定だ。


「何だ? あの黒くてデカいのもワイバーンなのか?

 クッソ! 魔王はあんな化け物相手にしてるんじゃ、俺たちの助力は無理だよなぁ」


 シギュルー、悪いがもう少しだけ牽制を頼むぞ。

 肉を啄んでいるヤツは動いてねえ、俺を探してたヤツだけでも動きを封じてくれれば十分だ。その間に俺は奥の手の段取りを整えるからな。

 腰にぶら下げた袋を漁る。

 物を入れすぎて特定が難しいが、滅多に使わないから底の方にあるはずだ。


「作っといて良かった、蠱薬魔術用スクロール! しかも二枚。いや、今は二枚しかないことを嘆くべきか?」


 蠱薬魔術は俺が独自に編み出した魔術。とは言うものの、大半は母さんのアイデアだったりするが……、使えるのは俺だけだから俺独自の魔術で間違ってはいない。

 この魔術に用いる薬は禁制の薬に薬効がよく似ているから、その扱いには十分に気を払わないとならねえ。このヤバい薬と魔人の特性を組み合わせることで魔術としたものだ。


 っと、スクロールは使い捨てなのが痛いが、背に腹は代えられねえ。何事も生きていてこそ、だ。

 ここに一つ、距離を置いてもう一カ所、イケルか?

 スクロールを開いて四隅に石っころを置いて、と。

 薬草の茎を叩いて潰し、繊維だけを取り出して乾燥させたものをスクロールの中心に盛る。繊維に馴染むようにヤバい薬を満遍なく塗し、スクロールに描いた魔法陣に魔力を注いでから、繊維の端に着火石で火をつける。

 よし、次!


 シギュルーは?

 動き回ってるワイバーンは一頭とはいえ、成体が相手だから苦戦しているようだ。急がないと!

 二カ所目も同様に処置して、これで準備は整ったか? 急ぎな分、素手で触ったから後で綺麗に手を洗わないとな!


 辺りを見回す。

 先に火をつけた箇所から、ヤバい薬の成分を含んだ煙が草むらに広がっているのを確認できる。順調だ。

 こっちの煙が広がる前に、向こうとこっちの中間地点に移動しないと、な。


 両方とも、よく燃えているようだ。俺も少し煙い。

 魔人の眼を開いて、えーと何だったか?


「……地に這いずる小さき生命よ。我ライアンの元に集いて、一時の臣下となれ!」


 たぶん、これで合っていると思うんだが……。どうだろうか?


――カサカサ、ゴソゴソ


 よし、よし、効果ありだ!

 ……こうなると分かってはいても、気色悪いな。でも、今は我慢だ。

 こいつらは俺の大事な兵隊なんだからな。


「よーし、大量のゴミ虫隊! お前らはシギュルーに代わってワイバーンの動きを牽制しろ! 蜂隊はワイバーンの眼を狙え、潰せ! 他は……って、何で虫以外に効果が及んでいる!?」


 正直なところ、この命令口調に意味はない。

 俺自身が考えた方針を改めて整理しているに過ぎない。

 ヤバイ薬の効能で集まった蟲を魔人の瞳で操っているのだから。

 蜂や甲虫などの毒や硬い突起を持つものを蜂隊に、それ以外の雑多な蟲はゴミ虫隊だ。


 ん、どういうことだ? 前に使ったときは、小動物には効果なかったはずなのに。

 まさかとは思うが、ベルホルムス村の薬草が干渉しているのか? でも、今は薬草の成分を検めている暇などない。望外の戦力が増えたことを喜ぶとしよう。 

 俺の目の前に大人しく鎮座している三匹はスモールラビだよな? どうも、完全に操ることは不可能であるようだ。それならそれで適当な命令を与えておけば良いか。


「スモールラビ隊は尻尾を攻撃しろ! 斬っちまっても良いぞ!」


 普段、遭遇すると厄介極まる相手だが味方である今は有難い。

 空を飛べないこいつらでも、比較的低い位置で振り回される尻尾には対応できるかもしれない。

 スモールラビは瞬発力と跳躍力に優れている。たぶんイケるだろう!


「シギュルー! 来い!」


 俺の命令に従い、ワイバーンに向けて飛んでいくゴミ虫と蜂の集団。

 スモールラビも少し遅れて出撃した。

 ここから俺とシギュルーは組んで行動する。攻勢に出るぞ!

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